再会の章 







 人込みの中を歩いていても、誰もこの異常性に気がつかない。
 雑多なそこでは、人はその顔を覚えることなく通り過ぎるだけ。
 けれどひとたび腰を落ち着けてみれば、誰もがその異様な様に声を潜めて囁きだす。
 それだけの孤独にならば、いくらでも耐えることができたのかもしれない。
 それ以上に辛いのは。
 耐えることのできぬ本当の孤独は。
 自分以上に、自分の回りの誰かが傷ついていくことの恐怖と、絶望だった。





 気がつけば上も下も定まらない不思議な空間にいた。輝く光点が星のようにあたりに散らばるその様は、まるで自分が夜空の中に佇んでいるような錯覚を与えてくる。
なんだかやけに懐かしい気持ちが胸のあたりに渦巻くのを感じながらテッドはあたりを見回し、ここはどこで、自分は何をしていただろうかと考えていた。よくよく注意してみれば、ところどころで別の空間と接触している面が見える。まるで継ぎ接ぎのようなそこに気にかかるものが視界の片隅に捕らえられたように感じられ、テッドがよりよく見ようと注意を向けかけたそのとき。

「テッドさん…」
「サツナ…?」

 すぐ隣から聞こえた声に、テッドは瞠目する。あまりの驚きにそれ以上の言葉は出なかった。
 そこには百年以上も前に分かれたはずのかつての仲間が、大きな美しい瞳を潤ませてテッドを見上げていた。アクアブルーの瞳からまさに涙が零れ落ちるのではないかと心配したとき、サツナが微笑みとともにテッドに抱きついてきた。喜びと切なさが綯い交ぜになったようなその笑みに、しっかりとしがみついてくるその腕に、テッドは何もわからずとも自分のなすべきことを悟る。それはただテッドがそうしたいと感じただけのことでもあり、また、ずっと、そこれそ彼が生きてきた半生をかけて、そうしたいと願い続けてきたものでもあった。
 サツナの方に腕を回して、その体を強く抱きしめる。サツナがその頬を、額を、髪を、テッドの胸に擦り付けてそれに答える。
 ようやく会えたのだ。
 ずっと待っていた。
 適わぬ約束と知りながら、それでもあきらめきれずに、ずっと。

「テッドさん、戻りましょう」

 サツナが微笑み、テッドは首をかしげた。まだ状況が上手く飲み込めていないためだ。

「サツナ、俺は…。それに、ここは……?」
「あとでちゃんと説明します。それよりも、今はここを出ましょう。この、ソウルイーターの『腹』の中から」
「ソウルイーター…!」

 サツナのその言葉に、テッドはおおよその事態を一瞬にして悟った。
 継ぎ接ぎだらけの空間が正常な空間へと戻っていく。夜空の世界が消えて、地に足をつけて立っていることの確かに感じられるその空間は、何か心に引っ掛かる、青い光を淡く放っていた。

「テッド!」
「…レイ?!」

 息せき切って掛けてくる赤い塊は、見間違えようもない。テッドが三百年もの間守り通してきたソウルイーターを託した、二人といない親友のレイ・マクドールだ。
 転がってしまいそうな勢いで飛び込んできたレイを支えてやり、テッドは鮮やかな笑みで迎えた。それは、レイがもっともよく知るそれとなんら変わらぬ、テッドの笑顔だった。

「よぉ、レイ、久しぶりだな!」
「テッド…」

 感動の場面のはずなのに、どこかあっけらかんとしたテッドの挨拶に、レイは苦笑する。喜びのあまり涙が滲んでいるのを感じていたが、どうでもよかった。苦笑も苦笑になりきれずに、やはりただの笑みになっているのかもしれない。

「ん?誰だ、そいつ」

 レイが何かを云うよりも早く、テッドがレイの体に隠れるようにして立つホノカを見つけて訊ねた。
 レイの肩からの突然覗いたテッドに、ホノカはあわててお辞儀をする。ゲンカク養父の厳しい躾の賜物だろうか。
 それでも大好きなレイの大切な人への興味は抑えきれるものではなかったようで、ホノカが上目遣いにテッドの様子を伺い見ると、彼はすっきりとした笑いでホノカの肩を打った。

「そんなかしこまらなくていいって。俺はテッド。お前は?」
「あ、ええっと」

 ホノカがあわてすぎて上手くしゃべれずにいると、横からレイの落ち着いた声が響いてきた。その声音には、滅多に見せることのない喜びが、あふれるばかりに含まれているように感じられた。

「テッド、彼はホノカ。ああっと…どこから話せばいいかな。……君がいなくなってからいろいろなことが起こりすぎて、どこから話していいのかわからないよ」
「あー…いや、とりあえず、ここどこだ?なーんか、見覚えはあるんだけどな…」

 ホノカと簡単な挨拶を交わし、テッドはあたりを見回す。困ったように眉を八の字にする彼の腕の裾を引くものがあった。

「サツナ、どうした?」

 目を向けたそこには上目遣いで見上げるサツナの姿。せっかく150余年ぶりの再会を遂げたにもかかわらず、いまだきちんと相手をしてもらっていないことに拗ねているようだ。サツナの唇は僅かに噛み締められていた。
 どこか訴えるようなその眼差しに、テッドは二、三瞬きをしてからおもむろに笑みを浮かべた。優しさと愛しさに満ちたその微笑みは、サツナを腕の中にそっと抱きしめて、そのさらりと流れる髪に口付けを落とすテッドの感情をそのまま表したものに違いない。
 テッドに羽のようなキスを贈られて、サツナの顔にはそれまでの彼からは想像もつかないような、幸福に満ち溢れた微笑が浮かんだ。はんなりと頬を染めた彼の、まるで夢見心地の蕩けるような瞳は、今やテッドしか写していない。
 突然繰り広げだした恋人たち――本人たちからはっきりと聞いていないので、いまだ推定ではあったが――の甘い逢瀬に、レイはそっと視線を反らし、ホノカは瞳を丸くした。

「テッド…」
「あ、悪ぃ、レイ。忘れてた」
「おい…」
「あはは、気にすんな」
「いや、まぁ、いいけどさ…。それより、彼は……」

 困惑気味に訊ねるレイに、驚かされたのはテッドの方だ。てっきり恋人と親友の二人は、自分の知らないところで知り合いにでもなっていたのかと漠然と思っていた。

「は?なんだよ、お前ら自己紹介もしてないのか?」
「いや、名前だけなら聞いたよ。彼が罰の紋章を持ってることと、君たちが150年前に知り合ったってことまでは」
「……いや、それでほとんど全部だけどな」

 テッドの横には満足そうに、彼の体に腕を回して張り付くサツナの姿がある。レイが聞きたいのはその状態の方だ。隠し事のないと思っていた親友に恋人がいたというのは、なんだかとってもムカつく…。

「いや、二人が知り合ったいきさつとかがよくわからないし、そもそもサツナって何者なんだか…」
「はぁ?そんなことも確認してないのか?」
「いや、君を生き返らせるから手を貸せって、半ば強制的に話を進められて…」
「あー…なんとなくその光景が目に浮かぶな……」

 どこか遠くを見やるテッドに、レイもまた似たような瞳であらぬ虚空を見上げた。サツナは相変わらずテッドに擦り寄っている――まるで飼い主に懐く猫のようだ――し、ホノカはいつもと雰囲気の違うレイにいささか戸惑っていた。
 レイは気を取り直してテッドへと視線を戻した。

「ええっと。君たち二人は恋人同士とかだったりするのかな?」
「ああ」
「……」

 推測は確信へと変化した。
 半眼に、心持ち口端を引き上げてという奇妙な笑みを浮かべて問うたレイに、テッドは軽くうなずき、その横ではサツナが無言で首を縦に振った。

(ああ、そうかよ、このバカップルめ――!)

 レイは胸中で呟く。ムカつくを通り越してなんだかどうでもよくなっていた。

「んで、何がどうなってるんだ?」

 先ほどからずっと問いかけているのに、その度に話が反れてまったく答えの返らぬ問いを、テッドは再び繰り返した。眉根を寄せて体勢をわずかに落としたのは、いい加減に疲れてきたためであろうか。

「ああ、そうか。それについて答えてなかったな。――ええっと、おまえが自分をソウルイーターに喰わせたのは覚えてるか?」
「ああ。ウィンディに捕らえられたときだろ」
「そう。で、あれからまぁ、いろいろあって――とりあえずウィンディは死んだらしい」
「らしいだと?」

 レイの曖昧な言葉に眉をしかめるテッドに、レイは肩をすくめて答える。

「こちらでは確認が取れていないんだ。だが、サツナの証言によると間違いなくウィンディは死んだらしい。彼がウィンディの所有していた門の紋章の表を持っているのも、その証拠だろうな…。で、その紋章を使ってテッド、君をソウルイーターから引き戻した。ちなみにここは魔術師の島のレックナートの塔で、ソウルイーターへの入り口を開いたのは彼女だ」

 と、レイが体の向きごと振り向くことで示した先にいたは、先ほど名前の上がったレックナートだ。
 彼女は静かに佇み続け、テッドはまっすぐにそちらへ視線を向けた。
 交わされる会話はなかった。
 レイの話を信じるのなら、彼女のおかげでテッドは生き返ることができたらしい。だが、テッドは彼女の同族であるウィンディによって運命を狂わされた。しかし、彼女自身はテッドに対して何の危害も加えてはいない。
 テッドの村を滅ぼしたのは、レックナートの同族であるウィンディだ。その後、ソウルイーターを継承したテッドを執拗に追い詰めたのもウィンディである。レックナートはそれを止めようとはしなかった。しかし、彼女にはかならずしもウィンディの行動をとめるべき義務はなかった。そして、彼女の妹は結果的に、テッドからソウルイーターを受け継いだレイによって死に追いやられた。
 だから、二人の間には交わすべき言葉など何もなかった。
 レックナートは一度だけ会釈をしたようだった。常人であれば、頭を下げずに瞳を閉じることで示す程度の会釈だ。そして、静かに広間を後にした。

「いいのか?」
「ああ。別に、いまさらだしな」
「そうか…」

 肩を竦めて云うテッドに、レイはそれしか返せなかった。
 サツナがテッドの服をぎゅっと握り締めて、それに気がついたテッドがサツナを慰めるようにぽんぽんっと、子供にするように頭を撫でれば、サツナが安心したように、ほっと息をつく。滅多に動くことのない表情は、テッドの前では実によく動く。それにしたってその動きは些細なものであるから、それだけで、それを的確に感じ取っているらしいテッドとサツナの絆が深いことが証明されているといえる。

「それで。サツナ、お前、何をしたんだ?」

 テッドがサツナに向き直る。サツナはレイたちとはじめてあったときの瞳の鋭さはどこへ消えたのか。どちらかといえばレイのように容赦なく深奥を見透かすようだった瞳は、今ではホノカのように純粋に輝いている。
 くりくりと、まるで小動物の瞳のような曇りのなさでテッドを見つめるサツナに、まったく動じることのないテッド。レイは親友の偉大さに、内心感心していた。
 サツナが答える。まるで舌っ足らずな子供が説明しているようだった。

「テッドさんを追いかけて旅に出たの。でも、テッドさんはもう自分をソウルイーターに喰わせてて…門の紋章と覇王の紋章を拾ったから、レックナートにも協力を約束させて、レイを連れてきたの」

 声音にほんの僅か、切なさと愛しさが含まれているように聞こえ、話し終えたサツナはその思いのままに、再びテッドの胸に自分の頬を触れさせて抱きついた。瞳を閉じるのは、触れたそこからテッドのぬくもりをより感じたがためだろうか。
 テッドはサツナの自由にさせている。その代わりかどうかは定かではないが、サツナの切なげに眇められてた瞳へ対する反応は皆無だ。ただ、まるで父親が己に抱きついてきた子供の頭を撫でるのに酷似した仕草で、サツナの頭にテッドの手が載せられていた。

「覇王の紋章か…」

 呟き、テッドは己の右手の甲に視線をやった。かつてしていた手袋が変わらず嵌めてあるそこに、確かに大きな紋章の存在を感じる。ソウルイーターとは違う、しかし普通の紋章とも明らかに異なる『真の紋章』の気配。
 テッドは拳を握り締めた。

「わかる。たしかに、ここにある」
「…テッドさんはもともと魔力もとても高かったし、昔から他人の宿した紋章もむりやり発動させられるくらい紋章扱いに長けてたから…きっと、封印から放たれた覇王の紋章は、テッドさんなら認めると思ったの」

 サツナが首を思い切り後方へと倒してテッドを見上げる。そこまでしてテッドと体を密着させていたいのだろうかと、突っ込むものは誰もいなかった。
 それよりもなぜ覇王の紋章でテッドがここに存在できるのか。テッドの肉体は、たしかに消滅したはずなのに。

「覇王の紋章の能力は、他の紋章の能力を無効にするだけじゃないんですか?それとも、真の紋章の力なんでしょうか?」
「いや…。覇王の紋章は、宿主がとりたいと思う姿をかたどり、顕在化する力があるみたいだ」

 ホノカが首をかしげながらも推測すると、テッドが意見を述べた。じっと、逸らされることなく見つめる先にあるのは、彼の右手――覇王の紋章が宿っているはず――の甲だ。
 まるで睨み付けているかのように、その顔は険しいものだった。

「宿主がとりたい姿、ですか?」
「ああ」

 テッドはバルバロッサが最後に三つ首の竜に姿を変えて襲い掛かったことを知らない。しかし、高い魔力を持ち、長年真の紋章に触れてきたテッドやサツナには、その意思を汲み取ることがいまだ真の紋章を手にして日の浅いレイやホノカよりも容易いのかもしれなかった。

「まぁ…本当のところは何もわからないんだけどな」

 そう小さく呟くテッドはどこか自嘲気味な微笑を浮かべていて、レイはただそれを目にするのみだった。親友の老成した表情に彼が何を感じたのか、その表情からは読み取れない。
 あまりにも小さすぎて、いまだどういう仕組みでテッドが戻ったのかと首をかしげているホノカは木塚なったらしい。よほど気になるようだ。それがたとえたわいのない小さなものだとしても、きらきらと好奇心に瞳を輝かせる姿は好感が持てるものだった。
 すぐ隣にいるのだからサツナには聞こえていただろうが、彼は特になんの意見もないらしい。彼にとってはテッドが自分の触れられるところにいる、その結果だけがすべてなのだろう。

「あ、そうだ!」

 ぱんっと、高く音が響き、視線を向けるとホノカが手を打ち合わせた状態で口を開いていた。

「どうしたんだい?ホノカ」
「いえ、サツナさんて、ずっと旅をしていたんですよね?」
「そう」

 サツナがこくんと、首を縦に振って頷いた。
 ホノカが首を斜めに傾げる。

「これからも、旅を続ける予定なんですか?」
「まだ考えてない。テッドさんが行きたいところがあるなら、そこにする」
「テッドさんは?」
「俺は別にどっちでもいいけど……あ〜、でも、一度、レイんところに行って挨拶した方がいいのか?」

 がしがしと頭を掻きながらテッドがレイを振り返る。矛先を向けられたレイは軽く肩を竦めた。それから柔らかな表情で語る。

「いや、無理にする必要はないさ。ただ、あそこはテッド、君の家でもあるんだから、いつでも好きなときに帰ってくればいい。いつ帰ってきたとしても、グレミオも、クレオも、パーンも…みんな、テッド、君を歓んで迎えるさ。まぁ、はじめは驚くだろうけどね」
「……サンキューな。――あー…でも、それだと一度グレミオさんたちに挨拶して、ついでにシチューご馳走になって…」
「あはは。僕が頼むよりも腕によりをかけそうだ」
「はは、グレミオさんのシチューは世界一だからな。それなら大歓迎だ」

 苦笑するレイに、テッドが明るく返す。二人のやり取りにホノカは嬉しそうに瞳を細めて微笑み、サツナはただテッドに抱きつく腕の力を強めた。

「それなら、当分の間、テッドさんたちはレイさんのお屋敷に滞在なさるんですか?」
「僕はそれでもかまわないけど…」
「ん〜。迷惑じゃなければそれが一番いいかとは思うんだけどな」
「えっと…もしよければ、うちの城へ来ませんか?部屋数ならまだ十分ありますし…あ、もちろん戦争には参加してもらわなくても結構ですし」

 テッドに迷いがあることを見て取り、ホノカは意を決する心持ちで提案した。彼がリーダーを務める解放軍が本拠地としているアサキ城には、現在レイも滞在している。かなりの広さを有する古城であり、現在も増築が進められているので、部屋数は十分に余裕があった。
 何よりテッドはレイの――亡くなったと聞いていた――親友だというのだから、ぜひ客人として迎えたという思いが、ホノカにはある。

「城?戦争?」
「ああ、説明がまだだったな。ホノカは現在トラン共和国――赤月帝国崩壊の後に建国されたんだが――その北、ジョウストン都市同盟の現同盟軍のリーダーを務めているんだ。その本拠地であるアサキ城に、僕は今、部屋を用意してもらっているんだ。その代わりに、ホノカの護衛みたいなことを手伝ってる」
「へぇ…都市同盟軍、ねぇ……。トランのお前が滞在してるってことは、相手はハイランド皇国か。ああでも、グラスランドともきな臭い情勢だったか」
「お察しの通り、現在の交戦相手はハイランドです。正確に云うと、ジョウストン都市同盟はすでに瓦解していて、現在の同盟軍はミューズ市によって設立された傭兵隊を基盤にして立て直されたものなんです」

 テッドの洞察力に、ホノカは内心で目を見張りつつも答えた。彼には最低でも三年以上、情報の空白期間があるのに、こうも的確に情勢を見る力があるのか。
 そしてだからこそ、彼は300年という長い逃亡生活を可能とすることができたのだろう。ホノカがなおも説明しようと口を開きかけたのを制したのは、他ならぬテッドだった。

「ああ…っと、その辺の事情はおいおい聞かせてもうよ。迷惑じゃなければ、だけどな」
「迷惑だなんて」
「一つ確認しておくけど、お前の狙いは真の紋章じゃないんだな」
「はい。もちろんです。…たしかにそれを使用しなければならないときがありますが、それはあくまでも僕が…、僕と、『彼』の問題です。もちろん、レイさんにもソウルイーターの使用をお願いしたことはありませんし、これからもそうするつもりはありませんし、させません」
「テッド、それは本当だ。僕がホノカの護衛をしているのも、僕が好きでやっていることで、強制されたものではない。彼が君に…君たちに、戦争への参加を強制することがないのは、僕が保障する」
「そうか。おまえがそこまで云うのなら確かだな。それ以上の保障はないさ。――それじゃあ、お言葉にお前させてもらうかな。よろしくな、ホノカ」
「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします!!」

 テッドが手を差し出すと、ホノカが嬉しそうにその手を取る。レイはホノカの肩に手を置き、「よかったなとばかりに、微笑を送った。

「おら、おまえもちゃんと挨拶しろよ、サツナ」

 トンッと、テッドに背中を押されて一歩を踏み出したサツナは、無表情のままに「よろしく」とだけ告げ、そのままテッドの元へと引き返す。そして再び、ぴったりと彼の腰に腕を回して張り付かんばかりに抱きついてしまった。
 そのあからさまにいい加減な態度に、場に幾ばくかの沈黙が落ちる。テッドの米神が怒りに震えた。

「おまえは…」
「テ、テッドさん。サツナさんからはあれだけしてもらえればもう十分ですから!」

 拳を握り締め、今にもサツナの脳天に拳骨を落としかねないテッドの形相に、ホノカがあわてて止めに入る。レイはその様子を見て、楽しそうに瞳を眇め、サツナは悪びれた様子もなく、テッドにひたすら張り付いていた。
 こうして、彼ら四人は揃い、これからの日々が始まる。太陽暦460年の、ある初夏の日の出来事だった。









talk
 テッド復活こじつけ話最終話です。もともと明るい感じの楽しいものにしようとは思っていたのですが、途中まで書いて数日時間を空けて再び執筆を始めたら、がらっとギャグに転びました。本当はもっとテンポよく進めたかったのですが、なんか説明調になってしまって残念。もっとテッドと坊と4主の再会と、2主との出会いを丁寧に書きたかったです。やっぱり一気にすべてを書こうとするとごちゃごちゃしてしまって自分の力のなさを痛感するだけですね。そのうちキャラそれぞれ個別でこの場面を振り返らせてみたいと思います。そうすればそのときの印象などをもう少し丁寧に書けるのではないかと…。ちなみに覇王の紋章はどんなだかわかりませんので形の描写は出しませんでしたが、おそらくクラウン型じゃないかな?と推察しています。王者の紋章に似た感じで、もっと大きくて刺々しい感じではないかな〜…と。
 とりあえず、この話一番の誤算は冒頭がテッド視点から始まったことですね。いろいろ狂いました。

 ご意見ご感想お待ちしております。_(c)2005/10/06・9_ゆうひ
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