サリーズ・アゲイン 








 あなたの宿木(やどりぎ)になりたい。
 個人として愛してもらえぬのなら。
 せめてあなたに安らぎを与えられたらと。
 あまりにも大きな夢を見た。










「テッド…」

 彼は泣いていた。涙を抑えて。
 それが、我侭を諦めさせられてきた彼に唯一許された泣きかただと。長い年月(としつき)を生き抜いてきた彼からすればまだまだ短い時を共有したに過ぎないけれど、彼――テッドはすでに知っていた。
 けれど彼は不機嫌に返した。もう、これ以上に眉間の寄せられぬであろうと思われるほどに。
 胸の前で組まれた腕。座した椅子に背を寄り掛からせているテッドの方が、彼の目前で所在投げに佇んでいる彼――オベル巨大船タキ号船主サツナ――よりも立場が下だとは、この構図を目の当たりにしていったい誰が信じるというのだろうか。

「なんだよ」

 テッドは彼が何を問いかけているのかを知っていながらそう云った。ほんの一睨みだけ彼に視線を寄せてすぐにそらしてしまった理由も、そうしたテッド自身はよく理解していた。
 罪悪感が胸に渦巻いている。それが、テッドの不機嫌な表情の幾ばくかの原因にもなっていた。

「ねぇ、テッド…。僕では、ダメ?」

 全然ダメ?
 まったく、可能性がない?

 問いかける彼に、テッドは先ほどと同じ言葉(答え)を返した。
 彼はきゅっと唇をかみ締め、拳をさらに握り締める。到来した胸の痛みをどうにか乗り越えて、もう一度言葉を紡いだ。

「僕の前じゃ、テッドは安心できない?僕では、テッドに安らぎをあたえられない?」

 絶対に無理?
 可能性はゼロ?

 テッドの視線が彼に定まった。睨みつけるような視線。その眼差しは鋭く、その表情が不機嫌に険しいものであることも変わりない。
 けれど彼はテッドのその視線が自分に向けられ、そしてそこに定まっているそのことだけで、まるで心に羽が生えて空に飛んでいってしまうのではないだろうかと思われるほどに舞い上がる。その心地を感じていた。

「無理だ」

 そして次の瞬間に返される答えに、胸にツキンと痛みが走る。針で刺されたようなその痛みは、小さいけれどいつまでも続くようだった。
 まさに性質(たち)が悪い。そんな痛み。

「そう…」

 あきらめられないくせに、そうやってあきらめようとする。いつの間にか癖にでもなってしまったのだろうか。あきらめられないからこそ、もうそこにはいられなくて、早々に立ち去るためにあきらめた振りをする。
 納得した振りをする。
 それはもう反射のようなものだったかもしれない。彼は視線を床に落とし、踵を返そうとした。

「ああ、無理だ……だって、」
「え?」

 踵を返す。その腕を後ろに引かれ、彼は何が起きたのか理解できずに振り返る。
 首を巡らせれば、目の前にテッドの姿。
 椅子からいつの間に立ち上がったのか。なぜこの手首を彼の掌が包み込んでいるのか。
 頭はまったく働かずに、そうしているうちに。
 気がつけば、彼はテッドの胸の中に抱き込まれるように引き寄せられていた。
 密着した彼の頬に、テッドの心音が響く。頭上からは少しだけ低めに響く、やわらかな声が降り注ぐ。

「だって、おまえといると、こんなにもどきどきする」

 とくとくと打ち鳴らされているテッドの心音が静かに響く。
 サツナはその音に安らぐ。そっと瞳を閉じてテッドの胸に寄り掛かれども、テッドはそれを引き離そうとはしなかった。逆により強く肩を抱きしめられる。
 肩に僅かに走る痛み。けれど、今度の痛みはとても甘い。
 あまりにも甘すぎて、けっきょく、それが二人の安らぎであるとは。
 認めるまでには、もうしばらくの時間を要するのだろう。










 もう少しだけ待っていて。
 かならずあなたに安らぎを与えてあげる。
 あなたが私に安らぎを与えてくれたように。
 私も必ず、あなたに心休まる場所を与えるから。









talk
 4→テッド風味のテド4です。このCPは絶対に4から思いを伝えないと始まらないと思います。
 前回(クリムゾン・ブルー)と同じくもともとは拍手用に書き始めたものですが、短いにもかかわらず、妙に設定を気に入ってしまったがために通常小説として上げてしまいました。短いのはご愛嬌ということでお許しください。でも個人的にはこれくらいの長さの話の方が読むのが楽で好きだったりします(笑)。
 これは思いついた瞬間に、「よく思いついた、私!!」と自画自賛しました。そして一気に30分で書き上げました!早っ!!(これだけの文字数を私にしては)。でも手直し及びレイアウトに○時間かけました…(遅)。
 この話でけっきょく何が云いたいかというとですね、つまりテッドは4主(好きな人、気になる人)と一緒にいるとどきどき(緊張)してしまって。とてもじゃないけど落ち着けないってことです。ええ、それだけです。テッドは自分が4主といると安らげるのに気がついてます。でもまだそれを認めるわけにはいかないと頑なになってます。
 付き合い始める直前って、感じですか?(なぜに疑問系?)。タイトルは迷いました。「Possibility to serenity(静穏(安らぎ)のへ可能性)」と、拍手として考えていたときののタイトルが「心音」。けっきょく「serene」と「agein(regainと迷った)」を使って「安らぎを取り戻す」とか「回復する」とか「回帰する」とかそんな意味合いを込めてみました。「イズ(本当はサリー・イズ・アゲインですが間延びしてたのでサリーズにしちゃったのです)」は意味ないですよ。使い方も間違っています。音を整えたかっただけ。こういう感じで受け取って欲しい〜的な100パーセント造語です。適当英文です。むしろ英文にすらなってません。「サリー」には「高貴」みたいな意味もあるようですね。
 ご意見ご感想お待ちしております。_(c)2005/11/05〜06_ゆうひ
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