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オーバー・ナイト
幾千万の夜を越え。幾億の星霜を見上げ。 あなたは、僕の前に立ったのだろうか。 |
「俺に構うな」 彼は睨み付ける。突き放すその視線に、けれど僕はなんら痛痒を感じることもなく答えた。 「それは無理」 そうすれば、彼は睨み付ける視線をさらに鋭くし、『なぜか』と無言で問い返す。 僕は僅かに顔を笑み近いものへと歪ませたかもしれない。人間というのは表情が豊かで、けれど感情はもっと豊富で複雑だ。どうにも表現し難い状況に、人に最終的に残されるのは泣くか笑うかの二択。 今は僕にとって泣く場面では絶対にないから――そもそも僕には人に比べて『泣く』という選択肢が希薄だ――、それがどんなものであろうとも、極別すれば『微笑う』という選択肢になる。 そもそも僕は表情――または感情――が現れるということがとことん希薄に過ぎるらしいので、それが表面化するというだけで進退極まっているともいえなくもない…のではないかと思う。感極まっているとも云う。 僕は答える。 「『僕』が、あなたをとても気にしているから」 誰が気にしていても関係ない。それこそ彼の意向さえ無視。だって、『僕』が彼を求めてる。 彼は勝手な奴だなと怒り半分、呆れ半分。 僕はいろいろなものにあまり淡白で、人は誰も口を揃えて、『欲がない』と僕を評する。僕自身も、そうなんだろうな~なんてなんとなく思っていたけれど、まったく大きな間違いだった。新しい発見に僕自身がとても驚いている。 僕は淡白なのでも欲がないのでもなんでもなくて、僕はただひたすら、どこまでも自分本位な人間であっただけなのだ。 これまでずっと、『嫌でない』から文句を云うはずもなくに、なんでもこなしてきた。それこそなんとなく生きてきた。初めて興味を持ったのが『彼』で、それから僕自身の世界が変わった。 「なんだよ、それ。俺の意思は無視かよ」 「うん。そう。大丈夫。きっと、テッドさんも気にならなくなる」 「どうしてそんなこと云える?」 「なんとなく。僕がそう思うんだから、きっとそうなる」 「……理由になってないだろ」 「そうかな」 小首を傾げながら、彼の面(おもて)に浮かぶ泣き笑いのような表情が気になっていた。 「大丈夫。信じてればそれが『現実』になるから。特に僕は――これは本当につい最近になって気づかされたことだけど、そのへんに関しては、とても強引のようだから」 「それも理由になってない……」 「そうかな。でもきっと、紋章の意思なんて、人の思いに比べれば、本当にささやかなものに過ぎないよ。だって、紋章はそれ単独では何も出来ないけれど、人はたった一人でだって、いくらでも立って歩けるんだから」 「……人は、一人じゃ何も出来ないさ」 「なら尚更」 僕は云った。 彼は黙(もく)したまま。僅かに伏せられたその視線の写すものがなんであるのかを、僕はまだ知らない。 「ねえ、テッドさん」 僕の呼びかけに、彼はそれでも面をあげてくれる。それだけでもう、僕とは大違い。僕なら、本当に興味のないことはとことん無視するから、その呼びかけに面を上げるなんてこと絶対にしない。 つまり、彼はとことん人がいいか、本当は人が大好きか。――または、人恋しいか。 どれであっても僕には僥倖だ。 そして、人を避けようとし、一人になろうとする彼にとっては、どれもが酷く辛いこと。 「ねえ、テッドさん。あなたがどれだけ一人の夜を耐えてきたのかは知らないけれど――」 「……」 「きっと、それは全部、僕に会うためのものだったんだよ」 「……」 「……」 暫らく沈黙が続き、やがて口を開いたのは彼だった。 「……お前ってほんと、勝手な奴…――」 呆れたように苦笑した彼に、今度こそ、僕は嬉しくて笑ったのだった。 やがて僕とあなたが別れ別れの道を行くことになったとして(そのときは十中八九、あなたの意思だと今から確信する)。 あなたの過ごした時間と同じだけ。僕はあなたに焦がれて旅をするだろう。 これでイーブン。僕は漸くあなたに追いつく。 あなたが焦がれた時間を、僕も同じく経験したよ。 さあ。 今度こそ、あなたは僕を突き放せない。 だって、僕はあのときのあなたと同じだけ。 その身を喰らう呪いの紋章と対峙して、それを乗り越えたのだから。 それはきっととても長い時間だね。 僕はもう我慢の限界で、きっと、あなたから離れられなくなる。 ほんの少しだけ打ち解けた頃。 船の甲板で蒼い飛沫と煌めく青空を全身に感じていた。 他愛もないこと。 テッドさんが笑い、僕は何やら至極幸せな白昼夢を見た。 |
あなたが越えた幾千万の夜。あなたが見上げた幾億の星霜。 それと同じ『時間(とき)』を越えて、僕は再びあなたの前に立つ。 |
talk |
……何が書きたかったんだろう? いまいち不発。暑くて頭が働きません。テド4が書きたかったのだけは本当ですが、とりあえず冒頭から5行くらいまでのやり取りが書きたかっただけという先の見えない見込み発射が一番の駄目加減。 うちのサツナさんは普段は無口無表情。話したいことがあるときは一方的に話して終わり。な、ゴーイング・マイ・ウェイなきっとB型だろ、な人ですが、テッドと対面しているときのみ『会話』というものがきちんと成立します。レックナート様を攻めているときとのあまりの別人振りに、本当にこの4主がサツナなのか疑問を持たれた方がいないかと不安です。すべては愛のなせるわざなのです。 ご意見ご感想お待ちしております。_(c)2006/08/19_ゆうひ。 |
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