キミに魅了されて
























キミに魅了されて

目が離せない――




















 劉鳳は信じられずに目を見開いていた。
 目の前に居るのは自分が現在もっとも敵対している人物。
 その人物の名は「カズマ」。憎むべき男――だと思っていたのだ。

 一体これはどう云うことなのだろう?
 劉鳳は我が目を疑っていた。

 目の前にいるカズマは、絶影の攻撃によって満身創痍状態だ。衣服も所々切れ、傷だらけになった素肌が覗いている。
 そこはいい。
 問題は、そこから覗く素肌の方だった。

 傷だらけに違いはないが――何せたった今、自分――劉鳳――がつけたのだ――そこから覗く躯は男性のそれとは明らかに違っている。ふんわりと柔らかそうな、丸みを帯びているのだ。そう、まさしく女性のそれのように……。

 胸には、決して豊かだとは云えないまでも、容(かたち)の良い膨らみが見え隠れしている。
 いや、この際それもどうでも良いだろう。
 問題はこの焦燥だ。

 何故こんなに自分は焦っている?
 鼓動が早くなるのだ?
 こいつは憎むべき相手のはずだ。
 男だろうが女だろうがそれに変わりはないはずだ。
 倒さなくてはならない相手。
 だから追いかけていたはずだ。
 だが…。

 カズマが女だと分かって、今まで気付かなかった別の感情に気がつく。というよりも、己の感情を正しく理解したと云った方が良いだろうか。
 劉鳳はとどのつまりカズマに惚れていたのだ。

 追いかけていたのは憎んでいたからではなく惹かれていたから。手に入れたかったから。
 憎しみだと思っていたのは、彼女を男性だと思っていから。今ある自分を支えている信念と使命感から。

 たぶん。
 初めて相対した時に、自分は何かを感じていた気がする。

 歴史の分岐点なんて、その時を生きている本人達には気が付けない事が多く、それはあとから振りかえって、この瞬間がそうだったと言えるものだろう。全てが全てそうだとは言えないが、大きな出来事ほど目が眩んで良く見えないのだ。あまりにも必死過ぎて、気が付けないだけかもしれないし、そんな大きな出来事だという気すらないだけかもしれない。

 つまりはそう云うことなのだと。
 劉鳳は自分の気持ちを知った。

 気が付かなければそれまでの気持ち。
 気が付けたことに感謝したい。
 素直にそう思えた。

 憎しみと愛情は実はよく似ていて、どちらも抑えようの無い激情だ。時に自分ですらコントロールが利かなくなる。
 奇妙な違和感のあった憎しみが、ただ欲していたという愛情に変わった時、今まであった奇妙な違和感や自分の中のわだかまりのようなものを消していった。

 自分は惹かれていた。
 そして盲目的に欲していた。

 気が付けば簡単な事だった。

「カズマ!」

 劉鳳は叫び、絶影の触手カズマに向けた。
 カズマは後方に飛んでそれを避ける…が、それよりも一瞬はやく、絶影から延びた触手がカズマの足首に巻きつき、その身体を引き寄せる。

 身体中に巻き付いた青い触手に拘束され、カズマは身動きが取れないままに劉鳳の元へと引き寄せられる。
 必死の抵抗は虚しくも泡と消えた。

 己が身体を閉じ込める檻と化した絶影の触手の隙間から、カズマは劉鳳の赤い瞳を見る。いつもとは微妙に違う色をいているような気がしたが、深くは考えない。そんな事は今はどうでもいい事だった。

「おい!放しやがれ!!」

 声の限り叫ぶが、劉鳳は薄く笑うだけ。
 余裕綽々。と言った感じの劉鳳のそんな態度に、カズマは更なる叫びを上げようと息を吸い込んだ。

「へ?」

 カズマから漏れたのは罵倒ではなく間の抜けた声だった。
 絶影の触手から身体が開放され、今度は何故か劉鳳に抱き締められている。しかもその手は優しい。

「気付かなくてすまなかった。愛する女性に対してこんな…」
「は?」

 劉鳳が何を言っているのかが、カズマにはよく理解できなかった。
 自分が女性ではなく男性であると勘違いされているらしい事は気が付いていた。別にこれが初めてというわけでもなければ、意図してそう云う姿をしていると云うこともあるのだから。
 そう。だから「女性に対して」という部分は些か理解できるのだ。

 解らないのはその言葉の前。
 …「愛する」ってなんですか?

 カズマの頭に中ではハテナマークが数限りなく舞い踊っていた。

 女だとか男だとか。
 ここにいる人物はそんな事を気にする相手ではないと思っていた。
 倒すべき敵。
 それが互いの関係だった筈である。

 だがしかし――。

「カズマ」

 カズマがそこまで考えた時、それまでずっとカズマを抱き締めて身動きしなかった劉鳳が声を上げた。
 優しく、慈しむような声だった。

「な、なんだ?」

 カズマは幾分か警戒しながら返事をした。
 なにかやたらと嫌な予感がする。

「幸せにする。ぜひ一緒になって欲しい」
「・…………………は?」

 劉鳳の言葉に、カズマは一瞬絶句して。やはり間抜けな声しか上げられなかった。

「いきなりで戸惑うのは分かっている。だが俺は本気だ。後悔はさせない」

 劉鳳の真摯な言葉に、カズマは訳が分からず気絶寸前だ。
 こいつは何を言っているのだろう?
 もしやこれは精神攻撃?
 そんな考えまでもが脳裏をよぎる。

 そんな呆然自失一歩手前のカズマを助けたのは、以外にもホーリー隊員の一人であった。
 そのホーりー隊員の名はシェリス=アジャーニ。
 抱き合う――正確に言うと劉鳳が一方的にカズマを抱きかかえているだけなのだが――二人に向けて、叫び声を上げたのだ。

「何やってるのよぉぉぉ!!」

 その声に我に返ったカズマは思いっきり劉鳳をひっぺがし、一目散に離れて距離をとった。
 一度だけ立ち止まり…カズマにしては至極珍しく何も云わずに立ち去る。
 後には劉鳳のとっぴな行動に呆然と立ち尽くすホーりーたちが残された。

「ふむ。やはり性急過ぎたか」

 そんな彼らをよそに、劉鳳は一人呟いた。
 目下彼の頭の中には、カズマのことしかないであろう。

 カズマと劉鳳の戦いは激しさを極める。
 よって他者の介入の余地はない。近づくことすら出来ないのだ。
 遠巻きに二人の戦闘を見ていた者達はいまだ気が付いていない。カズマが実は女性だという事実に。

 唯一カズマの真の性別を知ったのは劉鳳を除けばシェリスのみ。
 この日、彼女には某お嬢様以上の――というか、お嬢様など目じゃない恋のライバルが生まれた。






















キミに魅了されて

まわりが何も見えなくなる





















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初スクライド小説。
初にもかかわらずいきなり裏。
しかも意味わかんない。
好きすぎる勢いで書き上げました。
劉カズvv(←今一番はまってる)
って云うかいきなり女カズマって何考えてるのさ自分。
最近頭の中こればっかりです。
嗚呼。もっとまともな物が書きたい。
そして表に置ける物が書きたい。


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