+ 家族の生活 2nd +
--おやごころ--
私たちは知っている
そして願ってる
いつだって
いつだって
「隔世遺伝?」 聞きなれない…というよりも、はじめて聞く言葉に、カズマはきょとんと小首をかしげた。 「なんだ?それ?」 「らい知ってる〜!」 元気よく手を挙げて云うのは、小首をかしげるカズマさんの愛娘、劉籟だ。母親譲りの赤い髪がふわりと舞い、父親譲りの深紅の瞳はきらきらと輝いている。 大好きな母親の膝の上にはもう座れないが、今は大好きな父親の膝の上に座って、小さな体を精一杯大きく見せようと伸ばしている。 「あのね、あのね、らいとかようちゃんがね、父さまとか母さまよりも、おじいちゃまとかおばあちゃまにそっくりなことだよ。まえにみもりせんせいにならったの」 「よく覚えてたわね、劉籟ちゃん」 褒められて照れたようにはにかむ劉籟の様子に、その場が和やかになっていくのがわかる。 HOLY専用ロビーの昼休みは、この劉家の家族を囲んで過ぎていくのがいつの頃からか日常になっていた。 そんなお馴染みの風景に新しい仲間が加わったのはつい最近のこと。劉籟が母の膝の上に据われない理由でもあったりする。 そう。彼女の母であるカズマの腕の中に現在抱かれて眠っているのは、つい先日生まれたばかりの彼女の弟。 すやすやと眠っているのは劉籟と同じく赤い髪の男の子。今は閉じられているその瞳が開けば、そこには母親と同じ琥珀の瞳が覗くはずだ。赤い髪の隙間から覗くのは、髪と同じ色の柔らかな毛に覆われた猫の耳。 名前を劉陽(りゅうよう)という。 「劉陽の猫の耳や普通より発達したような犬歯は、おそらくはカズマ側の遺伝が強いからだろうな。お前の両親は普通の猫だったんだろう?」 訊ねたのはカズマの旦那様の劉鳳だ。 彼は捨て猫だったカズマをある雨の日に拾った。そしてそこからこの物語りは始まったのだ。 「う〜ん。たぶんな。あんま覚えてねェ」 まだ子猫の時に捨てられていたカズマには、両親に記憶などほとんどない。生来の特性か、猫と人との感覚の違いか。 カズマは両親の記憶がないことに頓着をしたことは一度もない。猫としての本能は生まれた頃からあったし、他のことは近所の野良猫や飼い猫に教えてもらった。 困ることは一度もなかったのだ。 「そうか」 「ねぇねぇ、父さま。それじゃあ、ようちゃんも母さまとおんなじで猫さんのことばがわかるのかな?」 「さぁ…父さまにはわからないな」 「そっかぁ」 カズマは猫の言葉を解することができる。それは人間になった今でも変わらないことだ。 カズマがもとは猫だということを、なにか本能的に知り納得している劉鳳とは異なり、HOLYの他の面々は一応常識人。 彼ら家族のこの「カズマは猫」関連の会話には苦笑をして聞いていることしかできない。 劉陽の猫耳も然り。 (だって猫耳って…) はじめて見た時は何かの冗談かと思ったほどだ。もしくは両親と同じくアルター能力を持っていて、それが生まれた時から発動されていたとか…。 しかし検査の結果はどうにも猫耳を認めなければならないもので。 まぁ、当の父親、母親、その娘に祖父と。その赤ん坊の直接の血縁の家族がその誕生と存在を祝福しているのだから、第三者があれこれ云うのはおかしいのかもしれない。 可愛いしね。 いいじゃないか。 少しくらい普通と違っていたって。 違わないんだから。 どんな姿でも、どんな能力を持っていたって。 私たちは、他の誰とも違わない。 痛みや悲しみは誰だって同じように感じるでしょう? 私たちだってそうだった。 喜びや楽しみを分かち合いたいでしょう? 大好きなことや嬉しいことを目指して頑張るの。 いつだって愛を求めてるでしょう? 誰だってそう。 望んで持った能力じゃないけれど、今はそれを認められる。 認めるしかなかったのかもしれないけれど、それでも、私たちはいつだって叫んでた。 だから、この新しい生命をの行く末を憂う。 そして思う。 それでも、真っ直ぐに生きて欲しい。 こんなにも愛されているのだと。 惜しみない愛に包まれて生まれてきたのだと。 きちんと伝えたい。 HOLYの面々は心中で苦笑した。 まったく…自分たちはいつの間に、こんなにも親気分になっていたのか。 だって、今は安心しきって眠るこの小さな生命(いのち)を目の前にしていたら。 そう思うのは、悪くはないでしょう? ほら、目の前には、あんなにも幸せそうな、家族の姿があるのだから―――。 |
未来には希望が溢れているのだと
いつだって愛されているのだと
きちんと伝えたい
辛いことはきっと多いだろうけど
負けないで
私たちも
負けないから
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久しぶりでこんなんです。書くたびに短くなっているような…。
猫耳を持って生まれた劉陽くんは劉家の跡取りです。
きっとこれから先いろいろあることでしょう。
能力云々だけではどうしようもない人の目とかとか。
アルター能力という未知の力をきせずして持ってしまった方々は、
きっとそれを多かれ少なかれ予想するでしょう。もちろん劉鳳やカズマも。
そんなわけで「おやごころ」です。
劉陽。名前決定しました。
「陽」の字にはなにやらいろいろな意味があるようで、その意味を見て一目ボレ。
(流用の発音では読んで欲しくないな〜とか思ってたり)
ご意見ご感想ありましたらぜひ!!
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モドル