日溜まりの生活





















小さな命

暖かな心

輝く窓辺


























 はじめは子猫で。
 少年になって。
 次は少女になった。

 少女は今では自分の恋人で。

 いつも隣にいる。
 一緒に暮らしている。
 二人で一緒に並んで歩く。

 これからも二人で?
















「な〜劉鳳…」

 休日の昼下がり。
 窓辺からは明るくも暖かな陽光がさんさんと差し込む。
 劉鳳とカズマはそんな日溜まりの中、二人並んでソファに座りくつろいでいた。

「なんだ?カズマ」

 劉鳳は雑誌に目を落としたままに、カズマの呼びかけに応える。
 目を向けずとも分かる。
 カズマは劉鳳の肩にその頭を乗せて凭れかかっていた。

「子供が出来た」

「……」

 カズマの言葉に劉鳳は一瞬固まり。

「…誰のだ?」

 云った。

 どちらも「今日の天気は晴れだな〜」と、青空を眺めながらどうでも良さそうに言葉を紡ぐ。
 内容の重みがどうにも消えたようになり、稀薄に思えてしまう。

 劉鳳の熱の篭もらないその応えに、カズマは胸がちくりと痛んだ気がしたが、あえてそれを表には出さずに返した。

「誰のがいい?」

 意識してからかうように云ってみる。
 未だに雑誌に目を落としたままの劉鳳の視界に自分の顔が映るように除き込めば、劉鳳の目が驚いたように見開かれる。

 彼の驚いた表情などめったに見られるものではないから。カズマはしてやったりという気分で、胸中でにやりと笑った。

「……俺だ」

 そう長くはない沈黙の後に、劉鳳はぽつりと応えた。
 僅かに顔を顰めながら、

(俺以外の存在のことなど考えたくもない)

 と、憮然とした様子で胸中で呟く。
 頬が幾分朱に染まっているのは決して気のせいなんかではない。

「当たりvv」

 劉鳳のその応えに、カズマは心底嬉しそうな極上の笑みを作り、彼の首元に抱きついた。

 とても幸せそうなその笑顔は、残念ながら劉鳳からは窺がえない。
 しかし、カズマが今ある日溜まりの如く暖かな気持ちに包まれていることははっきりと感じ取ることができる。

 劉鳳は自分に抱き着いて離れる気配のない愛しいその存在の背に腕を回し、互いの視線が交わるように、密着しすぎた身体を僅かに放す。
 そうすればカズマの嬉しそうな、柔らかな微笑が劉鳳の目の前に現れるから、碧い髪の彼は再び頬を染める。

「本当…なのか?」

 劉鳳は訊ねた。
 それはそうだろう。
 冗談だとすれば余りに性質(たち)が悪過ぎる。

「本当だぜ。・・・何だよ、疑うのか?しかも嬉しくないかよ」

 劉鳳の問い掛けに、カズマの機嫌は急速に悪くなる。
 揺れる瞳の奥に、幾分傷ついたような感が窺がえる。
 劉鳳はそんなカズマの様子を感じ取り、慌てて言葉を紡いだ。

「イヤ…そうではない。それが本当なら嬉しいことだし、絶対に産んで欲しいとも思う…だが……」

「だが…なんだよ?」

「…お前、いったいどこからそういう知識を仕入れて来るんだ?」

 なぜ自分に子供が出来たと思うのか?
 そのことにどうして気が付くことが出来たのか?
 それを確信しているのか?

「白猫のオバちゃんに聞いた」

 劉鳳の問いに、カズマはさらりと答える。

(白猫のオバちゃん……)

 確かカズマが人の姿になったばかりの頃に、カズマは劉鳳の職場へ辿りつくのに「黒猫のおばちゃん」とやらに道を訊ねたらしかったのだから、白猫もありなのかもしれない。
 ありなのかもしれないが……。

「まだ猫の言葉がわかるのか?」

「ん?ああ」

 なぜそんなことを聞くのか?とでも云いたそうな表情で、カズマは簡単に答える。
 心底不思議がっているのは、その表情を見れば明らかだ。

「……それで?
その…白猫のオバちゃんとやらは何て云っていたんだ?」

 劉鳳は溜息と共に吐き出した。
 なぜか精神的な疲れが自身を襲うのを感じる。

「ええと…。最近なんか疲れやすくてさ…。で、近所の奴(猫)等に訊いたんだ」

 詳しい症状を伝えたところ、白猫のオバちゃん曰く。


 それは赤ちゃんができた時の症状だね。


 との事だった。

 はじめて訊いた時、カズマにはそれの意味がいまいち良く理解できなかった。
 不思議そうに小首を傾げるカズマに、白猫のオバちゃんは苦笑しながらも丁寧に説明をしてくれ…そしてカズマの冒頭の告白へと相成った。

 劉鳳は考えた。
 その白猫のオバちゃんとやらの知識がどうとかはひとまず置いておくとして、カズマの話す症状は確かに妊娠の初期症状と重なる。

「カズマ」

「なんだよ……」

 劉鳳の真っ直ぐとした褐色の瞳に見つめられ、カズマは僅かにたじろいだ。
 何を云われるのかという不安が、カズマを襲う。

「病院できちんとした検査をしてもらおう」

 劉鳳の言葉に、カズマは泣きそうな顔になる。

「な、何でだよ…。俺、どこもおかしくなんかないぞ」

 劉鳳に変なヤツだと思われたと、カズマは勘違いした。
 元々猫のカズマには極普通の事であるが、「猫と話せる」人間などいない。それはカズマもとうに理解していたが、それでも劉鳳ならば信じてくれると思って話したのだ。

 なのに…。

「なんでそんなこと云うんだよぉ…」

 涙声になるカズマを、劉鳳は優しくその胸に抱き込んだ。
 ぽんぽん。と、あやすようにその背を撫でてやれば、カズマは幾分落ち着きを取り戻したようであった。

「そうじゃない」

「じゃぁなんでなんだよ」

「…安全に出産する為だ」

「出産?」

 なんだ?それ?

 カズマは目尻に涙を溜めたまま顔を上げる。
 そんなカズマに苦笑をしながら、劉鳳はカズマの目尻に溜まった涙を拭ってやる。

「子供を産むことだ」

 簡単に説明してやれば、カズマはきょとんとした表情になる。
 その様子に劉鳳はまた苦笑をし、それでもそんなカズマを可愛いと感じるのは…やはりその人を愛しているからなのだろうか。

「出産は危険を伴うものだ。カズマ、きちんとした知識も必要になる」

 諭すように云ってやれば、カズマは何かを考え込むように俯き…それから顔を上げ、にっこりと微笑んだ。

「わかったv…ちゃんと検査受けにびょーいんに行く」

 そう云って、カズマは再び劉鳳の首元に抱きついた。
















 かくして。
 「人間」による診断でカズマの妊娠は確実なものとなり。
 今では誰もが認めるバカップルは大急ぎで籍を入れたそうだ。

 今ではもう恋人ではなく若奥様なその人は、後もう少しは仕事を続けるらしく…。
 仕事が仕事なだけに――しかも奥様の性格も決して大人しいものではなくて――旦那様は今までにもまして気が気ではないとか。

「あんたが母親ねェ…。考えられないわ」

 そう云ったのはシェリス=アジャーニ。
 日頃の物知らずなお子様カズマを見ているだけに、どうしてもピンとこないらしい。

 ちなみに。
 カズマがなぜにどうして女性になったかはもうすでに割り切ったのか、考えるだけ無駄だとでも悟ったのか。
 今では何も云っては来ない。

 劉鳳とカズマの関係に対してもそうだ。
 はじめの頃こそ突然出てきた見ず知らずの女性に想い人を取られて黙っていられるはずもなかったが、その想い人である劉鳳自信がカズマを自分の隣に立つべき掛け替えない存在として選んだのだ。

 ならばシェエリスはそれを認めるしかなかった。

 彼女にとっては今でも、劉鳳が掛け替えのない存在であることには何ら変わりはない。
 しかし、彼女の中で劉鳳の位置は確実に変わってきている。
 恋愛対象からは少しずつ違ったものへと変化を見せているらしい。

 それが彼女の強さなのかもしれない。
 今ではカズマの良きお姉さん的存在だ。

「う〜ん…でも、なんかすっげぇあったかくなることがあるぞ」

「あったかく?」

 カズマの台詞に、シェリスは鸚鵡返しに訊ねた。
 何を云っているのか、良く意味が分からない。

「護んなきゃって…気になる」

 そう云うカズマの表情は、日頃からは想像もつかない穏やかで大人びたもので。
 シェリスは思わず目を丸くした。

 満足そうに。
 幸せそうに。

 日溜まりのヒカリように穏やかに微笑みながら、カズマは自身の腹部に手を添えるのだった。
















 はじめは子猫で。
 少年になって。
 次は少女になった。

 少女は今では自分の恋人で。

 いつも隣にいる。
 一緒に暮らしている。
 二人で一緒に並んで歩く。

 これからも二人で?

 いいえ。
 少女は恋人になり。

 そして次は母になる。

 今度は新しい命と共に。
 ずっと一緒に暮らしていきましょ。



























新しい命

日溜まり

陽光(ひかり)に包まれて





















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「恋人との生活」の続編。
前回終わりとか云いながら書いちゃいました(爆)
急に思いついてしまったので…せっかくだし…ね(汗)
どうしよう?この後。子供ネタ書こうかなぁ…?
続くとしたらでも、子供ネタになるよねェ…これ。
突発的に思いついた「子猫との生活」がまさかこれほど続くとは…
夢にも思っていませんでした(苦笑)今回タイトル思いつかないし(汗)
そしてまたもや劉鳳もカズマも偽物…上手く書けないよぉ(泣)
シェリスとかHOLYの人達の反応をもっときちんと書きたいのもあるし…
というか、書かなくちゃまずいよなぁ…。という気がするです。
今回無理矢理シェリスのところ入れたから、
気持ちの変化が上手くかけなかったです(反省)
感想いただけたら嬉しいです
って、本当にどうなんでしょうか?こういうのって(冷汗)



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モドル