現実
―リアル―
さまよい さまよい ただ流されて さまよい さまよい 掴めぬ何かを探してる 人は求める 何を求める 何に酔う 夢に酔うのか 愛に酔うのか さすれば幻に さまよい さまよい 流されて 人は見る見る 現(うつつ)の真実 心の真実 危ういそれすら見つからず さまよい さまよい 求むるは 私の心を強く押す 確かに刻むる汝なり |
それは決して夢ではない。 そんな事は確認しなくても分かっていた。 分かり過ぎるほど。 ただそれを信じたくなかっただけ。 夢に囚われている暇はない。 現実を歩き続けなければならないから。 ただ分からなかった。 何故こうなった? 何時からこうなった? 何処からこうなった? 今のこの現状が違えようのない現実だと云うことはわかる。 分かり過ぎるほど…。 けれど理由はわからなかった。 こうなった理由。 それがわからなかった。 だるく重い身体を無理矢理起こす。 自分で自分に鞭打つような行為にも思えたが構わなかった。 身体を上げる為に動いた為に、煙るように埃が舞う。 かび臭い匂いが鼻につき、カズマは僅かに顔を顰めた。 まるで悲鳴を上げるかのようにベットのスプリングがきしんで音を発する。 カズマは周囲へと視線を巡らせた。 薄暗いそこを注意深く見つめるその瞳は金がかっており、端から見れば密林の獣の瞳を彷彿とさせる。 獲物を狙う、暗闇で光る瞳。 赤く光る金の光線を尾に軌跡を描きながら、その瞳はゆっくりと、この空間全体を見渡していく。 「……」 そこには誰もいなかった。 誰かがいて欲しかったわけではない。 むしろ誰もいない事に安堵の溜息をつく。 はじめて身体から力が抜けたようだった。 身が軽くなる。――心と共に。 ロストグランド。 そう呼ばれるそこには、捨て置かれ、もはや無人となった建物は決して珍しくない。誰に使われる事もなく朽ちていく建物たち。 それは実は街中にあったり、荒野と化した風景に寂しく存在していたり。 カズマが現在身を置いているのは、そんな数ある廃墟の一つだった。 身を置いていると云っても、そこで生活しているわけではない。 一時的に体を休めている。 そんな感じだった。 この廃墟はもやはとっくに廃棄された街と共に棄てられた物らしかった。 街というよりは村か。 小さな家が小さな土地に密集していたらしい。 薄暗くて汚くて。 草もなければ木も生えていない岩だらけの所。 それですべてが語り尽くされてしまえるような場所だった。 カズマはここに来た経緯を思い出して再び顔を顰めた。 思い出したくもない。 彼の表情は雄弁にそう語っていた。 思い出したくない事と云うものは、意識せずとも案外簡単に思い出してしまうものである。 特にその事柄が起きた直後ならば尚更。 最も強く印象に残っている事柄が頭の中を駆け巡るのを止めることなどできはしない。 それ故に忘れたいとも願うのだ。 忘れようと意識している内は、どうしようとも忘れられない。 それを考えてしまっているのだから――。 それは昨日の事だった。 おそらくは日の沈みかけた頃だった。 あいつに会った。 碧の髪に褐色の瞳のあいつ。 やけに整った顔立ちの…けれどひどく恐ろしい顔をしたあいつ。 ひどく恐ろしい顔をしているくせに、どうしようもなく哀しそうなあいつ。 寂しさと迷いと。 強い意志と迷わぬ信念と。 人を拒絶しながら、一人で歩みながら…それでもまだ誰かが隣にいてくれる事を求めているような――。 そんな矛盾した奴だった。 出会って、言葉も交わさずに殴り合った。 それが互いの関係だったから。 お互いに互いの存在も考えもやり方も。 何も受け入れられないし認められない。 ならば相対して戦う。 唯一の共通項な気がする。 もしかしたらすべて同じなのかもしれない。 相手から見れば自分がそう写っているのなら、実は同じなのかもしれない。 立っている世界が違っていて。 歩んできた道が違っているだけで。 実は同じなのかもしれない。 それでどうなるわけでもないが。 名を劉鳳と云った。 ひどく強い目をしていた。 実際、彼は強かった。 だから自分も強くなれた。 今まで以上に。 彼は珍しく一人だった。 はじめ服装が常のそれとは違っていて、見間違いかと思った。 実際、見間違えるはずがないとは、後で思ったこと。 強く刻み付けたから。 ――この心に。 闘いながら、彼は自分の事を捜していたと言った。 だから答えた。 何の用かと。 自分には用などないと。 あるとしたらこうして。 こうして闘うだけ。 全力で。 「!」 一瞬の事だった。 不覚にも劉鳳のアルター絶影の触手に捕まり、そのまま彼の前へと引き寄せられた。 強く睨み返すと、彼も強く睨み返してくる。 いつもの表情。 劉鳳の手がカズマの頬に触れ、カズマは顔を顰めた。 強い眼差しであった褐色のその瞳に、どこか温かな穏やかさが混ざる。 見たことの無いその瞳にカズマは見とれ…。 口元に温かな感触を感じ、我に返った。 目を見開く。 数センチも離れていない距離に劉鳳の顔。 触手によって吊り上げられた形になっているカズマは、目の前の切なく自分を見つめるその姿を見下ろす格好になっていた。 「なに…」 その後に続く言葉は数限りなくて。 結局何の言葉も紡げなかった。 「会いたかった」 いまだカズマの頬に触れながら…。 劉鳳は静かにそう云った。 その瞳はどうしようもないほど切なくて。 まるで捨て犬でも前にしているかのようだった。 怒りも闘争心もみんな失せて。 カズマは仕方が無いとでも云うかのように息を吐いた。 全身から力が抜け、右腕のアルターも解かれる。 劉鳳はカズマを絶影の拘束から解放し、けれど代わりに今度は己の両の腕(かない)で拘束した。 そっと抱き寄せ、抱き締められる形になって、それでもカズマは大人しく黙っていた。 (何してんだか…) 自分で自分に呆れたように言ってみる。 実際呆れていた。 本当に、自分は何をしているのか。 何を大人しく抱き締められてなどいるのか。 「何してんだよ」 もう随分とこうしてから、ようやく口を開いたのはカズマだった。 別に怒りは無い。 かわりに対した感情も感じられなかったが。 「会いたかった…お前に」 「なんで」 答える劉鳳に――それはカズマが問うた疑問の答えとしては不適格だったかもしれない――カズマは再び訊ね、劉鳳も再び答える。 「わからない」 「アホか」 「…かもしれない」 言葉が途切れた。 また静寂。 「何でオレ抱き締められてんだぁ」 「俺が抱き締めているからだ」 「だからなんでお前はオレを抱き締めてんだよ」 「そうしたいからだ」 カズマは溜息をついた。 抱き締められておらず、身体――と云うか腕の自由がきく状態であったならば、思わず顔に手を置いていただろう。 「だから、どうしてそうしたいのかって聞いてんだよ」 お前バカだろ。 そんな言葉が小さく付け加えられる。 劉鳳は顔を顰めた。 答えに詰まったからだ。 何故か。 そんな事はわからなかった。 ただそうしたくて仕方が無かった。 カズマのことばかりが頭を過る。 そのうちに触れてみたいと思うようになった。 抱き締めてみたいと思うようになった。 それから…。 「わからない」 触れて。 抱き締めて。 それから…。 劉鳳はカズマをより強く抱き締めた。 わけも分からずに不安に襲われていた。 不安から逃れるかのように、劉鳳は強くカズマを抱き締めた。 「カズマ…」 「なんだよ」 呼べば答えが返ってくる。 不機嫌そうな。疲れたような声で。 返されると云うそのことが何よりも暖かった。 嬉しかった。涙が出そうになるほど。 「カズマ…」 「だからなんだよ」 もう一度キスをした。 それから…。 カズマは溜息をついた。 頭が痛い。 体が重かった。 それから廃墟の一つに連れ込まれて。 あらがう間も無いままにベットに寝かされて。 情けないことに意識を手放した。 意識を手放す直前に見たあの顔が忘れられない。 切なくて。 痛々しい顔だった。 泣きそうなその顔を見て、泣きたいのはこっちだと…。 ――心の中で毒づいた。 その行為は無理矢理で。 決して相互の同意の元でなんてありはしない。 行動とは裏腹に、その表情はあまりにも切なすぎて――。 溜息が出る。 もう何度目だろうか。 結局その理由はわからない。 無理に知りたいとは思わないかもしれない。 結局の所どうでもいいのだろうか。 その行為には確かに愛情を感じて。 その瞳は確かに自分を求めていて。 けれど。 それで許せるものではない。 信じたくないのは確かで。 でも夢ではないのも確かで。 結局の所、認めるしかなくて。 (なんだって云うんだよ…) 自分で自分に嫌気がさした。 云いようの無いイライラが募る。 無意識に髪を掻き揚げた。 |
その人は実に矛盾して見えた 強く孤独に見えて けれど寂しそうで辛そうで 決して迷い無く自分の道を歩いていて なのに自分の行動に疑問を感じていて けれど そのすべてを受け入れよう 確かな現実として 夢に逃げている暇も 愛に浸っている余裕も無いから 幻に溺れなんてしない それがいつ嘘に変わるかなんて分からないから ただ現実だけを認めよう それだけはいつまでも本当だから 変わり続ける世の中にある 唯一絶対の真実だから 明日に生きるために 遥かへ生き続けるために |
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ちょいとだけスクライドOP(カズマVer)をイメージして書きました。
って云うか劉カズになってるのかな?これ。
いまいち不安…(汗)
話し事態中途半端だし。
劉鳳サイドも書いた方が良いかも?
何となく、ゆうひの中ではただいまシリアス強化週間実施中。
でもあんまりシリアスでもない?
劉カズって難しいな〜。
でも好きだから頑張るのさ!
-------------------------------------------------------------モドル---------