+ 孤影に手を伸ばし +










孤影に手を伸ばす










「裏切り者のコーディネイター」

 その言葉がひどく重く、胸に突き刺さり。
 まるで底無し沼を沈むように、僕の深淵へとゆっくりと、音もなく沈んで行くような気がした。





 ―――裏切ってなどいない。


 僕の中で何かが、静かに語り続けていた。
 瞳を閉じれば、見えるのはただの闇。ちらつく、まるで星のような光も今は見えない。
 火花が散っているのは、瞳の奥ではない。
 心の奥だ。

 深い深い、自分でも知らないような暗く深く、そして静かな水面(みなも)。
 それが自分の中のもっとも深い部分なのか。それともまだこの先には続きがあり…たとえば、この水面の底。
 そこは、まだ暗く昏く、きっとここよりもずっと静か。
 そんな気がする。

 ここはほんの入口なのだ。
 もっとも昏く、けれど清らかで、ただ静かな世界。
 それは音が響いていないのではなく、ただ静かなのだ。
 まるで月夜のように。風のように。木の葉がさざめくように。果ても無く、波が引き、また打ち寄せるかの如く、静かなのだ。

 そして響くのは声。

 それは僕の声だった。
 それは叫びだった。

 声は叫ぶ。
 僕が叫ぶ。


 ―――僕は、裏切ってなどいない。


 誰も彼もが大切で、僕は僕が願う通りの人生を歩んできたわけではないけれど、それでも、本当に大切なものは失っていないつもりだ。
 この世界にはいつだって争いが沸き起こり、けれど僕はそれを心から嫌悪しよう。
 争いをとめるための争いなどいらない。

 すべての争いを、僕は嫌悪しよう。

 嘆きの夜が明けずとも、僕は光を見失わない。
 それが僕にとってのみの、勝手な思い込みの光でも、僕はそれを光として胸に抱こう。
 この光が、僕をぎりぎり繋ぎとめていてくれる。

 湖面に反射する陽光のように、葉に依る朝露の光のように。

 この手が穢れていくのを、僕はそんな言葉で終わらせようとは思わない。
 この世界には2種類の人類が生まれ、けれど僕にとってその違いはないから。
 そんなものは違いではなく、ただ、好きな人と嫌いな人。大切な人と、そうではない人。

 僕にとって大切でない命などないけれど、大切の優劣はあるんだよ。
 それは、すべてにおいて。

 僕はその心のままに。


 僕は裏切ってなどいない。
 誰も裏切ってなどいない。

 だって、僕にとってはすべてが味方。
 すべてが大切で、愛しいもの。


 愛しくて、愛しくて、僕はすべての味方だよ。


 そして、僕はすべての敵になる。










月は深淵に浮かび
水面に景堕とす

湖面は揺れて光り無し
夜に風吹き光り成し
そして露堕つ光り生(な)し


僕は孤影に手を伸ばし
ただ一人

彼と共に歩むのだ


すべて愛しいこの「いのち」

僕はすべての敵になる










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 あとがき +------------------------------------------------------

 なにが書きたかったんだかさっぱりです。
 突然思いついて思いつくまま書いてしまいました。
 それでも、ご意見ご感想頂けたらかなり嬉しいです(切実)---2002/11/13

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