触れられるほど近く
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人はいつの時代も、より遠くへ遠くへと行くことを願ってきた。 新しい土地へ。未知の世界へ。 海から陸へ上がった生き物たち。 陸から海へ。海から空へ。空から宇宙へ。…――今度は、どこへ行こうとするのだろう。 陸の上を歩ききることだって、実はできてもいないのに。北も南も厳しすぎて、それでもなお足を向け、その身をとどめる理由はなんなのか。 海の底はあまりにも深すぎて、そこで息をすることはおろか、辿り着くことさえ容易ではないのに。闇を恐れながら、真の静寂への安らぎと危険の二律背反に抗うことはできず。 空は広大で、そこでは自由であるなどとは幻で。本当は、羽を休める宿木のどこにもない孤独の世界であるにもかかわらず。あまりにも広いため、目が眩む。 空を突き抜けて、新しい世界へ飛び出すの。そこは呼吸もままならぬ、灼熱と極寒と。 私たちは地獄を思い描き出し、それを恐れながら、ああ。 気がつけば、それにあまりにも近い世界へと恋焦がれている。 恋焦がれたその先端に触れ、それが夢だけの美しいものでないと知りながら、その手を離せずにいる。 私たちは、侵蝕していく。 地獄さえ、私たちは侵蝕していく。じっくりと、侵していく。 夢見た天国は地獄の如き厳しい世界で、天国など在り得ぬと知り。それを認めたくなくて、なおも古い夢に縋りついて離せない。地獄を天国に変えたくて、いつか、そこが夢にまで見た楽園だという希望を棄てられなくて。 私たちは歩き続ける。遠くへ、遠くへ。 私たちは挑み続ける。遠くへ、遠くへ。 どこまででも行けると、どこまで行けるのかと。 そんなに遠くまで行って、何がしたいのかと。問う私に、あなたは怪訝な瞳を向けて顔を顰める。 アレンはラビの胸に顔を埋めた。 そのぬくもり触れ、瞳を閉じた。 頬を摺り寄せれば、アレンの体を抱く彼の腕の力が強まる。 そのことに、アレンは胸の奥でえもいわれぬ、昏い満足感を得るのだった。 遠くへなんて行かなくてもいい。でも、どこへ行ってもいい。 あなたがいる世界なら、そこがどんな世界だろうと構わない。 ただあなたに触れていたい。 そこが見知らぬ世界でも。 そこが厳しい地獄でも。 あなたを感じていられるのなら耐えれる。 夢にまで見た天国よりも。 希望に溢れた新世界よりも。 あなたに触れられる距離であなたを感じる。それこそが、私に、この世にあるすべての幸福と呼ぶ感情を与えてくれる。 いったい私たちは何に、そんなにも恋焦がれているのだろう。 いったい、私たちはどこに行きたいというのだろう。 知らないから惹かれるのか。未知の持つ魅力に魅せられて、人はそれにとり憑かれやすいという。 知らないことを知りたい。 できないことをできるようになりたい。 不可能を可能に。 失われたものをもう一度。 それは理屈さえ介入のできない純粋さ。ただ湧き上がる。 それが恋。 それはあまりにも一途な思い。 あなたがいるだけで幸せ。 幸せをくれるあなたに追いつきたい。 追いつきたくて手を伸ばす。手を伸ばしても届かないから走り出す。 ただそれだけのことだったのに、どうしてこんなところまで来たのだろうかと、ふと振り返り、誰かが呟く。 憧れの天国は遠く、そこは地獄だった。 けれど、あなたはそこが極楽だと笑う。夢にまで見た楽園だと至福に酔いしれて円を描く。 踊る。 最近になって私は気がつく。 辿り着いたその形が違っているけれど、私も同じだと気がつく。 そこは他人から見ればあまりにも厳しく辛く激しい地獄の如き世界。否、きっと、そこを地獄と呼ぶ人もいる。 けれど、私はこの地獄にいることで、彼に触れるほど近くにいられる。 なぜこんなところにいるの? なぜそんなところへ行くの? こんなにもつらいのに。 こんなにも厳しいのに。 もっと楽な場所はいくらでもあるのに。 その楽な場所で行くことさえ儘ならない私たちなのに、なぜそんなにも遠くばかりを求めるの。 そこへいたって、つらいことばかりなのに。 いつか、命さえ失ってしまうかもしれないのに。 問うあなたに、私は心から湧き出(いず)る至福の微笑を贈る。 だって、そこでなければ彼はいない。 だって、そこでなければ彼の近くにいられない。 そこでなければ、彼に出会うことさえできなかった。 ここ以外のどこで命を失っても、ここで命を失う以上の幸福には出会えない。 |
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元ネタはガンダムです。種運命第一期EDがイメージソング。種の最終回、キラの台詞と妙に絡み合って筆が進んで行きました。あとはこの間打ち上げられたNASAのスペースシャトル。ニュースでそればっかりやってますが、正直どうでもいいので切れてます。だってもう打ち上げちゃったんだからしょうがないじゃないですか。当事者以外が横から何を云ったって無意味です。救ったり改善したりするだけの技術もお金も提供できないですし。所詮は机上の空論です。そんな気持ちを抱えて殴り書き(ってほどスムーズではなかった作品ですが)。私が文章を書くときは、基本的に「キーワード」となる一言(時には二言、三言)がぐるぐる頭の中を回り続けている状態にあります。リフレイン〜。例えば歌で、続きが思い出せなくて、同じ部分だけを繰り返し歌っているのに似た状態です。繰り返されるたったその一言を伝えるために、延々文章を積み上げていきます。直接的な言葉はタイトルだったり前後の詩になってたりします。 本文が四行というけしからんさという初の試みです。できるなら一行にしたかったくらいです。いかがでしょうか?決して手抜きではなくて…。なんか、そんな雰囲気を出したかったんです。 ご意見ご感想お待ちしております。_(c)2005/07/31_ゆうひ |
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