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あなたの物語
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覚えていて。あなたたちが生き続ける限り、彼もまた、この世界に生き続けるのだから。 また、語り伝えて。伝わり続ける限り、私たちの命は続くのだから。 たとえ語られることが許されなくとも。 たとえ、語るべき名の存在しなくとも。 彼は間違いなく存在し、私は彼を愛した。 そして、あなたたちが生まれたの。 だから、ちゃんと、覚えていて。 そして、伝えて。 お願い。 「おおづちこづち?」 「知ってるよ。このあいだ、お父さんがおはなししてくれたよ」 「うん、知ってるよ。ふると体が大きくなるの」 「ちっちゃい人が大きくなって、おひめさまとけっこんしたんだよ」 母親の寝物語に、子供たちがわいわいと口を挟んだ。母親を間に挟んで、左右から次々繰り出される台詞のテンポ良さに、さすがは双子だと、母親は目を眇める。 部屋全体を照らすための明かりは消され、ベットの横に置かれたランプの、仄かな夕焼け色の明かりが、母親と子供たちを照らしていた。母子三人が共に横になっても充分に余裕のある大きなベットは、滅多に家にいることのない父親選別のものだ。たまに帰ってきたときには、妻と二人で一緒に寝られるようにと心を弾ませて購入したベットであったが、未だ彼(か)の男の希望は叶えれていない。 それも当然のことで、普段母親と兄弟と三人で寝ているのに、父親が帰宅したから突然子供たちだけで寝ろといったところで、子供たちには少々心細い話だ。何より、妻は普段家を開けている夫への――もちろん、そのことは納得済みでのことではあるけれど、感情は又別のことなので――小さな意趣返しの意味も込められている。 夫婦二人きりの甘い夜は、もう少し子供たちが大きくなるまでおあずけのようだった。 滅多に家に帰ってこない父親は、それでも子供たちにきちんと慕われているようで――それもこれも、妻が夫を愛しているという証しであろう――帰宅すると、かならず双子に囲まれて、子供特有の「構ってくれ」攻撃を受ける。 苦笑しながらも満更でもない男は、なんだかんだと云いながら、けっきょくは子供たちのことを愛しているので、子供たちに手を引かれるままに、その相手をするのだった。 遊び盛りの子供相手というのは、実はかなりの体力を必要とする。あの小さな体のどこにそんなパワーがあるのかといぶかしむほどに、幼子達は良く動き、叫び声をあげる。 件の双子も例に漏れず、時は父親の手を引き外へと遊びに出かけ、家の中ではくつろぐ父親めがけてダイブをかまし…。何をされても体力的に疲れ知らず――少なくとも子供の前では――の父親相手なので、子供たちは揃って限界知らずにはしゃぐのだった。 しかし、子供たちが一番好きなのは、父親が語り聞かせてくれる数々の物語だ。母親もたくさんの話しをしてくれるが、父親の語るそれはいつだって物珍しさと新しさに満ちていて、子供たちの興味を一身に集める。 様々な国の物語を、双子の父はまるで目の前に繰り広げられている演劇のような躍動感を持って、語り聞かせてくれるのだ。そして今、双子はその知識を大好きな母親に披露していた。 「すっごくちっちゃいんだけど、すっごくゆうかんな剣士なんだよ」 「おわんっていう、おさらに入っちゃえるんだよ」 「おにをやっつけちゃうんだ」 「剣はね、針なんだよ」 「それは、一寸法師ね」 子供たちの語る言葉は断片的で、順序だても無く要領を得ない。けれど、過去に様々な国を――強制的に巡らされた記憶のある彼女は、それがいったい何の物語であるのかを、きちんと掴み取ることができた。 思い出したことに、やわらかだった慈しみの笑みが、おかしさに深まる。 (神田の六幻が、針の形だったらおもしろかっただろうな) かつての仲間の出身国と武器を思い浮かべ、アレンは胸中で笑った。こんなことを考えていると知られれば、彼の人は烈火のごとく怒り狂うに違いない。 (ねぇ、あなたがいない間に、別の男性のことを思い浮かべてますよ) 彼女はこの場には居(お)らぬ夫へと、胸中で語りかけた。 このことを知れば、少しだけ機嫌を悪くして、きっと、抱きしめてくれる夫である男の腕の強さが思い出される。 それはいつだって、彼女にとってあまりにも甘い檻だった。 「一寸法師に出てくるのは、打出小槌」 「うちでのこづち?」 「お母さんがお話してるのと、ちがうの?」 「ちがうの?」 首を傾げて訊ねる子供たちに、母親は微笑を深くして答えた。 「打出の小槌は宝物だけど、大槌小槌は武器なの」 「ぶき?」 「つよいの?」 「おにもたおせる?」 「たおせるの?」 「鬼はわからないけれど、アクマをたくさん」 「あくま?」 「あくま?」 子供たちが首を傾げる。 母は僅かに目を伏せた。 (この子達は、アクマを知らない世代――) そして、知る必要のない未来。 もう二度と、あのように悲しく、愛しい兵器の誕生などこなくてもいいのだから。 「そう、アクマ…」 もう、二度と――。 「大槌小槌っていう、イノセンスを操ってアクマと戦った、とっても強くてかっこいいエクソシストのお話」 「いのせんす?」 「えくそしすと?」 初めて聞く言葉に、子供たちは再び小首を傾げ、母親はその姿に目を眇めて微笑んだ。ほんの僅かに、淋しさを含んだ笑みだった。 アクマ、イノセンス、エクソシスト――。 やがて、それらの言葉の意味を子供たちが理解したときに、それは、彼女の語る物語とは別のものとして、彼らの現実に受け入れられていくのだろう。 悪魔は神の敵で、人を惑わすものたち。エクソシストはすなわち悪魔祓いで、教会の認めざる戦士たち。 けれど、それでいいのだと彼女は思う。 これは、これから子供たちはなすその話は、「物語」なのだから。 虚構のお話なのだから。 だから、 彼女は小さく息を吸った。緊張のためだった。 子供たちはそんな母親の様子には気づくはずもなく、物語の続きをじっと、その大きな眼(まなこ)を見開いて待っている。 まっすぐと見つめてくる二つの視線に、母は微笑と共に語りだした。 「その、エクソシストの名前はね――」 それは物語。 虚構の出来事。 語られぬことを許されなかった歴史は。 つまり、命を絶たれるということ。 けれど、存在しない彼らが語り伝えることで。 語ることの禁じられた歴史(ものがたり)の登場人物たちは、生き続ける。 では、それを語る存在せぬ者たちは、誰が、語り伝えるのだろうか。 だからお願い。 |
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こめんと |
「あなたの名前」と同じ設定で。元ネタはFF9のエンディングテーマから。 え~っと、元々物語りというのは「嘘」=「虚構」のお話のことを云ったもので。アレンはラビの存在がこの世から消えてしまうのに耐えられなかったようです。だから、「嘘」としてなら、まだほんの少しだけ赦されるかもしれない。虚構の出来事の人物としてなら、その存在を、名前を残せるかもしれない~と考えたのかな?ちょっと上手く説明できない…。 突然思いついて一気に書き上げましたが、あまりの疲れに極限の眠さを堪えて書いているので、文章の出来とか良く分かりません。変だったら教えてください。この後として、ラビ帰宅時に子供たちがアレンから聞いた「ラビ」の話をラビに話してラビびっくり&アレンを見つめてちょっといろいろ苦しんでくれたりとしか…。ラビとアレン、二人の切ない愛とかも妄想中。でも読みたい人がいるのかは不明。書き上げられるのかはもっと不明。 ご意見ご感想お待ちしております_(c)ゆうひ_2005/05/26 |
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