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茜
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強く明るく燃ゆる炎 あなたの心のそのままに 私は隣でただ黙る その瞳を閉じ耳を澄ます あなたの爆ぜる音 |
夢の中のその人は、まるで炎のような人なんです。 いつも黙って私を暖めてくれるんです。 私に勇気をくれるんです。 強いんです。 何が強いって、その心が。 絶対に負けません。 誰に…って……。 誰にも。 強いんです。 本当に強くて…私、時々不安になります。 いつか。 置いて行かれるんじゃないかって。 私は足手まといで。 邪魔な…存在で。 でも私その人の傍に居たいんです。 その人の傍にいるだけで良いんです。 その人のすることに文句なんて云いません。 見て欲しくないと云うのなら、私は何も見ない。 じっと目を瞑り、耳を塞ぎ、口を閉じ。 それでもいいんです。 ただあの人の傍に居られれば。 あの人のその朱に染まり。 あの人のその明(あけ)に照らされ。 私はあの人の熱にぬくもりを得る。 嵐が来ました。 夜の嵐は恐いです。 物凄い風と、雨と。 木々が飛ぶ音。 いつもよりもずっと夜が暗く感じます。 暗くて深く感じます。 「雨漏り…」 私は天井を見て云いました。 ここは私が寝室にしている部屋。 私の名前は由詑かなみ。 別にかなみだけでもいいの。 彼が呼ぶ私の名前は、「かなみ」だから。 彼の名前は「カズマ」 私は「カズくん」って呼んでます。 いつも呼ぶなって云われるけど…。 私はカズくんと二人で暮らしています。 私は八歳で、カズくんは十六歳。 別に兄妹ではないです。 ただ…どうしてだろう? 一緒に暮らしてるんです。 どうしてだろう…って考えるけれど、私はカズくんと離れたくなくて。 そんなの考えられないくて。 絶対に嫌で…。 雨に滲んだ天井を見上げながら、私は心の中で考えていました。 なんかどんどん心が沈んでいきます。 きっと天上に出来たシミが暗くて陰気な色をしているからです。 雨漏り自体のせいかも…。 (だって、私のベット、これじゃぁ使えない…) 雨漏りが起きているのは私のベットの真上。 私の気分はとことん沈んでいきました。 私とカズくんが暮らしているのは、廃棄された診療所。 いつも私はここからそう遠くない牧場にお手伝いに行っています。 カズくんは…一緒に来てほしいんだけど、いつもどこかに行ってしまいます。 カズくんは誰かとの共同作業とか苦手みたいです。 私も…誰かとお話したりするの苦手です。 カズくんは特別他人と関わったり、集団で暮らしたりするのが余り好きではないみたいで、私はカズくんと一緒にいたいから。 だから、私達は牧場から少し離れたこの今ではもう廃棄された元診療所に二人で暮らしています。 嵐です。 ガラスが割れそうなほど激しく、がたがたという音を経てて揺れています。 ……恐い…です。 「かなみ」 呼ぶ声に、私はそちらへ振り向きました。 扉の前に立つのは赤い髪に琥珀色の瞳の彼。 「カズくん」 です。 「とりあえずバケツ…でも置いときゃいいか?」 そう云って、カズくんはお掃除道具を私がいつも置いておいた所から持ってきたらしいバケツを掲げてみせます。 「うん…。でも、今日どこで寝よう……」 私は俯いて云いました。 元診療所だけあって、ここにはいくつかベットがあります。 でもそれはもうどれも使えなくなっていて…。 どうしようかと考え込んでいた私に、カズくんがさらりと云いました。 「ああ?俺がいつも寝てるとこで寝りゃいいじゃん」 何を迷っているのか? そんな風に、いぶかしむような、不思議そうな表情でカズくんは云うんです。 「でも…それじゃぁカズくんはどこで寝るの?」 「あ?どこって…床」 上目遣いで訊ねれば、カズくんは先ほどと同じようにさらりと答えます。 「床って…それじゃぁ身体が休まらないよ」 逆に疲れちゃう。 床は冷たいから風邪を引いてしまうかもしれないし…。 私がそう云うと、カズくんは「平気だって」と、全然自分のことには無頓着なように云うから…。 「平気じゃないよ!」 私は思わず怒鳴ってしまいました。 珍しく怒鳴った私に、カズくんはほんの少しびっくりしたみたいで、どこか困ったように視線をさ迷わせてから、また私に視線を合わせました。 「それじゃぁどうするって云うんだよ」 拗ねるように云うカズくんは、私よりもずっと年上なのに、なんだか私よりも年下に思えちゃいます。 可愛い。 きっと、私がもう少し大人だったらそう思うと…。 そんなこと云ったら絶対カズくん怒るから、口が割けても云えませんけど。 「それは…」 私が答えを出せなくて口篭もると、カズくんは溜息を一つ付きました。 私は思わず肩を振るえさせて、びくりと顔を上げました。 カズくんに嫌われたかもしれない…。 そんな不安が私を襲います。 カズくんが口を開くのが、まるでスローモーションのようにゆっくりと私の目には写り、私は彼の口から発せられる言葉を恐怖と共に緊張して待っていました。 「それじゃぁ一緒に寝るか」 「え…」 彼の口から出た言葉は想像もしていない物で。 私は思わず呟いていました。 「なんだよ?床で寝るよりマシだろ?」 「で、でも…」 カズくんは…それでもいいの? 「なにが?確かに狭いだろうけど…寝れないことはないぜ?」 「そ、そうだけど…」 「ああそっか、二人で寝たほうがあったけぇしな」 はじめからそうすれば良かったんだよな〜。 カズくんはのんきに、嬉しそうにそう云います。 上目遣いに一人で納得している彼を見ていると、なんだか頬が熱くなってくるんです。 どきどきしてきて、凄く恥ずかしい。 彼が恥ずかしいんじゃなくて、嫌な気持ちじゃなくて。 何て云うか…。 「かなみ」 「!」 どうやら一人で考え込んでしまっていたらしい私の意識を引き戻したのは、カズくんの私を呼ぶ声でした。 不思議そうに。心配そうに覗き込んで来るカズくんの表情が目の前にあって、私は上げた顔をまた俯かせてしまいます。 「……」 見つめられているのをひしひしと感じます。 私の顔は今、きっと耳まで真っ赤になっているんだと思います。 どうしていいかわから無くて頭がぐるぐるしてて。 心は酷くどきどきしてて。 ただ俯いているしか出来なくて。 「!」 ぽんぽん。 と、私の頭を優しく撫でる彼の手に、私はゆくっりとその表情を上げました。 見れば彼は優しく微笑んでいて。 「かなみが嫌だったら…いいんだぞ」 無理して一緒に寝なくても。 私は彼の言葉に慌てて首を横に振りました。 いっそ首がちぎれてしまいそうなほどに激しく。 ほとんど必死で首を横に振ったのです。 「い、嫌じゃないよ!!私、カズくんと寝るの、嫌じゃないよ!!」 云えば、彼はまたやわらかく微笑んで。 私は知らず見とれていました。 「んじゃ、もう寝るか」 さっきとは打って変わった明るい表情。 私は微笑みました。 もう部屋の扉に足を向け、私には背を向けている彼には気がつかれないように。 なんだか嬉しくて。 心の中が暖かくて。 私は自然。 微笑んでいました。 カズくんは、いつも診察室だったところの、診察台だと思うところで寝ています。 寝ているというより、彼は家にいる時、たいていはそこに座っています。カズくんのお気に入りの場所の一つ…なのかな? そこは昼間は結構陽が当たって、心地良い暖かさ。 明るい、光の空間。 そこに座るカズくんにお茶を持っていって。 一緒にお話をして。 それが、私の一番の幸せ。 外は嵐です。 風は激しくて、雨は強くて。 木々の飛ぶ音が聞こえます。 私は今日、カズくんの腕に抱かれ。 彼と二人、シーツに包(くる)まって眠りにつきます。 カズくんが凄く近くにいて、凄くどきどきします。 (暖かい…) カズくんの体温が伝わってきて。 凄く。 凄く暖かいです。 外は嵐です。 いつもよりずっと夜が暗く感じます。 暗くて、深く感じます。 でも、恐くないです。 だって、彼が――カズくんが傍にいてくれるから。 とっても暖かいです。 とっても安心している私がいます。 嬉しくて、でも凄いどきどきしている私がいます。 今、私の隣では、私の大好きな人が寝ています。 私は彼に嫌われたくないです。 ずっと傍に居たいです。 だから、今、とっても幸せなんです。 夢の中のその人は、まるで炎のような人なんです。 強くて暖かくて。 激しくて。 そして優しい。 その日。 その人は、隣で眠る、その人にとって一番大切な人に云いました。 「…大好きだ…から……」 だから、絶対に護るから―――。 その人は心配しないでと云いました。 私は感じます。 その人が、誰よりも、今その人自身の隣に居る人を大切に思っていることを。 その人にとって最も大切な存在。 云いようのない深い思い。 誰よりも守り通したいと強く思っていることを。 その人を護ると、強く固く決意していることを。 少し…羨ましいです。 私も、カズくんにそんな風に思われたい……。 |
あなたが私を照らす 私はあなたの朱に染まる そばにいさせて あなたのすぐ隣に私を 静かにしているから あなたの邪魔にはならないから だから あなたの熱で私を暖めて |
その、茜色の輝きで
------------------------------------------- こめんと -----
ヨシノさまに捧げます7777HITリク小説です。
リクエストはスクライド「カズかな」小説でした。
特に内容の指定はなかったのでこのように…。
いかがでしょう?気にいって頂けると嬉しいです。
かなみちゃんの一人称に初挑戦してみました。
ム、ムズカシ……(汗)
「カズかな」というより「かなカズ」よりな話になってしました。
最後のかなみちゃんの夢で無理矢理「カズかな」…(滝汗)
も、申し訳ありませんです。
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