リレイション 








遠く離れていても、思いはいつだって繋がっている。










 ねぇ、テッドさん。お元気ですか。僕はちっとも元気なんかじゃありません。
 だって僕の隣には今あなたがいなくて、あなたの傍には誰がいるのか、或いは誰もいないのかさえわからないんだから。
 僕は今、青い空の下にいます。太陽は五月蝿いまでにきらきらと輝いていて、雲は白く輝いていて。見上げた空はあの日に駆け抜けた海のよう。
 どこまでも続く蒼。白い飛沫を上げながら、巨大帆船が僕らを乗せて駆けたのは、いったいいつのことだったでしょうか。
 もう随分と遠い日のような気がします。そして実際に、それほどの年月が流れているのでしょう。
 あなたは僕のことを覚えていてくれていますか。
 僕にはあなたの記憶だけしかないかのように、あなたと過ごしたあの短い期間のことばかりが思い出されます。
 あななの見せた表情の一つ一つ。そのときの出来事。言葉の一つ一つ。声の強弱さえ鮮明に。
 そしてその度に不安になるのです。
 あの海から離れることに不安を感じたことなどない。知り合いの誰一人いない世界へ旅に出ることも。
 一人旅さえ端から不安などなかった。
 けれどあなたとの思い出を思い出すたびに不安になる。思い出すことはその記憶ばかりなのに。
 僕があなたとの思い出を思い出すほどに、あなたは僕とのことを思い出してくれているだろうかとか…。それはあまりにも高望み過ぎるかなとか。
 ウザイくらいに青く輝く空を見るたびには、思い出して欲しいとか。それが無理なら、せめて、海を見かけたときくらいには、思い出して欲しいとか。
 それだけ。
 僕があなたに望めるのは、それだけしか――その程度でしかないということが、何より一番の不安です。
 だって僕はあなたの何なのかさえ分からない。
 だから僕とあなたの思い出にもっとも数多く表れる色。あなたと出逢い、あなたと過ごした『青』――それだけが、僕とあなたを繋ぐ唯一の『繋がり』であるように思うから。





 ねぇ、ホノカ。君は今頃、何を思っているのかな。
 ナナミは元気かい?
 いつもいつも、彼女の明るさに、僕も君も顔を見合わせて苦笑していたね。そうして、僕も君も彼女のそんな明るさに救われていた。
 町の人間に何を云われても、石を持って追いかけられても。惨めで悔しくて。どんなに辛くても、彼女のその力強さにいつも励まされていたね。
 王宮の窓から眺めるハイランドの王都は白亜の輝きを持って美しく、けれど僕の心はいつだって、君たちと駆け抜けたキャロの町へと飛んでいく。
 あの、土と稲穂と陽の光に溢れた大地へと飛んでいく。
 ねぇ、ホノカ。
 君は今何を思っているのかな。
 ナナミは元気かい?
 僕と君の道は今、別(わか)たれ。けれどその心はそれでもなお繋がっていると。
 浅ましくも願ってしまう僕を、君は許してくれるだろうか。
 いつか再び。
 あの日のように三人で、太陽の光の降り注ぐ、あのキャロの町並みを駆け抜けよう。
 それが、それだけが。
 今の僕と君と。そして彼女を繋ぐ、唯一の頼りない糸のような気がするから。





 ねぇ、ルック。元気かい。僕は今ハルモニアへ向かっています。ブライトはすくすくと成長しています。君はブライトのことをいつも『竜もどき』って呼ぶけれど、今度、君に会ったときはそんなことは云わせないよ。
 僕にとってブライトは間違いなく『竜』で、ハルモニアで絶対にそれが証明できると僕は確信しているから。
 その意味で、今の僕にとってハルモニアは希望に分類されるのかもしれないけれど、きっと、君にとっては逆なんじゃないだろうかと感じるんだ。
 君はそういうことは話してくれないから、これは僕が漠然と感じていることに過ぎないけれど…。今回の戦争で、そう感じたんだ。
 君が珍しく積極的に力を貸したあの時。あのハルモニアの神官将は、遠目からでも良く分かる。とても君に似ていたね。
 君とその人の関係を気候とは思わないけれど。
 僕はブラックという相棒を手に入れ竜騎士の証えを手に入れたときに、家族を失った。そのときの僕には悲しみはなく、今の僕もまた、そのことについての悲しみはない。孤独も感じていない。
 ただただブラックを失った喪失感だけが暗い空洞となって僕の胸に横たわっていた。
 ブライトは僕にブラックとの輝くばかりの思い出を蘇らせてくれる。素晴らしかったあの日々を。
 そして君によって僕が思い起こすのはブラックを失った悲しみと、それがゆっくりと解(ほど)けていく温かさ。
 君は僕に暗闇と孤独の中での拠りどころを――安心感を与えてくれたんだよ。
 皮肉なことに、僕と君の邂逅はいつだって戦火の上にある。
 君に家族がいたらと思う。僕にブライトがいるように、君にも共に歩く誰かがいてくれたらと思う。
 レックナートさんは、けっきょく君の家族ではなかったから。
 あの人の心の中には、いつだって諦めが横たわっているから。
 ねぇ、ルック。元気ですか。僕は今ハルモニアへ向かっています。
 そこは今の僕にとって希望に近いところにあるけれど、君にとっては真逆の位置にあるところなのではないかと思うんだ。
 僕にとってのブライトのように、君にも誰かがいたらと思うことがある。
 僕にとって、ブライトはブラックとの輝かしい思い出を蘇らせる。
 僕にとって、君はブラックを失った悲しみ、嘆き、後悔、懺悔、自虐…あらゆる空虚さを齎す。
 皮肉なことに、『戦争』の中で生まれた嘆きと悲しみこそが僕らにとっての弱々しい『絆』であるように、感じられるんだ。









大切なあなた。
いつだってあなたを思ってる。
あなたを思い、祈っています。

負けないで。頑張って。でも、頑張りすぎないで。
あなたはいつだって、一人ではないんだから。









talk
 母からのメールが元ネタ。自分を思ってくれる人がいるってすっごい優しくて幸せなことですよね。
 タイトルは「relation」です。読みがあってるといいのですが…(いまいち不安)。
 ジョウイの部分だけ先に書いてほったらかしにして邪馬台幻想記にかまけていたので、すっかり何を書こうとしていたのかが分からなくなってしまっていました(サツナとフッチで書こうとしてたのは確かのはずなのですが)。なので前後の文と間の本文の関連性がまったく消えてしまったように思われます(一応テーマは『繋がり』です)。中途半端な作品を上げてしまって申し訳ないです…。むしろ拍手に回すべきだったのでしょうか…。
 ご意見ご感想お待ちしております。_(c)ゆうひ 2006/01/20・2006/02/15
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