金色の瞳





















暗闇で一人

泣いている私を救い出してくれたのは

金の瞳の美しい

その人の右手の温かさでした




















 父も母もいなくなって…私一人。
 暗い暗いところで泣いていました。

 そこには誰もいなくて。
 ああ…私はこのまま一人で…この世からいなくなるんだ。
 そんなことを漠然と、頭の片隅で考えていました。

 一人はとても寂しくて、寂しくて…。
 けれど、知らない誰かの傍にいるもの嫌でした。

 人が恐い…?

 私は人見知りが激しいらしくて…どうしてか自分でも分からないけれど。
 自分以外の誰かと話すのがとても苦手で…。
 そういえば…父や母とも、話すのにどきどきしていたような気がします。

 私一人。
 暗い暗い寂しいところで、一人泣いていました。

 瓦礫だらけのそこで蹲り、なぜこうなってしまったのかもよく分からない状態のぼんやりとした様子で…。今にして思えばとても危険なそんな状況から私を救い出してくれたが、金色の瞳のあの人でした。

 その人がどこから来たのか、全然分かりませんでした。
 いつ来たのかも。
 近寄ってくる気配なんて全然感じなかったんです。
 急に声を掛けられて、ひどく驚いたのを…よく覚えています。

 忘れたりしません。
 あの人と、初めて逢った瞬間だから。
 あの人が、初めて掛けてくれた言葉だから。

 絶対に、忘れません。
 忘れたくないです。

「何やってんだ?そんなところで」

 頭上から響いた声に、俯いていて人の接近に気がつかなかった私は、びくりと肩を震わせて顔を上げました。

 そこにいたのは私よりずっと年上の男の子。
 琥珀のように明るい金がかった瞳を不思議そうに見開いて、私を見下ろしていました。

 正直、初めて逢った時はその瞳がとても恐かったんです。
 だって、暗闇で光るその瞳は、まるで野生の獣のそれのようで…。
 恐くて恐くて、逃げるように後ず去りました。

「こんな所で何やってんだ?お前。
お前みてぇなガキが一人でどうにかなる所じゃないぜ。ここは」

 金の瞳のその人は云いました。
 私はただ恐くて震えているだけで…。
 見を竦ませて怯えている私を、その人はほんの少し黙って見つめてから…一つ溜息を吐きました。

「ほら…」

 そうして差し出されたのはその人の右手。
 私はわけが分からずきょとんと。
 それでも怯えた瞳で彼を見返しました。

 怯えた瞳でその人を見上げる私を、彼は別に微笑んで安心させようとかそう云うことなど欠片も見せずに。
 ただ黙って、その手を差し出して待っていてくれました。

 私が…その手を取れるようになるまで。

 怯えて。怯えて。
 震える私を、その人は優しい笑みでも怒りの顔でもなく。
 ただ極自然に、当然に。
 それが当たり前であるかのような素っ気無い表情で、私がその手を取るのを待っていてくれました。

 どれくらい経った頃でしょうか。
 私は、あの時どれほどの時間あの人を待たせたのでしょうか。
 あの人は、あの時どうして私をあんなに待っていてくれたのでしょうか?

 手を…差し出してくれたのでしょうか?

 漸く落ち着いてきた私が、そろそろとその人の手に自分の手を伸ばし。
 躊躇うように、今だ怯えるように軽く触れると、その人はまだ待っていてくれました。

 私が自分から、その人の手を取るまで。

 躊躇いながらも取ったその人の右手は、今まで感じたことがないほど――今まで触れた誰の手よりも暖かく…優しく感じたんです。

 私が彼の手を取り、彼の手を軽く握り締めると、彼も私の手を握り返してくれました。
 そろそろと窺がうように彼の顔を見上げると、彼は私に微笑んでくれました。
 ぎこちない笑顔。

 それが、とても嬉しかったんです。

 私の為に、精一杯笑ってくれてる。
 そんな風に思ってみたりして…。

 ぎこちなくて…不慣れな微笑だったけど…。
 とても、とても暖かくて、安心できるものでした。
 優しい優しい…暖かさに溢れているのが伝わってきました。

 本人に云うと、すっごい否定するんですけどね…。
 でも、私はそう感じたんです。

 それから彼に手を引かれて…明るい日の下に出ました。
 ロストグラウンドと呼ばれる荒廃したそこは…とてもきれいでした。

 本当に…きれいでした。

「あ…あの…」

「?なんだ?」

 次ぎに声を掛けたのは私からでした。
 自分から声を掛けるなんて、初めてだったかもしれないです。
 どうしてそんなことが出来たのか、今でも不思議に思う時があるんです。
 けど…でも、彼にだからできたんだとも思います。

 彼と、話したかったんだと。
 そう、私が私の心の奥底から叫びに突き動かされたような。
 そんな気がするんです。

「どうして…私を……」

 本当だったら、「私をどうするんですか?」って聞くべきだったのかもしれません。だって、その人が私を助けてくれたなんて全然分からない事だったんですから。彼は、私を助けてくれるなんて一言も云ってないんですから。

 でも、彼はそんなこと気にはしなかったみたいで。
 「ああ…」と呆(ほう)けように一つ呟くと、今度は何もない宙の向こうをぼんやりと見やって…。
 ――それから。

「なんとなく」

 云いました。
 それは、決して嘘でもなんでもなかったのだと思います。
 彼はそういう人ですから。

 ただなんとなく。

 私はとても運が良いんだと思います。
 彼に、なんとなく手を差し出してもらえたのですから。

「あの…名前、聞いてもいいですか?」

 思えば人の名前を訊ねるなんて初めてだったかも…。
 凄いどきどきしてて、もしかしたら心臓が弾けてしまうかもしれないなんて…あの人は思ってもいなかったんでしょうね。

 きっと何も考えてなかったと思います。
 思った通りに生きている人ですから。
 思うままに生きる人ですから。

「カズマだ。で?」

「え?」

 カズマ。
 その名前はたったの一度で私の心の一番深い奥にまで染み込んでいきました。また初めてのこと。

 だから気がつかなかったんです。
 私、まだ名前を名乗ってない。

「あっ…かなみです。由詑かなみです」

「ふ〜ん…かなみか…」

「あの…カズマさん…」

 私の名前を覚えようとしてくれてるらしいその人は、何度か私の名前を反芻していました。
 そっと声を掛けると、その人――カズマさんは、眉を顰めて振り向きました。

 何か怒らせてしまったのだろうかと…。
 少し怯えながら彼の言葉を待っていると。

「カズマでいい…さんなんて付けられると、なんかすっげぇ変な気がする」

 心からの言葉のようでした。
 というよりも、彼は嘘なんて云える人じゃないんですけど…。
 だって、そんな事する必要ないんですから。

「あ…じゃぁ…」

 私は今までで一番どきどきしていました。

「カズくん…って呼んでもいいですか?」

 どきどきしていました。

「いいんじゃねぇの…」

 嬉しくて、思わず抱き着いてしまったんです。
 嬉しく嬉しくて。
 本当に、嬉しかったんです。

 その日から、私とカズくんは一緒に暮らし始めました。

 でも、その後カズくんのお友達の人と逢って…私が「カズくん」って呼んだの聞いて、その人すっごい笑って…。
 カズくん、急にそう呼ぶなって云うようになったんです。

 でも知ってます。
 カズくんが照れてそう云ったこと。
 本当は許してくれてること。

 呼なって云いながら…それでも。
 私が「カズくん」って呼べば答えてくれること。

 だから、私は彼にだけ心を開けるんです。
 心を許すことが出来たんです。

 だから、彼にも心を許して欲しいって…思うんです。
 私が彼を求めるように…彼に求められる存在になりたいと思うんです。

 私を暗闇から救ってくれたあの優しい手に繋いでいてもらう為に。
 あの人の役に立てるように。
 優しくて強いあの人の痛みを…少しでも和らげられるような。

 そんな存在になりたいんです。

 少し、図々しいでしょうか?

 それが、私の夢なんです。
 すっと一緒にいたら…もしかしたら、叶うでしょうか?




















暗闇で一人

私を光の下に連れ出してくれたのは

鋭く危険な爪を持った、温かなその右手のぬくもりと

あとはそう

獣のように強く純粋に真っ直ぐな

優しい金色の瞳でした



































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こめんと *-----



 
カズマとかなみの初めて出会いです。
 はじめはかなみちゃんが二人の出会いを劉鳳とかに話してて、
 最後に彼らを出そうかと思っていたけどやめました。
 これはゆうひの勝手な想像(希望)なので本気で信じないで下さいv
 公式でやるの待ちきれずに書いてしまいました。
 もし公式の方で出たら削除するか裏にでも移すかも…。
 ってか、やってくれるのか?!公式!!
 やるとしたら第二十話「由詑かなみ」でかなぁ?
 カズマは口では「カズくん」って呼ぶな。
 って云ってますが、絶対本心では許してますよね。
 じゃなきゃ彼の性格上、幾らそれがかなみちゃんでも許さないと思います。
 むしろかなみちゃんだから許されるのか?(それはそれで嬉しい)




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