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+ 砂漠の旅人 +
こんなにも広大な世界で、僕はただ足掻き続ける。
この広大な世界。 風が吹き、砂粒たちは流されていく。 小さな粒は、大きな奔流に流され、その意思もないままに見知らぬま所へ落ち着いて…また、流される。 けれど。 けれど。 この広大な世界。 小さな粒によって、形作られている。 どうすればいい。 どうすればいい。 この醜い姿を、僕はどうすればいい。 砂漠に吹く風が、明るい茶の髪を揺らして彼の横を通り過ぎて行った。紫電の瞳が見上げる空には、沈みかけた…真昼よりもまばゆい太陽。 地平の彼方には朧な光の靄が立ち込める。 このまま、この躯が砂粒に分解されて。 このまま、風に流されて。 醜く腐っていく僕の躯。 その、腐敗を止める術(すべ)は、どこにあるのだろう。 戦争を終わらせる術など、いくらでもある。誰だって、そんなこと知っている。 なんで、誰もそれをしないんだ。 なんで、僕にはそれができるの。 力なんて、技術なんて、持ちえていなければよかった。 守る力があるから、僕は守りたい思いのままに何かをせずにはいられない。 何かをする力があるから、何かをせずにはいられないから、僕は―――。 「久しぶりだね、アスラン」 「キラ…」 「驚いた?」 翡翠の瞳が痛むように細められた。 紫電の瞳が穏やかに微笑(え)むように細められた。 「僕のことは、君が一番知ってる。僕の身体、このまま腐って落ちちゃうよ…」 「キラ。プラントに来い。こちらになら、治療する術がある」 「この間、薬が切れちゃったんだ。医療室に行ったんだけど、材料になる薬品すらなくて、もう…いいかなって」 「キラ!!」 叫び声に、言葉が途切れ。 再び、穏やかに始められる。 「出会わなければ、良かったのに。君に出会わなければ、僕、コーディネイターを、倒せたのに」 「プラントのメインコンピューターに侵入したのは、お前だな」 「バレた?」 「…お前ならそうするだろうと思って調べてみた。痕跡が欠片も見つけられなかった」 少しは悪びれるふりくらいしろ。と、翡翠の瞳はあきれたような、寂しそうな様子で微笑む。 「なんにもしてないよ」 「異常も見つけられなかった」 「役にも立たないからね、何もしなかった。そんなところに保存しなくても、何かを忘れたりなんてないもんね」 役に立たないはずがない。 プラントは死の海に浮かぶ、機械仕掛けの儚い孤島だ。ちょっとしたことですぐに鉄屑になる。 鉄屑にするのに最も手の掛からない方法が、そこにある。 「アスラン。君に、伝えたいことがあるんだ」 |