生活の外で
--side S--





















だってほら

陽の光は

こんなにも暖かい






























 そりゃあ最初は納得できなかったわよ。好きな人にいきなり恋人ができたなんて云われて、誰が「ハイ、そうですか」なんて、素直に納得できる?
 それも全然知らない…それまで存在すら陰も形もなかった人に。

 想い人を取られたら、やっぱり悔しいし…全然知らない人だったもの。あわよくば…。って思ったって、少しくらい許されると思うのよ。

 だって、本当に好きだったんだもの。簡単に諦められないくらい。そんなに簡単じゃないほど強い思いだったの。
 簡単には割り切れない。
 でも…でもね。
 すっごい幸せそうなのよ。彼。

 あんなに幸せそうな彼、見たことなかった。
 ちょっと呆気にとられちゃったわよ。
 それと同時に…何て云うのか。凄く良かったね…って気持ちも湧いてきたの。
 だって、好きな人が幸せそうにしてるのよ。良かったって思うのは当たり前でしょう?

 はじめはそりゃあ気にいらなかったけど…その…ちょっと意地悪い態度もしたかもしれないけど……。
 でもね、今は違うわよ。
 なんか、その人の好きになった人はね。何ていうか…凄くかわいいの。見た目が、っていうのじゃなくて(だってそれって人それぞれ価値観が違うじゃない?)…美味く言葉に出来ないけど、そう、とにかくかわいいのよ。

 どっちかっていうと何も知らない子供みたいで…今では妹みたいな存在かな。いろんな相談事も聞いたわ。
 でも、もしその子が彼に振られたら遠慮なく彼にまたアタック掛けるつもりでもいたわよ。だって、やっぱり彼が好きだから。

 愛しているから。
 できる限りのことをすると思うの。

 彼が幸せになることが私にとっての幸せなんだもの。
 私は永遠に彼に尽くすって決めたの。
 私が一人でそう決めただけ。
 だから、彼が幸せなら私も幸せなのよ。
 嘘でも負け惜しみでもなく。

 でも、さすがに子供ができたって聞かされた時は驚いたわ。
 だって…何て云うか、まだそんなに日が経ったわけでもないし…私達まだ若いし?

 でもあれよね。
 子供ができると女は変わるっていうけど、それって本当のことだったのね。
 あの子が「女」に見えたの。

 今まで私よりずっと子供だって思ってて、妹みたいだな〜とか思ってたあの子が、凄く優しい「母親」の顔をしてたのを見た時は、凄く驚いたわ。
 開いた口が塞がらないとはこの事を云うのね。

 彼はね、本当に優しい人なのよ。
 優しくて、生真面目で…哀しいくらいに…哀しくなるほど強い人。

 私は、そんな彼を心から笑わせてあげることができなかった気がする。心から安心させることも、穏やかな…日溜まりのような時間を与えることも、そんな空間に誘(いざな)うことも。

 ……まったくなんの役にも立てなかった…って事はないと思うんだけど……。
 どうなんだろ?
 彼にとっての一番じゃなくても、そこに居てくれたらいいなって思える存在にはなれてるかしら?

 そうだと…嬉しいな……。

 私は彼が好き。
 愛してる。
 彼が私の全て。
 それは今だって変わらない。何一つとして変わりはしない。

 きっと、これから先も。

 それくらいの出会いだった。
 でもね。…ううん。だからこそ、彼の幸せを認めることが出来るの。
 彼の幸せ…そう、彼の隣りに彼女がいることが…彼が優しく彼女に微笑みかけることを認めることが出来る。

 彼が暖かく微笑む。

 それが私にではないことが、私が、彼がそうできるだけの何かを与えたわけではないということが、与えられなかったということは、とても悔しいけれど。
 でも、私にとってもっとも大切なことは…第一なのは、私自身の幸せよりも、彼の幸せだから。

 彼が自分の信じる道を真っ直ぐと歩むというのなら、私は黙って付いて行き、時に彼の前に立って彼の障害を弾く。
 彼を哀しみや孤独から護るの。

 だから、今、彼の一番も受け入れられる。

 だって、それが私の存在理由。
 あの子が…あの、何も知らない子供みたいな不思議な彼女がいなくなったら――きっと彼は今まで以上の孤独と悲しみに囚(とら)われて…今まで彼の孤独や悲しみの闇から彼を救えなかった私が、そうなった彼をどう救えるというのか。

 私には答えなんてないから。

 だから、彼女の存在を認められるの。
 これから生まれてくるその存在を認められるの。
 そして、きっと心のどこかで感謝するの。しているの。

 彼の、あんなに幸せそうな姿を見せてくれたことに。
 彼を孤独と哀しみの世界から引きずり出してくれたことに。


 ああ…私も幸せ。


 暖かな陽の光。
 父と母に見守られ、この子はきっと大きくなっていく。

 微笑んで、愛する女性と愛する産まれたての我が子を見る彼のその表情が。その瞳が。
 私の胸に云いようのない思いを込み上げさせる。
 それはきっと…いいえ、絶対にどうしようもないほどの幸せ。

 私はどうしようもなく幸せ。
 だから、この涙は喜びのせい。
 止めようとしても止まらないこの溢れ出る涙は、きっと余りに嬉しすぎるから。
 今この目の前にある風景が、余りにもあたたかすぎるから。



 だって、私。

 こんなに微笑んでいる。



 微笑むことができるんだもの。
 微笑んでいられるんだもの。
 これから微笑って云うのよ。

 おめでとう。

 って、云うの。
 彼に。
 彼女に。
 産まれたての命に。


 大丈夫。
 私は大丈夫。




 だって、こんなに微笑んでいる。






























微笑む

泪を流しても
それが止められなくても

私はこんなにも

心から微笑んでいる

彼が優しく微笑む

それで

私の心は満たされる


幸せに微笑む


























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「日溜まりの生活」の続編。シェリス編。
今回はシェリスの一人称にしてみました。
いかがでしたでしょうか?ちゃんとシェリスになってますでしょうか?
時間や場所としては「生活の外で-sideM-」とだいたい同じです。
思いつくままに書いてしまったので、所々「あれ?」って思うところ多々あると思います。
水守の時や他の小説と同様いろいろ願望や理想が入っていると思われますが、
そこはまぁあくまで個人のパロディサイトですから。
途中で書いた時期が違うのでそこもオカシイ(さて、どこでしょう/笑)
シェリスは人の幸せを祝福してあげられる心根のやさしい子だと思うんです。
引き際?を知っているというか、割り切ることを知ってる。
でも、それだって簡単にそうしてるわけでは決してないと思うのです。
心の中ではいろんな葛藤や苦しみ、哀しみが渦巻いていると思うんです。
でも、それでもその中に本当に心から誰かの幸せを祝福したり、
無理なことを諦めて完結させる。割り切ってしまう気持ちもあると思います。
抑え切れない感情が溢れて、顔をぐちゃぐちゃにして泣ながら、それでも微笑んでいる。
とってもきれいで真っ直ぐな彼女の強さと可愛らしさが書けてたらいいなと思いつつ。
あとがきがやたら長くなってしまったのでこのへんで。
さてさて。今度こそようやく子供ネタ?(←毎回云ってる?!)
感想いただけたら嬉しいです☆



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モドル