□ ぼくのこたえ □




君が信じるものは何?








 君にはじめて逢った日のことを、今でも大切に憶えている。
 僕と君のはじまりの日。
 今でも、大切に憶えている。
 そして、あの再開も。

 僕らは幾度の始まりを経験した。
 僕らが出会い、別れ、再会し…別離を越えて、今、再び出会う。

 そして、それが、もう一つの始まり。


「アスラン…」

 君が僕の名を呼ぶ。
 そのたびに、僕の心が春の風に包まれたように穏やかになる。

「キラ」

 僕が君の名を呼ぶ。
 そのたびに、君は春の陽光のようにおだやかに微笑む。

 僕は、それが嬉しい。
 ずっと、それだけを求めていた。
 ずっと、それだけが欲しかった。

 ここに来るまでの間、ずっと考えていた。
 僕は何をするべきなのか、君は何をしようとしているのか。
 彼女の云っていたことの意味。

 そして出た答えは、ただ、君の傍に居たいのだということ。

 君を永遠に失ったと信じたあのとき、僕の中のすべてが悲鳴をあげた。
 自分が生きていると知ったとき、君の隣にいられぬことに身が引き裂かれるようだった。
 生きている限り、僕らは何かと戦い続け、けれど、なぜ、僕と君が離れ離れにならなきゃいけないというのか?
 生きている限り、人は戦い続け、そして、僕らは今、戦争と戦っている。
 けれど、なぜ、僕と君が敵対して戦わなければならない。
 共に戦えるのであれば、誰と戦うことになろうとも、何に立ち向かうというのであろうとも、こんなに、苦しくもないのに。かなしくもないのに。
 ただ、君と一緒にいられるのなら、それだけで、どんなことだって乗り越えられるのに。
 君が居ない。
 それだけが、こんなにも辛い。
 君が僕の隣にいる。僕は、君の隣にいることができる。
 それだけが、こんなにも、しあわせ。

 生きている限り、僕らは何かと戦い続け、僕は戦場へ赴くことを選び、けれど、君から離れているつもりは欠片もなかった。
 そして再会して、僕は信じて疑わなかった。
 君が、僕の隣で歩き続けてくれること、僕が、君の隣に居続けること。
 それを、君が許してくること。
 疑っても、いない。

 君が僕から離れていく。
 僕は、君に、君の隣にいることを、拒絶された。
 そんな思い。
 だんだんと、僕を絶望が覆っていく。

 生きている限り、僕らは何かと戦い続け……。
 ああ、そうか。
 生きているから、僕らは今、こうして、戦い続けなければならないのだ。
 僕が君と戦うこと。
 君が僕と戦うこと。
 すべて、僕らが生き続けていること。

 ならば、続けることを止(と)めればいい。

 また、一緒に歩こう。
 あの、桜並木の下を。
 また、一緒に食べよう。
 君の好きなアイスクリーム。
 また、一緒に遊ぼう。
 君の夢中になってたゲーム。

 また、僕の隣に居て。
 そして、僕の名前を呼んで。
 僕も、君の名を呼ぶから。

 そして、僕ら、微笑み合う。

 たとえ辿り着くそこが地獄でも、君が隣にいてくれるのならそれでいい。
 たとえ君の温もりを感じることができなくても、僕の隣に君が居てくれるならそれでいい。
 たとえ君が僕を怨んでも憎んでも、僕の隣に君が居てくれればそれでいい。

 君が死んだと信じたときの僕の絶望。
 それは、自分が生きていると知ったことで生まれた絶望。

「アスラン」

 君が、僕を呼ぶ。
 僕の心が涙を流す。
 僕は、ただ、君を抱きしめた。

 君はいつだって、君の信じるまま、自由に歩いていく。
 僕の正義はいつだって、僕が君の隣に居ること。

 行き続ける限り、僕らはいつだって何かと戦い続け、そして、今、僕らは戦争と戦っている。
 君の歩きはいつだって、君の心のまま自由で。
 僕の歩きはいつだって、僕の心のまま君の隣に。

「ねぇ、キラ」
「ねぇ、アスラン」

「「やっぱり僕、君に隣に居て欲しいよ」」

 僕とキラの声が重なる。
 どちらともなく、笑い合った。

「「君の隣に、居たいんだ」」

 視線が重なる。
 ああ、久しぶりに感じる、君のあたたかなその体温。
 甘い唇。
 僕らはどちらともなく、重なりあった。

 久しぶりに感じる、君の体温、その香り。
 耳に甘い、君の声。
 僕を抱きしめてくれる、その腕に、僕は君を抱きながら、嬉しさに顔を歪める。

 ああ、涙が出そうだ。
 あまりの嬉しさに。
 しあわせに。

 僕が君の隣に居る。
 君の隣に僕が居る。
 君が僕の隣に居る。
 僕の隣に君が居る。

 ただ、それだけを求めていた。

 もう、離さない。

 そう伝えたくて、ぼくはきみを抱くこの腕に力を込めた。


 正義を課せられ宇宙に飛び出し、ずっと考えていた。
 僕の正義。
 君の自由。

 そして、出た答え。

 それは永遠の思い。
 永遠の祈り。

 ぼくはただ―――








ただ、君のそばに、いたいんだ。





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 あとがき +------------------------------------------------------

 36話を見た後、この先アスランがキラと合流を果たし、キラと一緒に(絶妙のコンビネーションで)戦う…という情報を得まして。
 アスランサイドで書いたのは、これが初めてではないでしょうか?
 ご意見ご感想頂けたらかなり嬉しいです(切実)---2003/06/15

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