衣替え
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雨の後。蒸す夜に寝苦しいからと薄手の服を出し始めると、次の日には空気が冷えて寒いと騒ぐ。そんな夏の初めが過ぎて、気がつけばもう秋の月。 沈む日の速さと、明々と冴え渡る月の光の増す様子を、一日毎に感じながら。 窓から夜空を眺めていた首を巡らせば、仲良くベットの中で寝息を立てる我が子の姿に、知らず笑みが浮かんだ。 旦那似の双子がいつでも元気で。時々――或いは毎日――、振り回されていると感じる。いったいどこから出るのかと思うほどのパワー。 こうやって眠っているときは、まるで『天使』のように愛らしいのに――。 眠る子供達のふわふわの髪をそっと撫でながら思う。そしてふと脳裏を過ぎった考えに、一人、慌てたり照れたりと忙(せわ)しなく百面相。誰も見ていないし、見ていたところで声に出したわけでもないのだから、誰にも気づかれるはずもないのに。 頭には勝手に血が上り、頬が熱を持って赤く染まっているだろうことをまざまざと感じる。 眠りこけている『彼』の寝顔も、まるで『天使』のように愛らしい――、だなんて。そんなこと。 ああ、どうしよう。とても逢いたくなってしまう。 逞しくて、頼りになって。一緒にいるとどきどきして、苦しくて、それ以上に幸せで。どんなときでも笑ってくれて、楽しくて。 いつだって、私を笑顔にしてくれる人。 いつだって子供のように元気で、けれどいつだって私よりも大人で。 寝てるあの人の横顔なんて、滅多に見せてくれなくて。 けれど、どれがとても穏やかで格好良くて。愛らしくて――。 ベッドに腰掛けて再び窓の向こう。月明かりを見上げた。 朝夕に掛けて雨が降った夏の終わりの今日。『寒い、寒い』と騒いで、秋服を出すようにせがんだ子供達。 夜には上がった雨は、冬へと傾きだしたこの季節と合わさり、翌朝の空気を冷たく冷やすだろう。 子供達は出したばかりの服にご満悦で、けれど昼ごろには暑さに耐えかねてまた騒ぎ出す。 まだまだ強い日差しは、少しくらい冷えた空気などすぐに暖めてしまうのだから。 炊事に洗濯。買い物に掃除。子供達の相手は、母親一人の手には余るのだ。 けれど父親は不在が多く、それでも愛してやまないそのことにが不思議で仕方ない。 子供達は不在の父親の存在を、母が父を思うそのことから常に感じているらしい。たまに帰ってくる父親を迎えるそのとき、子供達は『いつも父親が帰ってくるように』迎える。 まるで毎日、顔を合わせて団欒をとっているかのような。 ………。 ああ、もう本当にダメだ。どんどん我儘になっていく。 あなたの部屋。いつだって誇り一つないように掃除してあるわ。 あなたの好きな紅茶。好みの献立だって、あなたがいつ帰ってきてもすぐに食卓に並べられる。 帰ってきたらすべての旅装束を洗濯機に放り込んだって、あなたは着る服に困りはしないわ。匂いだっていつも洗い立ての清潔感を。 もうすぐ新しい季節がやってくる。あなたがこの扉を笑顔で開けて、子供達にも劣らぬ元気な声音で『ただいま』を云ってくれるのと、どちらが先かしら。 ひとつ。 季節の移り変わりを感じる度に、あなたのいない日々に思いを馳せ。 ひとつ。 何気ない日常にあなたを思い出しては、僅かの切なさと、それを大きく上回る暖かな幸福を胸に抱き。 今日もまた、夜は更けていく。 |
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こめんと |
ちょっと最近、原作の展開から二次創作に手を出せずにいましたDグレ。なんだかいろいろなことを自分の中で消化しきれずにいます。通勤途中で爽やかな冷たい風を感じなければ生まれなかったこの話。かなり短い突発物ですが、こういう何気ない感動を物語にするときに幸せを感じます。何気ない風景に幸福を感じた今日の思いを、アレンママに詰め込みました。原作からかけ離れすぎたパロじゃないと手が出せないくらいにDグレのキャラを書くのが難しくて難しくて仕方なく感じられてしりごみ中…。最後の一文の後に、アレンママの満ち足りた、幸せそうな笑顔を思い浮かべていただけたら大成功。上手くいかなくて何度も何度も書き直しました、 ちなみにゆうひは持ち服が少ないので衣替えの必要がありません(笑)。←あくまでも収納上手と言い張ってみましょうか…。 ご意見ご感想お待ちしております_(c)ゆうひ_2006/09/02 |
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