薔薇と食人花
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してみたいことがあったのよ。 ずっと、してみたかったの――。 あなたの気持ちが、ほんの少しだけわかります。 私もまた、ずっと、ずっと、してみたいと思っていたことがありました。 誰かを愛すること。 誰かと愛し合うこと。 誰か、男性を愛して、その人に愛される――。 それは女の子の夢。 ずっと、ずっと、きれいでひらひらとしたドレスを着る少女達を横目に見ては、そっと羨んでいた。 あなたの気持ちが、ほんの少しだけわかります。 私もまた、ずっと、ずっとしてみたいと思っていたことがありました。 愛したその人に、愛されること。 愛したその人と、愛し合うこと。 私にはあなたのような美しさはなく。 私もまた、愛した誰かを殺す運命にあるのかもしれず。 私は常に死へと隣り合う道を選び取り。 愛する誰かよりも、かならず優先させるものがあり続けて。 それでも、私の愛した彼は、共にその道を歩む人で。 こんなにも醜い私を、愛らしいといって抱きしめてくれる。 あなたの気持ちが、ほんの少しだけわかります。 私もまた、ずっと、ずっとしてみたいと思っていたことがありました。 今、私には何より愛する人がいます。 今、私には何より愛してくれる人がいます。 幸せです。 すごく暖かくて、切なくて、優しくて。 あなたの気持ちが、ほんの少しだけわかります。 あなたは愛されていました。 きっと、あなたは愛していました。 そしてだからこそ、あなたは、あなたたちは、孤独だったのだと…思うのです。 私の愛したその人は、私と同じ、常に死と隣り合わせで。 私の愛したその人は、私よりもずっと強くて厳しくて、現実を見ているのかもしれません。 そして、私の愛したその人は。 孤独ではないのです。 初めて逢ったときから、その人は笑う人でした。 挨拶をして、話しかけてくれる人でした。 孤独に閉じこもった私を、初めから、気に掛けてくれていました。 私には、あなたの肝が、ほんの少しだけ、わかるのです。 私もまた孤独で。 私もまた、ずっと、してみたいと、思っていただけなのです。 私はまったく美しくもなく。 けれど、私を愛してくれるその人は、私を抱きしめて、 私を孤独から救い出してくれるのです――。 「ア〜レン。何してんの?」 「ラビ…」 ひょっこりと肩口から顔を覗かせてきたラビに、アレンは小さく笑った。後ろからきゅっと抱きしめられて、互いの頬が触れ合うぬくもりに、アレンは物思いに沈んでいた心が春の日差しによって目覚めていくような温かみを覚えていた。 長い冬眠から目覚めるときのぬくもりとは、このような穏やかさと、そして僅かの力強さを持っているのかもしれないと思う。 「何考えてたのさ」 「なんでもないですよ。拗ねてるんですか?」 唇を尖らせて肩に凭れ掛かってくるラビに視線を向けながら、アレンはくすりと微笑う。普段はまるでのんびりとだらけた姿勢の子供のような彼は、これでなかなか大人なのだとは、悔しいが、アレン以外の彼を知る誰もが知っていた。 本当に大切なときには、いつだって支えてくれて。それができるだけの確固たる強さを持ちえている。アレンはまだまだ彼には適わなくて、それもまた、ちょっとだけ悔しくて、ちょっとだけ嬉しい。 「ラビ」 「ん?」 呼べば必ず答えてくれる彼の手に、アレンは自分の手を重ねた。 「大好きです」 自分からは滅多に云わない言葉を口にした。小さな声で、自分の耳にさえもようやく届くか届かないかだったけれど。 顔はきっと耳まで朱く染まっていて、ラビの手を握る手にぎゅっときつく力を込めれる。彼には、アレンの現在の様子など、すぐにわかってしまうに違いなくて。 そして、アレンには強い確証があった。 きゅっと瞳を閉じて待ち続ける。待つだけでいい。ほんのちょっとだけ、待てばいい。 すぐに、望むものが正しく与えられるのだから。 だって、アレンには無条件に信じられる確証がある。 私には、あなたの気持ちが、ほんの少しだけわかります。 私にもまた、ずっと、してみたいことがあったのです。 けれど、今はもう――。 「俺は、アレンのこと、いっちばん愛してるさ〜」 優しくて明るい声と共に、一番欲しい言葉を与えてくれながら、もっと、もっと力強く抱きしめられる体。アレンの背中全面に、ラビの体温が広がっていた。 きっと、彼にはアレンの気持ちなんてお見通し。 陽だまり色の髪が頬に当たり、アレンは照れたように、はにかんだ。嬉しくて、微笑んだ。 視界に写った彼もまた、アレンと同じように嬉しそうに笑っていて。アレンは自分がそのような気持ちでいるのだと、無条件の確信で知っていた。 ――それは、過去の私。 |
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こめんと |
アレンからエリアーデへ?エリアーデのことを考えるアレンみたいな? ま〜た激短いです。しかも同じ言葉の繰り返しばっかり。しつこくてすみませんが、こういう言い回し大好きなんです!(一人自己満足です)。原作が手元にないままこういう話を書くべきではないとは思いますが…。これもまた原作読み返した暁には、蒼褪めててから真っ赤になってこっそり手直しします。 タイトルは仮だったのですが、他に思いつかない上に自分の中で定着しちゃったのでこのままです。 ご意見ご感想お待ちしております_(c)ゆうひ_2005/04/12 |
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