+ 冒険小説のようにはいかなくても +
辿り着く場所さえわからない
キャンプに来ていた。 緑の葉は輝く太陽にも劣らずにきらめき、鳥が囀り飛び立てば碧い空と白い雲と影のコントラスト。小川のせせらぎが遠く近く聞こえてくる。 「ねぇ、アスラン、ちょっと冒険に出かけようよ」 アメジストの大きな瞳をキラキラと輝かせて、少年が云った。 エメラルドの瞳を半分に閉じて、その隣にいる少年が答えた。 「キラ、危ないからダメって、おばさんにもおじさんにも、きつく言われただろう」 「大丈夫だよ、アスラン。夕食までに帰ってくればいいんだから」 キラは非の打ち所のない提案だとでも言うかの様子で語り、アスランの腕を引っ張る。早く目の前に広がる森の中へと駆け出して行きたいのだ。 対するアスランはキラにその腕を引かれながらもあまり乗り気ではない様子で、顔には渋面、動作は重く。キラの行動を少しでも先延ばしにしようという健気さが伺える。なぜ健気かといえば、彼がどれほどの抵抗を見せようともキラが止まることはなく、それでもなお彼がキラと行動を拒否すればキラは彼をあっさりと切り捨てて一人で森の中へと入っていってしまうからだし、彼がキラの提案に逆らえるはずがないからでもあった。 思い足取りのアスランを引きずって、キラはキャンプ場からどんどん離れていく。奥へ進めば進むほどに、背後から流れてくる人の声は小さくなり、森の輝きはいっそう増し、代わりに闇も深くなった。 かすかな不安に襲われながらも、僅かに先を歩くキラの足が止まることを知らないので、アスランもまた歩みを止めはしなかった。不安を抱えてはいても、彼にはそれ以上にいとおしさと責任感があったからだ。キラが望むことを叶えてあげたい愛情と、どんなことがあっても自分がキラの守るという責任感。 面倒見が良いだけかもしれないし、ほんのちょっとだけ、お兄さん気分を味わっているだけなのかもしれない。ただ、キラが放って置けないだけなのかもしれない。 どちらにしても、彼はそれが好きだった。 「木登りをしたり魚釣りをしたり、カヌーに乗って川下りをしたり、楽しいことはいっぱいあるけど、一番したいのはそんなことじゃないんだけどな」 「キラは何がしたかったの?」 「冒険!」 「今みたいな?」 「う〜ん…ちょっと違うかも」 森の中を気が向くままに歩きながら、二人は取り止めもなく話した。 きっと、こんな意味のない幾つもの会話が積み重なって、きっといつか、掛け替えのないものになっていくのだろう。 さすがは親友というべきか、二人ともいい度胸をしている。辿ってきた道に目印すら残さず、後ろも振り返らず、特に何かの景色に注意するでもなく、本当に、気が向くまま、良く見知った近所を散歩するかのように歩くのだ。 「怪物とか宝物とかお姫さまとか…どきどきするものがほしいのかも。ただいつ迷子になるかわからないようなだけじゃなくてさ」 「夕食に間に合うように帰れるかもどきどきだと思うけど」 「お母さんたちにバレて叱られないかの方がもっとどきどきだよ」 「だったらこんなことしなきゃいいのに」 「だから、スリルが欲しいんだってば」 キラは力説する。 そして語る。 しばらく前に読んだ、冒険小説の数々を。 「お父さんが買ってきてくれたんだ」 「それで、急にキャンプに生きたいなんて言い出したの?」 「うん」 単純明快なキラの返答に、アスランは隠すこともなくため息を吐き出した。いつもの事と、キラは気にも留めない。 アスランとて男の子だから、キラの言いたいことは分かる。体を動かすもの好きだし、ちょっとどきどきする悪戯に興味がないわけじゃない。それでも、キラよりほんの少しだけ大人だとか、落ち着いているとか云われる彼は、やっぱり呆れてため息をつくのだ。 「目的がないと、冒険にならないよ?」 そろそろ戻った方が身のためだと思って、アスランは当たり障りのない台詞を口にする。キラはすぐにそれに返した。 「あっ、そうか」 「とりあえず今日はもう戻って、明日改めて来たら?」 「う〜ん。―――じゃあ、今日の目標!一番高いところで星を見る!!決まり!」 「って、今日の?!今日はもう帰るんじゃないの?!ってか星を見るって…それじゃあ夕飯までに帰らないってことじゃないか!!」 「あの樹がここから見える中では一番高いよ。アスラン、あそこまで競争!」 「コラ、キラ。一人で勝手に決めるな。ッてか、先に走り出すなんてずるいぞ」 アスランは慌ててキラを追うためだか抜くためだか、とりあえず走り始めた。 今日の目標をさっさと決めキラは、明日の目標は明日考えるだろう。明日も冒険に行くことは彼の中では決定事項で、今日がおもしろくなければ明日もっとおもしろくするだろう。 今日は今日で楽しむつもりだが、明日になる前に越えてゆくべき試練があることももちろん忘れてはいない。両親からの雷は、キラの方が数倍大きく落ちること確実だから。キラの両親の信頼度の高さは、実の息子のキラよりも、アスランにある。 「僕の勝ちだね、キラ」 「なんでー!!僕の方が先に走ったのに!!」 「それで勝っても意味ないと思うけど…」 「勝てばなんでもいいの!!」 キラが「目標」と定めた巨大な樹の幹にキラよりも一歩早く手を添えてアスランが云えば、キラがむくれたように返した。 あたりはすっかり暗くなっている。星の輝きが見えても木の葉の輝きは失われ、月の光が射しても、雲は白くは写らない。鳥も獣も虫も息を殺し、川のせせらぐ音が大きくなる。 キャンプ場ではきっと大騒ぎになっているだろう。 脳裏を過ぎりながらも、走ったために弾む呼吸と比例するように気分が高揚している自分を感じるのは、どちらもか。 次は「木登り競争だ!」と、またも先に登り始めたキラを、アスランは意味がないとわかりきっている静止の声と文句とを放ちながら追い掛けるために樹の幹に手足をかける。掛ける声はほとんど条件反射のようなものだった。 「きれいだよね、すっごく」 「うん」 二人は夜空を見上げていた。 一面を星が埋め尽くす空を、見上げていた。 ここまで来るために負った、幾つもの小さな擦り傷や切り傷があった。足を蔓にとられて転びそうになったことも、実際に転んだこともあった。 ぬかるんだ道に足をとられて、靴はぐちゃぐちゃに汚れていた。 「あ〜…お腹すいた〜」 「今日はもう食べれないかもよ…怒られて終わって」 「明日の朝だったら、怒られるんじゃなくて泣かれるにならない…かな?」 「キラはそっちの方がいいの?」 「うっ…やだ……」 「じゃぁ、もう帰ろうか」 「うん」 アスランが優しく微笑んで手を差し出せば、キラは小さく頷いてその手を取った。 なんとか、今日中…無理でも夜中(よるぢゅう)には帰り着こう。 「お母さんが泣くのは、すっごくやだもん」 だったら初めからこんなことをしなければいいのに…とか、明日もまた同じように森に飛び込むんだろうな…とか、いろんな云いたいことが胸中を巡りながらもアスランは懸命にもそれを言葉にせずに飲み込み、代わりに一つため息を吐いた。 今日はいったいいくつめのため息になるのだろう。そんな他愛もないことを脳裏に過ぎらせたりしながら、アスランは一歩を踏み出した。 来るときは反対に、キラの小さな手を引きながら―――。 |
だからぼくらは歩き出す
見知らぬ未来へと―――
----+ あとがき +------------------------------------------------------
某アニメとか某映画とか見てて石田さんのお声を聞いていたらアスキラが書きたくなりました(爆) 冒頭の文章はこれ読もうと思った人なら誰でもわかります。SEED第四期OPからの引用です…。好きなんです。すっごく…。ここでのイメージとしては「〜Uptempo Mix」で。 ところでこの二人はどこにいるんでしょう?もしかして地球?脳裏を過(よ)ぎりまくった二人のイメージとしては、アニメ本編にちょくちょく出てきてたアスランお気に入り(?)キラと肩を組んでるツーショット写真です。年齢はどれくらいだろ?たぶん12歳以下だと思います(いい加減〜)。 ご意見ご感想ありましたらぜひお寄せくださいです---2003/12/26 |
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