+ 家族の生活 番外編 +
--新年--

















その腕が
その胸が
その心が
暖かくて























「「あけましておめでとうございます」」

 まず初めはお決まりの挨拶で。
 家族揃って迎える新しい年に、寝坊は許しません。たとえ前日に百八つの鐘の音を聞こうとも、「朝」には身支度を調えてさわやか笑顔で挨拶です。

「おめでとう」
「おめんとさんvv」

 劉家の大黒柱、劉鳳さんが目の中に入れても痛くないほどに可愛らしい子供たちに挨拶を返し、その妻のカズマさんが続きます。
 まだまだ小さい子供たちがきちんと挨拶をできたご褒美…というわけではありませんが、劉鳳さんが「お年玉」を二人に渡せば、二人のお子さんは丁寧にそれを受けとって声をそろえて言います。

「「ありがとうございます」」

「どういたしまして」

 そんな二人のお子さんたちに自然と浮かんでしまい止めることなどできない、やわらかな微笑で返せば、彼の前にはずずいっと、これまた劉鳳さんが愛して止まない奥さんのカズマさんが、視界を埋め尽くすように立ちふさがります。
 目をきらきらと期待に煌かせて、両手を広げて。劉鳳さんをじっと見つめています。目で訴えるとはまさにこのことでしょうか。
 そして、彼女の旦那様は普段どれほどへたれであろうとも、奥様の期待だけは裏切らないのです。

 広げられたカズマさんの両腕の間に体を滑り込ませると、ぎゅっ、とカズマさんの頭を自分の胸に押しつけんばかりに抱き締めます。
 そうされれば、カズマさんは満足そうに目を細めて自分でもしっかりと劉鳳さんに抱きつき、ごろごろと、まるで猫が懐くような仕草を彷彿とさせる様子で、逞しい旦那様のその胸に頬を摺り寄せます。
 ひとしきり旦那様に懐いたあとは、大好きな子供たちをいっぺんにぎゅ〜っと抱き締めて頬を擦りつけます。子供たちも、大好きなお母さんに抱きしめてられて、いくつになっても暖かいその体温が嬉しくて、きゃっきゃと喜びに胸を弾ませます。

 これはカズマさん曰く「猫式新年の挨拶」なのだそうです。とはいっても、産まれてすぐに捨てられ、劉鳳さんに拾われて…気がつけば人へ女へ母親へとなっていたカズマさん。猫の新年行事など知りようはずもありません。そんなカズマさんの心強い味方は、近所の猫のおばさま達です。
 とはいえ、カズマさんは情報を仕入れてきて、そのまま実践し続けるような性格でもありません。それでも、これはもう随分と長く続けられている年中行事の中の一つ。
 ものぐさなカズマさんが欠かさずにそれを続けている理由は一つ。教えられてやってみたら、なんだか例えようのないほどに気持ちが良くて、今もずっと気持ちがいいから。
 ただそれだけなのです。










 孫とお嫁さんに大甘のお祖父さんこと劉大蓮氏は劉鳳さんのお父様です。新年は家族水入らずで過ごしたい劉鳳さんですが(どうやら彼のお父様は「家族」からはずされているようです)、お父様に新年の挨拶をしないわけにもいかないので(五月蝿くて無視しきれないのです)、お昼頃には実家へお里帰りです。

「よく来たね〜。劉籟も劉陽も大きくなった」

 爺(じじ)馬鹿丸出し目尻はタレまくりで劉大蓮さん、可愛い可愛い孫達を迎えます。
 大好きなおじいちゃまに会えた喜びに、お子様達がきゅっと大蓮さんに抱きつけば、その目尻はますます垂れ下がります。いっそどこまで垂れるか見てみたい気もしますが、それはまた別の機会に回しましょう。

 孫達とお嫁さんは大蓮さんが用意させておいた「素敵お菓子」が出されると、嬉々としてそれに飛びつきます。
 微笑ましいその様子をにこにこと眺めやりながら、端で大蓮さんと同じようにそれを見つめている劉鳳さんにさり気なく語りかけます。

「劉鳳、世間では二世帯住宅が流行っているそうだぞ」
「流行りに流されるなど愚の骨頂ですよ、父さん」

お互いに目は笑っているし声も穏やかなのに、なぜか空気が冷えました。視線がまったく噛合っていないせいでしょうか。
 深く追求するのは憚れるような気がするのでやめておきましょう。新年そうそう誰も怪我をしたいはずがありません。

 彼らの視界には、お口の周りをクリームやあんこでベタベタにした可愛らしい母子の姿がありました。





「「ことしもよろしくおねがいします」」





 不意にお子様二人が大人達に振り向き言います。
 突然のことに誰もが目をきょとんとさせて、けれどそれはすぐに優しい微笑に変わります。


「こちらこそ、よろしく」


 あなた達の健やかな成長を、願っています。


 そんな思いは言外に。
 こうして、新しい年の一番初めの一日は過ぎていくのです。




















晴れた空
陽光の梯(ひかりのはしご)
大好きな人
隣にいる


















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お久しぶりの生活シリーズです。
毎回同じ挨拶で始まってます。これからもそうなるでしょう。
新年そうそう裏小説です。今年一年が思いやられます。
時間的にいえば「紅白」の放映中に書き上げました。
(しかも後半も半分程が終わってから書き始め。小1時間でさくっと終了)
新年まで、ぎ・り・ぎ・りvvやはり今年一年が思いやられます。
そして短いです。短かすぎます。なので「番外編」(多分)。
これもまた今年一年が…以下略。
それでは、ご意見ご感想ありましたらぜひ!!



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モドル