ブレイク・タイム・ケルビム おまけ 3 
テッドside 〜隠者の導きの灯〜





 テッドは自分の膝の間にちょこんと納まって座るサツナの身体に腕を回した。胸から広がっていく温もりに何もかもが慰められるようで、そっと瞳を閉じた。
 サツナの肩口に己の額を押し付ければ焼かれるような熱を感じる。特別に熱いわけではない。ただ他の部分が酷く冷えているので、そう感じるだけだ。
 灼かれている。
 この腕に抱くその存在の柔らかな温もりに、孤独なほどに焼かれている。罪の意識と罰を受けぬことへの背信と。それでも与えられるぬくもりと安らぎへの、更なる罪の意識。そしてそれを離すことの出来ない己の小ささ。
 すべてに泣きたくなる。
 ぽんぽん、と頭が叩かれる。髪のふわりと浮いた部分が潰れてはまた膨らむ。
 うつ伏せていた顔を上げれば、目の前には大きな丸い瞳。アクアブルーのそれは感情などまったく乗せずに、じっとテッドの琥珀の瞳を見つめている。
 サツナの無表情は、テッドには頑是無い子供のように写る。きょとんとした表情は、けれどすでに明確で明朗な答えを持ち得ているのだろう。それも迷い無きたった一つの。
 光明のようなそれに、迷いながら歩くばかりのテッドは何度救われたことだろう。
 サツナが口を開いた。

「大丈夫。僕はあなたが許してくれる限り、ずっとここにいる。あなたの一番近くにいる。あなたとずっと一緒。そして、そうさせてくれてもくれなくても、僕にとってあなたの罪など何一つない」

 テッドは微笑った。レイやホノカが見れば、それは泣き笑いに見えただろう。
 サツナにもそう写ったかもしれない。けれどサツナはテッドが微笑ったことに、瞳を眇めて、やはり微笑った。
 彼の両の口端を吊り上げるほどの笑顔など、いったいどれほどの人間が見られるというのだろう。
 少なくとも、彼にそのような表情を取らせることが出来る存在は、今、この世に一人しかないない。
 テッドはサツナを抱きしめた。
 ぎゅっと、力強く。

 テッドの、今度は背中がぽんぽんと叩かれた。まるで赤児(あかご)をあやす様な響きを持ったそれに、テッドはその額をさらに強くサツナの肩に擦り付ける。
 その胸にあるのは感謝だった。
 傲慢なほどに強引で、怖いくらいに迷いが無くて。そのくせ僅かに躊躇っている。まるで雨に震える子猫のように。
 そんな彼に、どれほど救われたというのか。きっと、テッドの感謝の程など、サツナは欠片も理解してなどいない。けれどそれでいい。互いが互いに感謝していることに変わりは無く、互いが互いを求める理由にそれは何の関係もない。
 ただ自分が感謝している。どちらもが、それを素直に表に出している。
 ただそれだけなのだから。
 互いに互いの存在がある。それでいいと思う。そしてそれが重要で重大だ。
 テッドは思う。
 彼がいる。そうあり続ける限り、自分は道を誤らない。
 テッドは彼を抱きしめる腕の力をほんの少しだけ強くした。そしてそのぬくもりに感謝した。
 それは幼い日に失ったあらゆる暖かな手を思い起こさせ、けれどそれらすべてとはまったく異なるものだ。
 愛しい。ただ愛しい。
 互いに抱きしめ、互いに抱きしめられる。その体温を感じ、安らぎを感じる。
 その存在があれば、もう二度と、何ものも恐れずに歩んで行けると信じてる。






talk
 寵短くてすみません。テッドだって、サツナによって救われてるんです。安らぎと、安心と、ぬくもりを。
 これを書き始める直前までは邪馬台幻想記の紫苑記憶喪失話を上げようかと思っていたのですが…。むしろ決定してたのに。
 テッドにとって、サツナはまさに導きの灯なのです。彼がいる限り、テッドは決して自暴自棄になること、生きることに疲れること、真の紋章に怯えること。それら一切を跳ね除けるでしょう。自分の意思によって。
 ほんの少しだけ急ぎ足で掻いてしまったことだけが心残りです。こっそり直すかもしれませんが、そのときは許してください…。
 ご意見ご感想お待ちしております。_(c)2006/12/23_ゆうひ。
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