鳥、囀り、贈る物
囀る 永遠の人を、 自分へと引くための言葉 教えてもらったこの言葉 受け継がれるこの言葉 囀る 愛しい人を繋ぎとめる言葉 |
大木の下に広がるのは、ふかふかと陽だまりの匂いする草花の絨毯。草の色はキラキラと陽の光に輝いて眩しい。 そこに肢体を広げて寝転んでいるのは、赤茶色の髪の少年。 気持ち良さそうに陽の光を体全体で受けている。 鳥の囀りが眠気を誘い、心地良く吹き退(すさ)る風が陽の光に火照った肌に心地良い。 少年の名はカズマ。名字はない。 普段は何でも屋などという物騒な仕事をしているが、たまにはこういうこともある。 日向でのんびりごろごろ。 まるで猫のように。 「何をしている」 心地良い中、不意に聞こえた低いその声にカズマは閉じていた目を開ける。 陽の光に眩しそうに細められたその瞳は、琥珀色に煌いて美しい。 「劉鳳?」 カズマが呟くと、声の主である碧い髪に褐色の瞳の少年はその横までやって来る。 少年の名は劉鳳。 カズマとの関係を問われれば、実はそれは互いにどうにも答えられないだろう。 敵。 初めはただのそ一言で終えられた関係だったのが、気がつけば自分でも良く分からず持て余すしかない感情に支配され。 凄い奴だとは認めている。 互いが守り、そして求める物。 その生き方。 初めはただ否定していただけのそれは、受け入れられずとももはや気にはならない。 自分の信ずる信念のもと。 ただ真っ直ぐ歩く。 互いに同じだと。 知った今では否定するつもりは無い。 生まれた場所が違い。 生きてきた道が違い。 自分を取り囲んでいた環境が何もかも違う。 正反対。 鏡。 決して交わらない自分達の道は、己の信念のみに従って真っ直ぐと歩んでいく結果。 対極の位置にあるその存在の中に、自分の見えぬ自分を見る。 対極の互いを鏡として自分の中にある自分にとっての死角を写し出す。 気が付けば捕らわれていた。 その激しい瞳に。 互いに心が捕らわれる。 真っ直ぐな光に捕らわれていた。 今も。 だから時々会うのだ。 こうして二人きり。 意味も無く、突然のように出会う。 自分の心を捉えて離さないその人と―――。 「別に何も…。しいて云えば昼寝か?」 劉鳳の問い掛けに、カズマは寝起きを彷彿とさせるどこかぼんやりとした様子で素っ気無く答えた。 返答を考えるためにだろう。 一瞬見せた上目遣いと、そのすぐ後に見せたふにゃっとした笑顔に、劉鳳は顔に片手を添えて溜息をついた。 (こんな無防備な笑顔を…こいつは…) 目の前にいる相手は相変わらず何も分かってはいないのだろう。 何を云っても無駄なことが分かっていたので、劉鳳はあえて何も云いはし無かった。 「暢気な奴だな。貴様は」 「いいじゃん。別に用もねぇんだし。…それより、お前こそこんな所に何しに来たんだよ」 云うカズマの横に腰を下ろしながら、劉鳳はおもむろに小瓶を差し出した。 高さ十センチほどの透明な硝子瓶だ。 中には黄色に輝く透明な液体が入っている――蜂蜜だ。 「?なんだよ、これ?」 カズマは小瓶を指差していった。 「好きだろう?」 「そりゃ…好きだけど」 というか大好物である。 云う劉鳳に、カズマは困惑をかくしきれずに返した。 何故急にそんなことを云うのかがさっぱり分からない。 「俺は要らん。だからお前が食うといい」 劉鳳はそう云って蜂蜜をカズマに渡した。 カズマはそれを手に取ると、暫らくきょとんと見つめていたが。 「へへ。サンキュ!」 にっこりと笑って劉鳳に云った。 劉鳳はそんなカズマのどこか照れたような嬉しそうな笑顔に僅かに頬を赤めらせてそっぽを向く。 「別にかまわん」 小さくそう呟いて返せば、カズマはただ微笑うだけだった。 「素直じゃねぇな〜相変わらず。…でもサンキューな、ホントにさ」 云いながら、カズマは小瓶を高く掲げて陽に透かして見せた。 陽のひかりにきらきらと美しく蜂蜜がひかる。 カズマの瞳の色と同じ。 子供のように純粋に輝く。 「この間蜂蜜見つけたんだけど熊に先越されちまってよ〜。 それにしても…こんなに透明で綺麗な蜂蜜は始めて見たぜ」 「く…」 熊?! 何でもないことのようにさらりと笑顔で云うカズマに、劉鳳は驚きと呆れで口が利けなかった。 いったいどうして、今のこの世の中で、蜂蜜を得るのに熊と競わなければならないのか。 「野生動物と食料を奪い合うな…」 「しょうがねぇだろ。荒野だと蜂蜜って結構高いんだ。それに、ここでは自給自足は常識だぜ?」 呆れたように云う劉鳳に、カズマは唇を尖らせて拗ねたように云う。 そんなカズマの様子に、劉鳳はもう一度溜息をついた。 「それにしても限度がある。そもそも、人の云う自給自足とは田畑を耕し食料を得ることだと思うが?」 「だってめんどくせーんだもん。そういうの」 相変わらずの様子で返すカズマに、劉鳳はもはや何も云わなかった。というよりも、返す言葉が浮かばない。 「?…食べないのか?」 ふとカズマの方へと視線を向けると、カズマは先ほど劉鳳から貰ったばかりの蜂蜜の入った子瓶の蓋を開ける気配も見せずに地面に置いた。 すぐに食べ始めると思った劉鳳はそんなカズマの行動に疑問符を浮かべて訊ねる。 「ん〜?いや…かなみに持って帰ってやろうと思ってさ…」 そう云って嬉しさと照れを滲ませてやわらかく微笑んだカズマに、劉鳳もまた小さく微笑んで返した。 かなみとは現在カズマと共に暮らしている少女の名だ。 幼いながらもカズマなどよりもよほどしっかりしているその少女は、カズマにとっては妹のような掛け替えの無い存在であった。 そんな大切な存在にも自分の好きな物を分けてあげたい。 一人で食べるのではなく、一緒になって食べたい。 その喜びを分かち合いたい。 貰った喜びを、自分からも送りたい。 そう言外に云うカズマの行動を、誰が責めるというのか。 「なぁ劉鳳」 「なんだ?カズマ」 不意にカズマが声をかけた。 余りあることではないので、劉鳳は多少意外に思いながらもそれを悟らせない態度で素っ気無く返す。 「ん〜。なんか食いもん貰ってばっかな気がするんだよな〜…俺」 云うカズマに、劉鳳は「何だそんな事か」と呆れたようにして云ってみせた。 「お前が気にすることではないだろう」 カズマは恵んでもらう事を良しとしない。 そんなカズマが劉鳳から蜂蜜を受け取ったのは、それが「施し」ではなく「贈り物」であるからだ。 ――大切な相手へ何かを贈りたい。 そう思うことの何がいけないことだろう。 劉鳳がカズマに云った言葉。 だからカズマは劉鳳からの贈り物を受け取る。 「俺がしたくてやっている事だ」 だから劉鳳は云った。 己が心寄せる相手に何かをしたい。 そう思い勝手に物を贈っているだけだ。 劉鳳のカズマへの贈り物が食べ物ばかりになるのは、荒野では食料を得るのも難しい場合があり、更にカズマが食べ物が好きだからである。 どうせ贈るのならば、その人が贈られて喜んでくれる物がいい。 好きな人に贈り物をして、逆に機嫌を損ねさせる事など望んではいないのだ。 贈るのであればその後に喜びを持って欲しいと思う。 そして、できれば自分への更なる好意を持っても欲しいと思う。 「ん〜…でもなぁ…。お前って、なんか好きな食いもんとかってないのか?」 「いや…特には無いが…」 食には特に困ることの無い人生を歩んできた為か、それとも単なる個人差によるものか。 劉鳳にはカズマほどの食へのこだわりというものが無い。 もちろんそれなりに好き嫌いはあるが、特別にこの食べ物やこの味が好きである。と云ったものがすぐには思いつかなかった。 つまりはその程度の食への関心なのである。 「う〜ん…」 カズマは尚も腕を組んで考え込んでいる。 劉鳳はそんなカズマを横目に見やりながら、また小さく笑みを浮かべた。 (別に何も要らないんだがな…) 胸中で呟く。 もし欲しいとすれば、それは君のその心。 自分のことをもっと思って欲しい。 その為に贈り続けるのだ。 鳥が囀り、陽の光は相変わらず眩しく輝き大地を照らす。 陽の光に照らされて、草も気も。花々も煌くほどに光り輝く。 生命の力に溢れた輝き。 隣には愛しい人。 劉鳳は再びカズマを盗み見た。 いまだ彼はあれこれと考え込んでいる。 必死になるのそ様子が酷く愛しく思える。 (これで十分だ…) 愛しい人が笑いかけてくれる。 今はそれで十分だと思える。 今はまだ…。 いつかそれだけでは満足できなくなるのだろうか。 この暖かな、心地良い空間だけでは満足のいかなくなる時が来るのだろうか。 愛しい人が自分の隣にいる。 それだけでは満足が出来ない自分。 いつか、そうなる時が来たとき、自分はいったい何を望むのか。 ふと考える。 答えは今はまだでない。 空には輝く太陽。 大地には香る草花。 鳥は囀り、風は穏やかに吹き退る。 今はただ…このままで・・…。 |
鳥は囀る 愛する者を惹く為に 囀る 自分の愛を送るために 囀りに乗せて贈ろう 君への愛しい気持ちを いつか 君の全てを欲するまでは ただ隣で笑っていて欲しい ――ささやかな、願い―― |
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あはは〜。もう何がなんだか。
またもや意味無し駄文を書いてしまいました。
まだカズマが自分の隣にいてくれるだけで
いいと思っている劉鳳…いつまでそんなことを
言っているられることやら(笑)
劉鳳への贈り物は何がいいか真剣に悩むカズくんでした
今回タイトルに物凄い悩みました
あんまり気に入ってないです。今回のタイトル
今回は配色もあまり気にいってないです
感想いただけたら嬉しいです
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モドル