雲間。




長い間雨が降り続いていて 今日は久しぶりに晴れたから ふと 空を見上げてみた








 灰色の雲が空を覆っていた。
 風はこの季節にしては冷たいが、長い間の雨空に吹く風の冷たさに慣れたその身にはひどく心地良く、暑すぎず寒すぎず、穏やかに彼の横を吹き抜けていく。
 彼はふと立ち止まり、空を見上げた。
 陽のひかりは覗いてはおらず、いつもよりも薄く、薄い雲が空を覆っているだけだった。

 七月下旬。
 まだ梅雨があけない。

 この青い星はおもしろい。
 この青い星は厳しい。
 この青い星はやさしい。

 ここでは、たくさんの哀しみと喜びとが、いったいどれほど繰り返され、どれほど積み重ねられてきたのだろう。
 今、こうして空を見上げている瞬間にも、どこかで。
 それは、繰り返されている?

 彼は再び歩き出した。
 亜麻色の流れる髪が、風に吹かれて軽やかに揺れた。





「遅くなってゴメンね」

 彼はそう云って走り寄る。
 真夜中の空色よりも、少しだけ明るい時間の空の色。彼は、目の前で自分を穏やかな微笑と共に待っていてくれる彼のそんな色の髪がとても好きだった。
 陽光の下(もと)で輝く新緑にも劣らぬ美しい瞳も、大好きだった。

「キラ、また寝坊したのか?」

 掛けられた声は、ずっと変わらない。
 呆れたように、けれど暖かみに満ちたその声が、大好きだった。

「違うよ。アスラン、いつも僕が寝坊してるみたいな云い方しないでよね」
「いつも寝坊してるだろう。この間も、僕は三十分も待たされたんだからな」
「今日は十分遅れただけじゃないか」
「十分遅れれば充分だよ」

 ため息を吐く。
 けれど、本気で呆れているわけでも、疲れているわけでもないことを、知っている。

「だったら、アスランも遅れてくればいいのに」
「それじゃあ待ち合わせの時間を決めた意味がないだろう。それに、キラが珍しくも時間通りにきたら、いわれのない文句を聞くはめになるじゃないか」
「珍しく時間通りって、ひどくない?――でも、だったらアスランが僕のうちに迎えに来てくれればいいのにさ」
「それだとキラは今よりさらにぎりぎりまで寝てるだろう。お前をベットから引きずり出すのに、余計な体力を使わないといけなくなるじゃないか」
「だったら、やっぱり待ち続けるしかないよね」

 彼が云い、彼は再びため息をついた。
 それがいつも通りの挨拶のようなものだと、知っている。

「ねぇ、今日はどこに行こうか?」
「キラは、まだどこが行ったことがなかったんだっけ?」
「まだまだたくさんあるよ、行ってないところ」
「じゃあ、今日は東に行ってみようか」
「うん!!」

 彼はうなずいた。
 彼が微笑んで手を差し伸べる。
 彼はその手に自分の手を重ねる。

 トリィ。

 彼らの頭上に機械仕掛けの音が響いた。
 空を見上げる。

 灰色の雲の間、微かな光が雲に反射して輝いた。








長い間雨が降り続いていて、今日は久しぶりに晴れたから、ふと、空を見上げてみた。





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 あとがき +------------------------------------------------------

 所要時間30分。あと1分足らずでSEEDの41話が始まります。
 何が書きたかったのでしょうね…。
 イメージがぐちゃぐちゃ。戦後かもしれないし、幼年学校時代かもしれない。
 ご意見ご感想頂けたらかなり嬉しいです(切実)---2003/07/19

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