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 関係ない、そのこころが真実ならば 







あなたのすべてを愛してる。それが私の真実。







 恐ろしいあなたの姿に、私は恐怖に震えた。
 恐怖に震えた私にあなたの瞳は悲しみを写し、あなたはそれを隠すかのように上回る怒りを顕わにした。
 愛を得たいのならば、あなたから愛さねばならないと。
 あなたは長い時間、それに気づかず無駄な時間をただだらだらと浪費してきた。
 愚かなあなた。
 獣の姿になっても、あなたは何も気づかないまま。
 人の姿に戻っても、あなたは何も理解しないまま。
 愚かなあなた。
 結局、あなたは我侭で自分勝手な王子様のまま、なんの成長もしていない。
 あなたが元に戻ることができたのは、ただ私が現れたから。
 我侭で、愚かで、馬鹿でどうしようもないあなたを、心の底から愛してしまったあなたが現れたから。
 ただそれだけのこと。
 あなたは私があなたを愛するために、私を愛してもくれなかったし、あなたは私の愛を得るために、私を心から信じることもしなかった。
 あなたは私の愛を得るために、ただ私を接待しただけ。
 愚かなあなた。
 愛に姿など関係ないことに、未だに気づかないまま。
 愛には心根さえ関係ないことに、未だに気づかないまま。
 結局あなたは眼に見えるものだけにしか真実を確認する術を持たず、今も私を疑っている。





「アレンは、ユウのことが嫌い?」

 ラビに優しく問われれば、アレンに答えを返さずにいることなどできはなしない。それでも誰かに対する負の感情を、もっとも愛しい彼に暴露するに、言葉はあまりにも強烈過ぎて。
 アレンは黙って、こくりと一つ。首を小さく縦に振った。

「ドシテ?」

 ラビの声は相変わらず優しい。まるでアレンの全身を優しく抱きしめてくれているかのような錯覚を、その声音が耳を震わすごとに感じられて、アレンは頬を薄く染める。
 そんなふうに優しくされて、どうしてアレンにそれを跳ね除けることができるのだろう。そんなことできるはずもないのに。
 アレンには小さく、それでも偽りなく答えるほかに答えがなかった。

「だって、僕よりも、ラビのことをたくさん、知ってるから…」

 そっと上目遣いでラビの様子を伺えば、暖かい微笑を湛えたままにアレンを見守っていてくれている。アレンはその瞳に自らの心が暴かれていくような錯覚を覚えた。
 嘘も醜い嫉妬も、それを隠すための壁も、彼の前では脆くも崩れ去る。そんな錯覚。

「嫌いです。ラビのことを知ってる人は、みんな嫌い。…どうして、僕が一番初めに、ラビに会えなかったんでしょう。どうして、僕よりもラビと一緒にいた人が、こんなに多いんでしょう。僕は、みんな、嫌い…です、」

 アレンの声が僅かにしゃくりあげていた。涙がそっと頬を伝って流れ落ちる。
 こんなに我侭になったのは初めてだ。初めてで、この感情をどのように処理すればいいのかが分からない。
 分からなくて、どうしていいのかがわからなくて、鬱屈するように滞る感情は行き場をなくして、涙となって溢れ出る。泣き叫びたいわけではない。本当は泣きたくなんてない。けれど、行き場をなくした溢れ出る感情は、後はもう涙となって溢れるしかない。

「じゃ、一緒さ」

 頭の上に優しく触れたぬくもりに、アレンの涙は一時(ひととき)止まる。瞳が僅かに見開いて、涙に濡れた銀灰色の瞳の焦点が定まらぬうち、今度は頭から引き寄せられてアレンの体が横に傾(かし)いだ。
 ぽふんっと、軽やかな音と共にアレンの頭はラビの胸に当たり、そのまま抱き寄せられる。やがて視界が暗くなり、ラビの手の平がアレンの視界を塞いだのだと気がついた。
 頭上から降り注ぐ優しい声音は、まるで綿菓子のように甘く、アレンを身の内からとろかしていく。

「オレも、アレンをオレよりも知る奴ら、みーんな嫌いさ」
「ラビ…?」
「オレより先にアレンと一緒に任務に行ったユウも、アレンといつも一緒にいるリナリーも。ティム・キャンピーの記録映像で、ここに来る前のアレンのこと知ったコムイも。クロス元帥も嫌いだし、アレンの大好きな『マナ』なんて、一番嫌いさ」
「……」

 何を云っていいのかわからず、アレンはラビの表情を伺った。見上げたそこには穏やかに微笑むラビの顔があり、アレンを見つめるその優しい眼差しに、アレンはほんのりと頬を染めた。

「ラビは…『マナ』が嫌い?」
「うん」
「知らないのに?」
「だって、アレンが『一番』好きなんでしょ?」

 ラビは微笑んだままでアレンに問う。
 アレンはなぜだか急に不安に襲われて、ラビに腕を伸ばした。触れた服を掴んだのは、ラビがどこか遠くへ行ってしまわないように。小さく掴んだのは、縋りついて振り払われるのを恐れて。
 何がこんなに不安なのだろう。何をそんなに恐れているのだろう。
 ラビが怖かった。ラビと向かい合っていることに、どうしようもない不安に襲われた。

「でも、ラビとは全然違うのに?」
「でも、アレンはオレより『マナ』が好き?」
「……わかりません」

 ラビとはいつだって一緒にいたくて。ラビにはいつだってアレン自身のことだけを考えていて欲しくて。ラビの一番が、いつだって自分であれはいい――と、アレンは思っている。
 強く強く、こんなに我侭に思うのは初めてで、その思いのあまりの強さに、大きさに、激しさに、胸が苦しくて涙が溢れる。

 マナは一番大切。一番初めに愛をくれた人で、一番幸せになって欲しかった人。悔やんでも悔やみきれない後悔と、いくら謝っても足りないほどの罪を犯して、それでも愛しい人。
 思い出は優しくて暖かかくて、苦く、辛く、痛い。

 ラビを思うとき、そこには痛みばかりで。どこまでも切なくて痛い。
 けれど、何よりも愛しくて、哀しい。

 この違いを、どのように言葉にすればいいのだろう。
 この違いを、どのように表現すればいいというのだろう。
 どちらも一番で、けれどまったく違う一番で。

「それでも、ラビの側にいたいんです…」

 ラビに一番に思って欲しい。
 ラビの一番であり続けた。
 ラビだけのものでありたいとさえ思う。
 こんなにも我侭になるのははじめてのことで、この激しい感情とどのように付き合っていけばいいのかが分からない。

 云えば、霞みはじめた視界にラビの晴れやかな笑顔が写った。

「だからそれも、アレンと一緒さ」

 あなたの想うすべての人が嫌い。
 でもね、あなたが私の隣にいて。
 私だけを見てくれて。
 キスをして見たり、抱き合ってみたり、お互いしか見つけられない距離で感じあってみたり。
 あなたが私の一番近く、感じられるときだけは。
 あなたが私だけを想ってくれているそのときだけは。
 そんなときだけは。

「そんなこと全部、どうでもよくなっちゃうんさ」

 だから、もっと一緒にいよう。
 ずっと、一緒にいよう。
 いっぱいいっぱい、お互いを感じあおう。

 銀灰色の瞳がいっぱいに開かれる。抱きしめられ、アレンはその鼓動が一瞬律動を止めた気がした。
 もっと、もっと。
 息が詰まるくらいに抱きしめて欲しいと。
 そんなことを考えてしまったことに気がつき、急激が顔に熱を持つ。けれど、ラビもまた同じことを思ってくれている。そのことに、アレンの心の真ん中がふんわりと温かくなる。
 頭に熱が集まるのを認識して、その気恥ずかしさに、熱はさらに増すばかりだった。

 ラビの手に導かれるままに顔を上げれば、ラビの隻眼の瞳とぶつかる。近づくそれから視線をそらせずにいると、唇に触れるやわらかな感触を感じた。
 さらに瞠目するも、それも一瞬のこと。触れる熱の心地良さに、アレンは瞳を閉じた。

 私の全部全部、あなたのものであればいいのに。
 あなたの全部全部、私のものであればいいのに。
 醜く歪む私の感情があなたに知られることを恐れ、あなたが私に同じ感情を抱いてくれることに、どこまでも悦び感じる。
 あなたが私の中に流れ込み、私があなたのすべてを満たして、永遠に、あなたと私、互いだけを感じてたゆたっていられればいいのにと。
 醜く歪んだ感情を、あなたにだけは知られたくないのに……。





 あなたもまた、私を独占したいと。
 そんな嬉しいことを云ってくれる。





 愛は我侭。我侭で謙虚。強気で臆病。
 愛は矛盾。
 優しくて切なくて痛くて。その理由を、どうして言葉にできるというのか。
 愛を言葉にしろなどと、そんな愚問をあなたは私に要求する。
 あなたに限らず、愛するものは自分の愛を語れもしないのに、相手の愛を形で欲しがる。
 美しい姿と、高貴な立ち居振る舞いと、裕福な富と。
 あなたはそれが女性の「愛」を受ける必要不可欠なものだと、一番の、そして唯一の要素だと信じている。
 そして、あなたは信じている。
 美しい容姿。それが、男性が女性を愛するすべての要素だと。
 愚かなあなた。
 獣の姿をしたあなたを。乱暴で我侭で、馬鹿で心根の貧しいあなたを愛した私の心を、人の姿に戻っても尚疑っている。
 関係ないことだと、私はそれを無視して知らない振りをし続ける。
 あなたが私を愛していることは疑っていないけれど、それが私のあなたへの愛とは違うことを知っている。そして、違うからこそあなたは私を疑っている。
 あなたが私を愛したのは、私の容姿が美しいから。
 私があなたを愛したのは、あなたがどうしようもなく愛しくなってしまったから。
 だからあなたは疑っている。疑い続けている。
 なぜ私が獣のあなたに口付けたのかと。
 なぜ私が獣のあなたを抱きしめたのかと。
 なぜ私が獣のあなたに抱かれたのかと。
 そして、姿の変わった己に、尚も獣のときと「同様」の愛しか抱かぬ私を。
 獣になっても、真実の愛を得て人の姿に戻れても、あなたは何も得なかった。何も理解できなかった。
 愚かなあなた。
 結局、あなたは「愛」理解できないまま。
 それでも、そんなあなたをどうしようもなく愛しく感じる私。
 獣だろうが人だろうが、あなたの姿がどれほど大きく変わろうとも、あなたの真実は変わらない。
 我侭で下品で醜くて、心底から心根が腐り切っている。馬鹿で愚かな、愚かなあなた。
 そして私はそんなあなたを愛しいと思う、救いようのない女。
 我侭な子供孤独に触れて、それを優しく包んであげたいと思ったの。感じてしまったの。
 その淋しい手を、握り締めてあげたいと。
 それはあなたが人の姿に変わっても変わらない。
 そうよ、私にとって見れば、あなたの元の姿は「獣」なのに。人の姿になったところで、我侭で下品なあなたの心根は変わらないのに。
 だから、私のあなたへの愛もまた、変化するわけがないのに。
 ああ、愚かなあなた。
 それでも私はあなたをどうしようもなく、愛しく感じてしまっている。







けれどあなたは疑い続ける。あなたを愛した私の心を。









talk
 実はとっても早い段階ででき上がっていました。六月の…お題の4番を書き上げる前に思いついたのかな?なのでちょっとコンセプトが似通っています。…とかいいながら、出だし意外はすっかり忘れていたので逆にまったく違うものになったかもしれない。自分ではよく分からない。アレンの嫉妬とか、すごいどろどろしたラビへの感情を書きたかったんですけど…いつものごとく不完全燃焼気味。
 風邪で熱があるので頭が痛いです。あんまり頭が働かなくて文章とか同じ言葉の繰り返しで頭が悪そうですね。すみません。許してください。ごめんなさい。
 ご意見ご感想お待ちしております。_(c)2005/08/16_ゆうひ : 2005/08/18_一部増補改訂。
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