ディスペア・カインド
君と再会したときの絶望を、僕は、なんと表現すればいいのだろう。 |
三年という月日を経て、大きく変わった君。何も変わらない僕。 それは見た目だけではなく、心も同じだった。 希望という名の『光』を見つけた君。相変わらず空を眺めてばかりの、それを追い求めているばかりの幼い君。 随分と礼儀正しくなった君。分別がつき、落ち着きを身につけ始めた君。それでもまだきらきらと、些細なことに顔を輝かせる純朴な君。 レックナート様。僕は初めてあなたを恨みました。 或いは、たとえこの身の時間が奪われていようとも。かつてあなたが僕を抛った戦争の軍主のように、刻々と流れる時間の只中にその身を置いていたのなら。 貴女(あなた)と二人。あの小さな島の小さな党で、時間から切り離されずに居たのであれば。 もう少しだけ、その流れる時間の残酷さを、この身に強く感じ続けていたのであれば。 これほどまでの絶望に教われずにすんだかもしれないのに。 二年。それは前回の戦争で、僕が時の流れの只中にこの身を置いた時間。 出会ったときに小さかった彼は、分かれるそのときも、相変わらず小さいままだった。 結局、その去る背中に僕は声を掛けることも出来ず、彼も、僕のことを振り返ることもなく。僕らの関係は、最後の最後まで僕の一方通行で。 『さよなら』の言葉を告げる関係さえ、気づくことが出来ずに終わったあの水辺で。どうして『また』などということが叶うというのか。 それでも再び出会えた奇跡は、何よりも喜びに満ちていたのに。 相反する感情が僕の中で渦を巻き、どんな顔をしていいのかわからなかった。 三年の月日を感じた絶望。 もうあと三年も経てば、君は、僕の身長など超えてしまうね。 そしてもうあと三十年後に、戦いの場に身を置く君の生きている可能性はどれほどだろう。 三百年後には君はこの世のどこにも居ない。僕が変わらずある可能性に比べ、あまりにも明らかな現実。 あるとき、僕は小さな女の子を連れ帰った。あの人は何も云いはしなかった。 幼子の成長とはこんなにも早いものだったのかと驚かされると同時に、少女を連れ帰った目論見は見事に達成された。 僕は少女の日々の成長に、、常に君の上に流れる時間を感じ続ける。実感と共に。 そして僕の中で着実に育っていく恐怖。それに飲み込まれていく僕の理性。 膨れ上がる絶望の闇。 君に出会い、僕の世界は色を変えた。 こんなにも世界が鮮やかに、色彩(いろ)に満ち溢れているなどとは、知りもしなかった。 そしてその世界の素晴らしさも。 師よ。貴女は残酷だ。 せめて貴女と二人。あの孤島で篭っていたのなら、世界の色の鮮やかさにも気づかぬ代わり。それが失われる絶望にも、気づかずに居られたのに。 そんな絶望に、いったいどうやって立ち向かえばいいというのか。 貴女は、大切なことは何一つ、言葉にしない人だった。 それでも、僕は僕なりに、立ち向かいます。 |
君と出会って色を変えた世界。 それまで色のなかった世界に、少しずつ、少しずつ。点々と落とされていった数々の色彩。 君と別れる頃には、極彩色の輝く世界を見つけていた。 再びであった君。 僕は変わらぬ我が身と変わり続け、やがて消えていく君という現実を目の当たりにし、絶望した。 そう。 世界は再び、色を無くした―――。 |
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フッチ好きへのお題『君への涙』前提。フッチとルックの絶望の違いはこういうことです。ルクフチ的ルックの絶望。 ネタもないし次こそはシナカス小説を書こうと思ってたのに、突然降臨されたルクフチの神様。短いですけど…。 ご意見ご感想お待ちしております。_(c)2006/08/13_ゆうひ。 |
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