家族の生活
--朝の風景--
溢れる未来 どこまでも続く |
朝陽のあたるダイニング。 並んで座りコクコクとミルクを飲む愛しい妻と娘の愛らし過ぎる姿を前にして、劉鳳は満足そうにその真紅の瞳を細めた。 劉家の朝食の風景である。 食べるの一生懸命な妻は、いつまでたっても子供らしい少女性を持ち続け、基本的な顔の造型は自分似らしいが、誰もが曰く。笑顔は母親似だというまだ幼い愛娘は目に入れてもきっと痛くない。 母親同様、一生懸命な様子で食事を取っている姿が、なんともいえない。 そんな二人を前にして、幸せに顔をにやけさせるのが父親である劉鳳。元々無表情が板に着いている為か、それは彼のことを多少なりとも良く見知った人物にしかわらないものだったが、分かる人が見れば物凄く良く分かる。 怪しいくらいに顔を歪ませている。 「とうさま、それとってー」 そう云って指で小さなジャムの小瓶を差し示したのは、母親譲りの赤い髪に父親譲りの真紅の瞳の少女だ。 云わずもかな。 先ほどから劉鳳が顔を崩して見やっている人物のうちの片割れ。彼の愛娘である。 「ああ、劉籟(らい)」 劉鳳は小瓶を取って渡してやる。 劉籟とはその少女の名前だ。劉鳳が付けた。 人々の哀しみを思いやれる人物であるようにとかいろいろいろいろ本当にいろいろ考えてつけたらしいが、母親であるカズマにはいまいちよく分からなかった。 けれど、彼女の名前同様劉鳳がつけたのだ。カズマには特に文句はない。 劉籟はとても嬉しそうに、にぱっと笑うと、まだ危なげな手つきで一生懸命にパンにジャムを塗り始めた。口だけでなく、手までベタベタになってしまっていたが、当の本人はまったく気にしていない。 甘い物が好きなのは家系なのだろうか? このかわいらしい少女。当初、言葉遣いは母親であるカズマを真似た物だった。もっとも近くにいるのだから当然だろうか。 しかし。カズマの言葉遣いは余りよろしいものだとはお世辞にも云えない。劉鳳は考え…ここぞとばかりにその役を買って出た水守に劉籟の教育係をお願いしたのである。 よって、劉籟はただ今清楚なお嬢様へなるべく、毎日父親、母親についてその職場まで通っている。 それ以来、なにかと仕事上の理由をムリヤリ引っ張り出してきて劉鳳の父親である劉大蓮がちょくちょくHOLYに顔を出すようになったとかならなかったとか。 とにもかくにも。 穏やかで甘い朝食の後は、家族そろっておでかけ。 いつも家族がそろっていられるなんて、これ以上の幸せ、ないとは思いません? 「みもりせんせい!」 HOLD内をちょこちょこと駆けて行くのは可愛らしい少女。いわずもかな。劉籟である。 「おはよう、劉籟ちゃん」 笑顔で自分を呼ぶ劉籟に、やはり微笑で返すのは桐生水守。現在、少女の教育係である女性である。 当初、水守に出会った劉籟は彼女のことをこう呼んだ。 「みもりおばちゃん」 いや、怒るなかれ。 自分の父親、母親と同じ位の歳の人は、子供にとったらみんなおんなじ。「おじさん」「おばさん」である。 呼ばれた水守は笑顔で固まり、慌てて訂正したのは劉鳳だ。 カズマに抱かれた劉籟と視線を合わせるためにわずかに屈み、人差し指を立てて云う。あくまでにっこりと。 「劉籟、お姉さん。だろ?」 「でもお前より年上じゃん」 劉鳳に突っ込んだのは、劉籟を抱いたままいつもとなんら変わらぬ表情のカズマだ。 その場にいたHOLYの面々は言葉を無くし、考えた結果「先生」とあいなったのである。 「おはようございます!」 お嬢様。 とは程遠いかもしれない元気過ぎるほど元気なご挨拶。 大きな声と満面の笑顔でぺこりと頭を下げるその仕草は、歳相応の子供らしい姿だ。見かければその微笑ましさに微笑を漏らさぬ者などいまい。 この元気の良さは歳ゆえか。それとも母親に似たのか。 どちらにしても、元気で明るく育つのが一番である。 挨拶を返さないのならともかく、その態度には問題などどこにもないのだから、無理に挨拶の仕方を変えさせる必要もないと、水守は考えていた。 「劉鳳にカズマさんも。おはようございます」 「ああ、水守」 「はよ〜」 軽く片手を上げて答えるカズマの元に、劉籟はてとてとと小走りに戻っていく。劉籟がその膝に抱きつくと、カズマはひょいっとその小さな身体を抱き上げた。 やはり母親の腕の中は子供にとって落ち着ける場所なのか。抱き上げられ、劉籟はにっこりと微笑む。桜色に色づいた頬を、母親であるカズマの頬に擦りつかせるようにして、その首元に抱きついた。 「相変わらずお母さんっこね〜」 ふいに高く軽やかな。鈴の音のような声が響いた。 声のした方に顔を向ければ、そこには予想通りの人物。 シェリス=アジャーニだ。 彼女もまだ出勤したばかりなのだろう。HOLYの制服ではなく私服姿である。 「おはよう、劉鳳にカズマ、劉籟ちゃんvそれに桐生さんも」 「おはようございます。シェリスさん」 「はよ〜、シェリス」 それぞれ挨拶を交わす。 ちなみに、劉籟はシェリスのことはお姉ちゃんと呼ぶ。母親であるカズマが、彼女のことを自分の「姉」であると慕っている様子を感じ取ってのことらしい。 劉籟の言葉遣いや動作は、ことごとくその母親であるカズマの影響を受けているのである。 追記として。 瓜核のことを二人はそろって「すいか」と呼んでいた。 もはや誰もそれを正そうとはしない。 「そんじゃ、オレはライと水守と一緒に先にロビーに行ってるかんな」 「ああ」 ライとは劉籟のことである。 カズマは娘のことをそう呼ぶ。 任務のない時間はたいていのHOLY隊員が専用ロビーにてくつろいでいる。水守と劉籟はそこでノートパソコンを広げてお勉強。カズマはその様子を横目にしながら、適当に時間をつぶす。 はじめカズマは劉鳳と共に任務〜と行こうとしたのだが、どれほど馴れても人懐っこくても、やはり父親も母親も傍にいないのは不安であるらしい。水守と二人きりにされた劉籟は誰も手がつけられないほど盛大に泣き叫んだのだ。 あっさりとそれを治めたのが、任務で外に出ていたところから、漸くといった感じで帰ってきたカズマであった。 さすが母親。 あの子供以上に子供っぽいカズマを見直したHOLY隊員は一人や二人ではなかったという。 そんなわけで、劉鳳はお仕事だ。 用がないからといってロビーでカズマのようにくつろいではいられない。書類整理もあれば鍛錬も怠れない。 とりあえず。 朝はまず始めに隊長であるマーティン=ジグマールのところへ顔を出し、挨拶がてら今日一日の任務のスケジュール確認だ。 というわけで、エントランスでそれぞれお別れである。 次はお昼の時に。 一緒にご飯を食べるから、たいしたお別れでもないが。 愛し合う家族にはその短い時間もたいそう長い…のかもしれない。 そんなわけで。 劉鳳とシェリスは隊服へ着替えの為に更衣室へ。 カズマ、劉籟、水守の三人はロビーへと向かって行った。 一日は、まだ始まったばかり。 |
穏やかな日常 今が過去になり 未来はこれから続いてく いつもと変わらない そんな日常をくり返しながら |
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子供の名前が決まらない決まらない。
なんど日記で愚痴ったことか…。
そんなわけで随分とあぷが遅くなりましたこの話。
実際に書いてみたら思ったより長くなりそうです。
朝の様子だけ書いてこれ…なので、分けることにしました。
全部一つにしてもそんなに長くもならない気はするのですが、
最近更新滞り気味だし…ね。少しでも早く。
感想いただけたら嬉しいです。
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モドル