星見て謳う
空には満天の星 輝く夜空の欠片達 きらきらきらら 手に入らない宝石を |
「お待たせ」 背後から聞こえた声に、劉鳳はそちらへと振り返った。 そこにいたのは赤い髪に金がかった瞳の男。 「カズマ…」 劉鳳はその名を呟いた。 自らに刻んだその名前。その存在。 「な〜に、ぼぅっとしてやがんだよ。呼んだのはお前だろ」 自分の名を呼んだきり何も云わない劉鳳に、カズマは呆れたようにして云ってみせた。 彼ら二人が会っているのは、ロストグラウンド崩壊地区と市街との境界近く。海に面した岩だらけの荒地だった。 時刻は深夜も深まった頃。 空には幾重もの星が瞬いている。 「いや…会いたかった」 「バカじゃねぇの」 やわらかく云う劉鳳に、カズマは照れたような呆れたような。 劉鳳から顔をそらして素っ気無さを装って云った。 どこか半眼になってそう云ったカズマに、劉鳳は小さな笑みを向ける。愛しい者に向ける笑み。 「そうだな。だが本当のことだ」 恥ずかしげもなく云う劉鳳に、カズマは虚を付かれたような顔をしてから、今度はその頬を朱に染めた。 云った本人よりも云われた方が恥ずかしくなる。 そう思いながら出るのはいつもの憎まれ口。 「勝手に云ってろよ。俺はどうでも良いし…」 「そうさせてもらう」 カズマの言葉に、劉鳳はただ微笑ってそう云った。 カズマのその言葉が本心でないことを知っている。 どうでも良いこと程度のために、この男がこんな市街近くに寄り付きはしない。 ましてや全て人々が寝静まるようなこんな深夜遅くになど。 劉鳳とカズマ。 常は相反し敵対しているこの二人がこうして逢うのは、今回が初めてではない。 呼ぶのは劉鳳。 そして必ずカズマはやって来る。 市街と荒野の間。 暗い夜闇の中。 まるで隠れるように――実際、隠れて逢っているのだろうが。 「で?今日は何の用なんだよ」 カズマはさして興味もなさそうに劉鳳に訊ねた。 こういう時はたいていそう。 特に意味などないから。 「さっきも云っただろう?逢いたかったんだ」 そう云って、劉鳳はカズマを抱き寄せた。 小さな。啄ばむようなキスをする。 「…俺さぁ…今日すんげェ綺麗な宝石盗んだんだよ」 ―――どこでどうやって盗んだかは企業秘密だけどな。 からかいを含んだ声音で。 互いの唇が離れてから、おもむろにカズマが云った。 ぼんやりとした呟きめいたその台詞。 劉鳳は黙ってカズマを見、その言葉の続きを待っていた。 盗みのような本来ならば罪とされることも、今のように二人逢う時は劉鳳は特別責めたりはしない。 カズマのすべてを受け入れているのか。 すべてが知りたいだけなのか。 「別にいつものことだしさ…だからどうだってこともないんだけど」 カズマはそう云って空を仰ぎ見た。 その横顔は常に闘っている時からは想像もできないような静かなものだった。 劉鳳は自分から離れて立ち、空を見上げながら歩いて行くカズマの腕を引いた。 これ以上離れたら、もうこの腕が届かなくなる。 「別にどこにも行かねぇよ。だから放せって」 急に腕を掴んできた劉鳳に顔を向け、カズマはいつもと同じ。どこか気が抜けたような声で言った。 劉鳳は俯いて黙す。 「……」 いつまで経っても劉鳳が腕を放す気配を見せないことに、カズマは諦めたように溜息をついてから、今度は自ら劉鳳の元へと足を向けた。 その気配を察し、俯いていた劉鳳はその顔を上げる。 その時にはすでに劉鳳の目の前にはカズマの姿があり、カズマはそっと劉鳳を抱き締めた。 「でさぁ…思ったんだよ」 驚きに顔を染め、カズマの突然の行為に反応できずにいる劉鳳をよそに、カズマは先ほどの言葉の続きを紡いでゆく。 静かに紡がれる言葉。 「そこら辺に転がってる気にもとめられない石ころと、バカみてぇに騒ぎ立てられる宝石と。いったい何が違うんだろう〜ってさ…」 珍しいかもしれないけど。 滅多に無い物かもしれないけど。 とても特別な色や性質をしているかもしれないけれど。 「決して手に入らねェ訳でもないじゃねぇか」 この空に輝く星のように。 それは決して手に入れることのできない物ではない。 「あっ…偽物つかまされてなんかねぇぞ。こう見えてもそういう物の価値の鑑定…ってのか?そういうのの腕は確かなんだぜ」 カズマは付け足すように言った。 先程のまでの静けさは残したまま、けれど先程よりもずっと子供っぽい声音。その表情。 「知っている」 今更そんなこと云わなくても。 認めている。 その実力を。 その存在を。 劉鳳は云った。 「…そッ?」 カズマは笑った。 可笑しそうに。 劉鳳はその柳眉な眉を顰め、その端整な顔を疑問符に歪めた。 「いったい何を笑っている?」 カズマは突然笑う。 何の脈絡もなく。 その理由は考えても分からない。 それはいつものこと。 少し悔しくて、少し寂しく思う。 彼のことが分からない。 愛しい人のことが分からない。 でも知りたいから。 劉鳳は素直に訊ねた。 訊ねれば、カズマはからかうように唇の片端を上げて。 悪戯小僧であるかのように目を輝かせて。 そして悪戯が成功したような、どこか楽しむような笑みをのせて答えてくれるから。 「いいよな、知っててもらえるのってさ」 ただ流れるようにふらふら生きてる。 ふらふら ふらふら。 何に捕らわれることもなく。 それでも生きている。 「そんな俺が生きてること。どんな奴かってこと。――知ってる奴がいるってさ…なんか、いいよな」 まるで証。 生きてる証。 そこに存在していた証。 「見えねェくせにそこにあるのは分かるんだよな〜。……なんか星みてぇ」 実際の姿は見えないけれど。 光り輝くそれがそこにいることを主張して止(や)まない。 誰もがその存在を知っているのに、その本当の姿を見たことがない。 「でもさ、お前は、俺の本当の姿、見てるだろ?」 「俺が…?」 笑って云うカズマに、劉鳳は呆然と呟いた。 そんな劉鳳を見て、カズマはまた笑う。 「俺は見せてるぜ?」 お前が俺を見てくれているのならば。 そう云って笑うカズマに、劉鳳も笑った。 言葉のいらない微笑み。 「俺も見せている」 偽りない真実の姿を。 「ふ〜ん…。俺、多分全部見せてるの、お前だけだぜ?」 「俺は多分ではなく、お前にだけだ」 トボケたようにカズマが云えば、至極まじめに答える劉鳳がやけに彼らしくて。 カズマはまた笑った。 空には星。 煌く星。 決して手に入りはしないけれど。 でも誰も特別だとは思わない。 いつもそこにあって。 それが当然で。 誰にとっても自然な物だから。 そこらにある石ころが普通の人? 宝石は特別な力(魅力)を持った石ころ。 アルターという特別な力(能力)を持った者。 別に、何も変わらないのにね。 愛しい人には抱き締めて欲しいし。 大切な人は守りたいし。 時には自分の力の無さに涙を流し。 誰かを傷つけたいとか。 そんなことも思わないけれど。 時には誰かを傷つけてしまうことがあって、心を痛め。 傷つけば。 赤い血を流す。 流れた血は自らの命を削り取り。 愛しい人には抱き締めて欲しい。 愛しい人を抱き締めたい。 大切な人を守りたい。 愛して欲しい。 ぬくもりが欲しい。 命ある者として。 あたりまえの感情。 だから。 「カズマ」 劉鳳は呼んだ。 「なんだよ…」 そうすればカズマはかならず応えて。 後はただ、抱き締め合う。 ぬくもりが欲しいから。 愛しい人を抱き締める。 大切な人が離れていかないように。 自分の腕の中に閉じ込めるように。 ただ愛しい人を抱き締める。 時にはそうすることも必要で…。 だからただ、抱き合っていた。 |
夜空に輝く星を見て 小さく小さく声を発した 愛しい君はそれを聞き 君はただ黙って抱き締めてくれる 夜空に輝く星を見て 君は小さく小さく呟いた 宝石のようだと…。 まるで謳うように 綺麗な笑みでそうしたから 愛しくてただ抱き締めた |
夜空には星 愛しくて 互いに互いを ただ抱き締める |
-----------------------------------------------*-------
ふらりと急に思いついて一気に書いたモノ
なのでなんかよう分かりません(汗)
もはや劉鳳もカズマも偽者?ってかこれ劉カズなのか?!
二時間というゆうひにすればかなりの早さで書き上げました
毎度の事ながらタイトルと内容がかなり激しく
これでもかってくらい合っていないような気がしますが
この話はタイトルの方を先に思いついたからあえてこのままで
書いてる最中はそんなに長くなかったのに
気がつけばまた無駄な余白が…(でもこれが良いんです!)
つらつらとした駄文を読んで下さってありがとうございます
さらに感想なんか頂けたら泣いて喜びますです
-------*-----------------------------------------------
モドル