It was love at first sight in you. And, you please fall in love. To me. 






それは夢よりも不確かで瞬きよりも刹那的な訪れ。





 およそ思い出せるもっとも古い記憶。光。そして悲鳴。
 物心ついたときには、『フィンガーフート家の小間使い』の身分が確立されていて、それは覆しようのないものとして僕の前に佇んでいた。
 別にそれを不満に思ったことはなかった。考え付きもしなかったことだ。疑問にも思わなかった。
 それで何か不自由したかと問われれば、そんなことはまったくなかったと、僕は躊躇わずに答えるだろう。もちろん本心から。
 実は今だってそう思っている。
 食事には困らないし、寝る場所にも困らない。寒さや暑さに怯えることなく過ごせることが、孤児にとってどれほど恵まれていることかなんて、誰に云われずとも勝手に知った。まあ、僕はそれくらい聡明だったということなんだ。
 仕事をしなければ生きていけないのは小間使いに限ったことではないし、逆に仕事がなくて生活に困ることがないなんて幸せなことじゃないか。
 他の小間使いと僕と何か違うかといえば、僕はお屋敷のお坊ちゃまと同年代っぽいということ。遊び相手にちょうどいい――それは何でも係のように――ので、連れ回された。
 それだけ。
 お坊ちゃまは人のいいちょっとだけ傲慢な子で、僕は意思表示の極端に少ない大抵のことはそつなくこなせる子供だった。主従としての相性はばっちりだ。
 ちょっとミーハーなところもあるそのお坊ちゃまは、海上騎士団に憧れて入隊した。僕もそうするとそのお坊ちゃまが疑っていなかったし、そこで彼の世話をする人間がいなくなるのも好ましくなかったので、自動的に僕も海上騎士団に入隊することとなった。でも別に不都合はなかった。
 なにせ僕は何かをするのに能力的に困ったことなど一度もなかったし、海上騎士団でもそれは変わらなかったから。しかもフンギの食事はフィンガーフート家で振舞われる僕等小間使いたちの食事よりも遥かに美味だ。

 ガイエン海上騎士団は、ラズリルにその本拠地があるのでラズリル出身のものも多く、そうでなくてもラズリルに長く赴任しているためか、僕をスノウのおまけと考える人が多い。考えているというよりも、考える前に与えられた刷り込みのような固定概念なのだが。
 しかし僕等が新しく入隊したように、ガイエン皇国の他の地方から入隊してきた――それこそ本国から――の見習い団員も当然いるわけで、僕はそこで初めて主人ではない『友人』というものを得るに至った。
 まあ、だからなんだってもんなんだけどね。実際。

 何不自由ない世界。
 何も感じない世界。
 その日、僕の価値観は真っ逆さまにひっくり返された。

 不自由だらけの世界。
 不安ばかりの世界。
 些細な、けれど極上の幸せに溢れた世界。
 今ならば分かる。
 貴方が、なぜこんなにも怯えているのか。苦しんでいるのか。

 こんなにもまっすぐに、人を愛せる貴方。
 こんなにもまっすぐに、生の尊さを知っている貴方。
 こんなにもまっすぐに、死を選ぶことの愚かさを知っている貴方。
 そしてそれでも尚。
 こんなにもまっすぐに。こんなにも必死に。こんなにも直向(ひたむき)に。
 人間として、人間の中で、生きて生きたいと願っている貴方。

 けれどそんなのは全て後付け。
 意味のないこと。




 貴方に出会ったその瞬間に、僕の魂は全て『貴方』に奪われた。




 貴方の持つ紋章ではなく。
 僕の命としての魂ではなく。
 僕の全身全霊、全て。貴方奪い。
 僕の全身全霊、全て。貴方が全て呼び起こした。

 貴方に出会って僕は漸くこの世界で目覚めた。そう。僕はそれまで眠っていたも同然だった。
 何も感じないこんなのは、あらゆる全ての感覚が眠っているのと同(おんな)じだ。
 地中深くで眠っていた種が、空気と水と陽光と。生きるのに必要な全てのそれらに触れてはじめて芽を息吹くように。
 僕は貴方によって目覚めさせられた。
 その瞬間から、僕が生きるの全てには、貴方が必要になったということ。

 戦闘についてきて。
 釣りをしに行こう!
 一緒に食事でもどうかな?
 何か話そう。
 ……ただ、一緒にいるだけでも、いいかな?

 それらはすべて、貴方の気を惹くための手段。策略。
 そして願い。
 貴方を誘うときはいつだって、ほんの少しだけ、胸の奥でどきどきと高鳴る不安と戦っていた。

 貴方に惹かれるのに理由なんて要らない。
 この世の全ての『欲』に、そんなものは不要だ。有害だ。
 ましてこのただまっすぐに貴方だけを求める思いへの、なぜ屁理屈めいた理由付けなど必要だというのだろう。

 ただ初めて知った『欲』に対して、僕はあまりにも免疫がなく。ただただその思いに翻弄されて、貴方の瞳を僕へと向けるためにあらゆる策でも巡らせる気でいたし。
 貴方の近くにいけるのならば、そのために。僕は僕の才能を限界まで全て出し尽くして挑むつもりで。

 貴方は百五十年もの時を重ねて。
 僕は十数年の時を過ごして。
 これだけの大きなときの開きの中で出会うなんて、すごく浪漫的なことなんじゃない?
 漸く重なった僕等の道。
 一度重なり合ったなら、どうしてそれを離さなければいけないのか。
 もう二度と、僕にはその手を離してしまうつもりなどないのに。貴方の存在を、離すつもりなど微塵もないのだから。

 貴方に出会って初めて知ったたくさんの気持ち。
 貴方に出会って初めて生じたたくさんの思い。
 それまで僕は自分が好きでも嫌いでもなかったけど、貴方に会って、僕は僕のことがほんの少しだけ、嫌いになった。
 僕の笑顔で貴方が幸せになってくれたらいいなと思いながら、僕の顔は岩のように頑強で。まったく、なんだってこんなにも無表情なんだか。
 フンギに頭を下げて料理を伝授してもらった。貴方がよく注文するメニューを聞きだして、貴方の好みの味、食材、何を食べたいと感じるようになるかの周期。一生懸命に分析した。
 図書館ではターニャに、エレノア情報と交換に貴方の読んだ本を、そのときの様子を教えてもらった。貴方の興味、関心。なんでもいいから知りたかった。貴方がそれで何を感じていたか、瑣末でも構わない。知りたかった。貴方が知った何でもかんでも、僕も同じように知りたかった。貴方が感じたのと同じ感じを、僕も抱(いだ)きたかった。
 時にはアルドに嫉妬して渾身のバックドロップその他諸々を決めてみたり。
 なんだか支離滅裂な行動。

 どうすればいいというのだろう。
 貴方の全てで包まれたくて。貴方の全てを包み込んであげたかった。
 この手のひらで、守るように。そっと。

 貴方の力になりたかった。ずっと。
 死を恐れる僕が、誰かの命を奪うことを恐れる貴方の力になりたかった。
 ああ、そうだ。
 貴方に出会って、僕は初めて、『死』を恐ろしく感じた。時間の流れを呪った。そして何より、この紋章に固執した。
 ――手放してなるものか。
 貴方と別れるなんて絶対に嫌だ。貴方が一人になるなんて絶対に嫌だ。貴方が僕ではない誰かの為に一人ではなくなるだなんて、もっと嫌だ。
 貴方の幸せと不幸を、同時に願ってる。この矛盾。時に僕は苦笑した。
 自分の馬鹿からしさに自嘲した。
 そして。だから。死を恐れ、のろいの紋章に固執した。

 貴方によって目覚めを与えられ、貴方によって育まれ。けれど貴方とはあまりにも真逆に出来上がった僕のこの感情。
 それでも、それでも。こんなでも。
 僕は貴方を愛してる。
 貴方だけを求めてる。
 これだけは本当。偽りなき真実。
 これだけが、僕の全て。僕の全部。

 だって、僕の全て、貴方に恋してる。
 出会ったあの時全て、貴方に惹かれてる。

 ねぇ、だから。



『――友達になってくれないか?』



 素っ気無さを装って。僕は本当交じりの嘘をつく。僕の、精一杯の差し出した手を、取って欲しい。





けれど恋より一途で、愛よりも強力な思い。







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 書いてる途中で打ち間違いが多くて嫌になりました。只今別のことに気を囚われていてサイト運営スランプ中。独白系は本当に書きやすくて、こういうスランプ中はこういうのばかりになってしまいます。うちの4主は本当にテッドが大好きでどうしようもないです。タイトルがどんどん長くなった。初めは『Love at first sight』だったのが、『Love at first sight. and You please fall in love.』となり落ち着きそうだったのに。馬鹿だからさ…。でもウザイから一番初めのが正式なタイトルだと思います。
 ご意見ご感想お待ちしております。_(c)2006/11/17〜18_ゆうひ。
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