疼く心
やっぱり女の子だし…。 |
「何持ってんだ?それ」 君島邦彦が指し示したそれとは、長方形の少し大きめな箱だった。 厚紙で出来たそれを大事そうに抱え持っているのは、赤みがかったくせっ毛に琥珀のように明るい金色の瞳の少年――カズマだ。 君島の運転する車に揺られながら、カズマはただ一言。 「別に…」 それだけを答えた。 それを見かけたのは偶然だった。 市街での仕事が終わって帰ろうかとしていた時だ。 ショーウィンドウに可愛らしく飾られていたのはレースとフリルで彩どられた子供服。 それはどこかのお姫さが着るような服――だと彼は思った。 (・……) とっさに脳裏をよぎったのは一緒に暮らす少女のこと。 いつもいつも同じような地味な洋服をくり返し着ている少女。 動きやすいこざっぱりとした服装を、その少女が嫌っているとはとても思えないし、少女が特別に可愛らしい洋服に――というか洋服その物に興味を持っている素振りは見たことが無い。 (でも…やっぱり欲しいよな……) 一瞬の逡巡。 カズマは生まれて初めて女の子服専門店に足を踏み入れた。 「カズくんお帰りなさい」 もうすでにその役目を終え朽ちかけた――それでも新たな役目の為に建ち続ける診療所から姿を現したのは、ポニーテールの愛らしいエメラルド色の瞳の少女だった。 薄茶色の長い髪をなびかせて、嬉しそうにカズマの元に駆け寄ってくる少女の名は、かなみ。 現在カズマと共に診療所に暮らしている少女だった。 「ただいま、かなみ。一人にして悪かったな」 カズマは軽く片手を上げて云う。 自分の元へ駆け寄ってきたかなみの頭を軽く撫でてやった。 「大丈夫だよ。今回はちゃんとしたお仕事だって、君島さんに云われてたもん」 そう云いながら、かなみはカズマに嬉しそうな顔を向ける。 この二人の間には不思議な雰囲気があった。 兄妹でも恋人でもなく。 ただの他人では決して無く。 いるだけで互いの気持ちが通じ合う。 いるだけでそこが穏やかな空間になる。 何もしなくても、云わなくても。 ただそこにいるだけで心が温かくなる。 そんな特別な雰囲気。 それが二人の関係をそのまま表しているようであった。 「ちゃんとした…って。 …それじゃぁ、俺がいつもはまともな仕事してないみてぇじゃねぇかよ」 ――実際、それは人に云えるような仕事ではなかったが…というか今回もそういうことに関してはいつもと変わらない。 不貞腐れて云うカズマに、かなみはどこか責めるような上目遣でカズマを見つめながら返す。 「だって、カズくんいつもいつも牧場のお仕事さぼってどこか行っちゃうんだもん。どこに行ってるのって聞いても、なんにも云ってくれないし」 その言葉と真っ直ぐに見つめてくる瞳に、ぐっとうめいて怯むカズマ。 どちらが年上で保護者なのか分からない。 そんな微笑ましい光景を、カズマを送り届けた君島は少し離れた位置から暖かな眼差しで見つめていた。 自然と表情が柔らかくなる。 「お〜い、カズマ。お前もう尻に敷かれてるのかよ」 揶揄するように云ったのは君島だ。 かなみにいつもは何をしているのかと責められるカズマへ救いの手を差し伸べる。 「君島さん!そんなんじゃありません!!」 からかわないで下さい。 頬を幾分赤く染めながらそう云うかなみを微笑ましく見ながら、君島はさらに話しを自分達の仕事から引き離そうと試みる。 彼が目を付けたのは、仕事が終了して市街に迎えに行った時にすでにカズマの腕の中に抱えられていた箱――かなりの大きさがあるそれだった。 「アハハ。ゴンメンゴメン、かなみちゃん。 それよりカズマ。結局その箱なんなんだよ。いい加減教えろって」 「箱?」 君島の言葉に、かなみの注意がカズマの腕に抱えられている箱へと向けられる。 カズマは軽く君島を睨んでから、視線を宙にさ迷わせた。 「…ああ…その……、みやげ…だ」 「お土産?」 照れたように、躊躇うように視線を反らしたままにカズマが手渡すそれを受け取りながら、かなみは驚きの声を上げた。 思ってもみなかったことに、嬉しさと驚きで心臓が激しく鼓動する。 「へぇ…かなみちゃんへの土産だったのかぁ。何買ったんだ?」 開けてみなよ。 そう笑って云い、かなみを急かす君島と、相変わらず照れたような気まずそうな感じで視線を反らしたままのカズマ。 二人を――というよりはカズマの様子を窺がいながら、かなみはそろそろと箱を開けた。 「わぁ…」 かなみは思わず声を上げた。 そこに入っていたのは、白を基調にしたレースとフリルがいっぱいの服。 それを取りだし抱き締めながら、かなみは満面の笑顔をカズマに向けた。 「カズくん、ありがとう」 「気に入ったか?」 「うん!」 かなみの笑顔に、カズマはほっとしたように胸を撫で下ろした。 ようやく居心地悪そうに顰められていた顔に微笑が戻る。 「へぇ…やるじゃん、カズマ。 まさかお前が女の子に洋服をプレゼントするとは…いやはや、参ったねぇ」 からかうように云う君島に、カズマは照れたように頬を染め、「うるせぇ」と一つ小さく呟き、またそっぽを向いてしまう。 「着てみなよ、かなみちゃん」 なれないことをして照れているカズマの様子を、声を殺して笑ながら、君島はかなみを促がす。 「着てもいい…?カズくん」 「その為に買ってきたんだろ」 カズマを上目遣いに見つめながら問えば、ぶっきらぼうだがきちんと返ってくる返事。 かなみは嬉しそうに笑いながら、着替えの為に診療所へと駆けて行った。 そんなかなみの後姿を眺めながら、恥ずかしい思いをして服を買ってきて良かった心底思う。 自然と顔が綻ぶのはどうしようもないことだ。 いつも心配ばかり掛けているから、その謝罪のつもりでもあった。 しっかりしているとはいえ、そこは一人の少女だ。 可愛い洋服に夢を見ることの一度や二度だってあったはずだろうと思う。 「おっ。戻ってきたぞ、カズマ」 自分の考えに没頭していたカズマを我に返したのは、君島の楽しそうな弾んだ声だった。 正面を見れば、白いドレスに身を包んだかなみが、恥らうように頬を赤く染めてそこに立っている。 照れたようにカズマをいつもの上目遣いで窺がうかなみに、初めに感想を云ったのは君島だった。 「よく似合ってるよ、かなみちゃん」 「当たり前だろ、俺が選んだんだぜ」 君島の言葉に照れて、顔を俯かせたかなみの頭上に、カズマの声が聞こえてくる。 かなみは嬉しさに心があたたかくなるのを感じて俯いたまま小さく微笑んだ。 「何云ってんだよ。かなみちゃんだから何着ても似合うんだろうが。 こんな可愛い子がお前と一緒にいるなんて…未だに信じられん。 お前の花嫁候補にはもったいなさ過ぎるぞ!かなみちゃんは」 びしっと。 何やら胸をはって云う君島の言葉に、俯いたまま聞いていたかなみは思わず顔を上げた。 頬だけにとどまらず顔全体――身体全体が熱くなっていくのを感じる。 何かを云おうと口を開こうとした矢先、先に声を発したのはカズマだった。 「ば〜か。何云ってんだよ。俺なんかじゃ、かなみにはもったいねぇだろ」 「ハハハ。それもそうだな。かなみちゃん、ゴメン」 (え…?) 笑ってそう云う二人に、かなみは言葉もなく立ち尽くす。 それが冗談だと云うことは初めからわかっていたはずなのに…。 頭では理解してるのに…心が堪えられぬ痛みに揺れる。 (なんでだろ?) 心がひどく傷ついたのを感じながら、かなみにはその理由を解することが出来なかった。 「どうしたんだ?かなみ」 急に黙り込んでしまったかなみを覗き込みながらそう云ったのはカズマだった。 かなみは慌てて顔を上げると「なんでもないよ」と首を横に振る。 尚も疑わしそうな心配そうな表情を向けるカズマに、かなみは尚もなんでもないをくり返し、心配する彼を安心させる為だけに微笑んで見せた。 彼が心配してくれてくれていることに罪悪感を感じながら、それでもその事を喜んでいる自分に戸惑う。 自分で自分が分からないとはこういう事を云うのだろうか。 「ねぇ、カズくん?」 「ん?なんだ、かなみ?」 「似合ってる…かな?」 かなみは頬を染めながら訊ねた。 一番訊ねたいことは言葉どころか明確な形にもならぬまま。 心の奥に小さなわだかまりとなって疼く。 「当然だろ?俺がお前の為に選んだんだぜ」 いつもと同じ。 何も変わらない。 カズマは笑って答えてくれた。 かなみは微笑った。 ほっとしたように。 暖かな日が、今日も過ぎていく。 心の中にある疼きは…今はまだこのまま―――。 |
今はまだ理由の分からない胸の痛み ずきずき ずきずき 疼いてる いつか分かる日が来る時まで これはこのままで良いのだと思う いつか 必ず気づく時が来ると 信じているから―― |
それは根拠のない予感 けれど自信に溢れてる |
----------------------------------------こめんと------
かずかなみっつめv
何を書いてるんだか、自分vv
もう壊れかけ?
CHOKOビースト!!ですでに気づいてたけど、
私は年下の女の子がお兄ちゃん的存在の男の子に
憧れる的話しが好きらしい(爆)
しっかし、今回はみんながみんな偽物臭い??
---------------------------------------------モドル-----