人肌の温もり



















いったいどれほどの時

一人でいたのだろうか

もう思い出せない

こんなにも寂しいところ

どうやって

自分は生きてきたのか

こんなにも寂しい場所

どうやって一人

自分は生きてきたのだろう

どうやって






























 願うだけでは何も叶いわしない。
 行動を起こさなければ。

 何でも良い。
 何かをする。

 それで何かが変わる。

 たとえそれが微々たる物であろうとも。
 それは確かに 渦巻く 時の螺旋を歪ませて。

 いづれは大きな歪みとなり。
 やがては永遠に続くだろう運命の螺旋を崩すだろう。

 願うだけでは何も叶わない。
 思うだけでは何も変わらない。
 何もしなければ何も起こりはしない。

 だから何か。

 何か行動を起こすのだ。



 たとえば。

 何かをしたいなら……。















 薄暗い時だった。
 辺りは冷たい岩ばかりで。

 心を冷たく、そして静かに貶めていく。

 それは別に言い訳になりはしないけれど。
 それが理由の一つであるのも確かだと。
 そう知っている。

 だから別に何かをしようとは思わない。
 ただ…。
 ただ寒かったのだ。

 とても寒かった。
 身が震えるほどには寒かった。

 風が冷たいと感じるほどには。


 寒く…――寂しかった。


 真に心地良い暖かさというものは、人工的に造られた暖房器具では決して感じられない。

 心落ち着く温かさ。
 やすらぐ温(ぬく)もり。
 苦痛にはならない…。

 それは生き物の体温。

 だから寄り添い合う。
 抱き締め合う。

 生き物同士。
 互いに。

 劉鳳は己の腕の中で眠るその存在を見やった。

 まず目に入ってくるのは紅い髪。
 一部色が変わってきているのは、彼の身体がどこまでも傷ついてきていることを如実に現している。

 今は緩やかに閉じられたその瞳の奥にある琥珀の瞳は、平時ではもう片方しか開きはしないはずだった。

 緩やかに閉じられた瞳。
 安心しきった寝顔。

 戦闘時の彼のみを知っていた――その状態の彼しか知らなかった少し以前の自分がこの姿を見たのなら、いったいどんな思いを抱くだろうか。

 そんなことを考えて、劉鳳は胸中で自嘲した。

 以前は憎むべき敵であった――敵でしかなかったその彼を。
 「カズマ」という名を刻んだばかりの自分が、今その存在を抱き締めているこの姿を見たら。

 いったい何を思うのか。

 劉鳳は更なる温もりを得る為に、無意識のうちに眠るカズマの身を自分の方へ引き寄せる為に抱き締め直した。

 僅かに状態が動かされ、カズマは微かな呻き声を上げる。

 子供がぐずるような声だった。

 劉鳳は腕の中の彼が起きてしまったかと一瞬身を固くし、しかしカズマは相変わらず安らかにその瞳を閉じているから。
 ホッと胸を撫で下ろす。

 小さな寝息が聞こえる。
 それほどに辺りは静まり返っていた。

 いつからこうやって眠るようになったのか。
 それはもう覚えてはいない。

 気が付いた頃には抱き合っていた。

 互いの温もりを求めるように。
 まずはその身体に触れる程度。
 生きていることは確かめるように。
 その熱を知るだけで良くて。

 だんだんと欲が出てくる。
 もっと暖かい熱が欲しいと。
 もっと多くの温もりが欲しいと。

 そうして。
 気が付けばその腕で抱き締めていた。

 劉鳳は赤銅色の瞳を閉じた。
 そうすればより彼の鼓動を。その熱を己のその身に感じることが出来るから。

 腕で抱き締めるだけでは満足できない。
 身体全体で包み込むように。

 元より細すぎると感じた彼の身体は、ここ数日でさらに細くなった気がする。
 腕に抱く人のその身の細さに、劉鳳は眉を顰めた。

 もう忘れたと思っていた遠い記憶。

 人肌の温もり。
 その鼓動の音。
 もたらされる穏やかな気持ち。

 思い出してしまったら。

 ――もう手放せない。

 まだ薄暗い時。
 この腕にある人の温もりの中で。
 その温もりのもたらす心地良い安らぎの中で。

 もう暫らく夢の中にいよう。

















 カズマはゆっくりとその瞳を開いていった。

 まず目に写ったのは青と白。
 自分を抱く人の着る服の色だった。

 自分を抱き締めるその腕は決して強すぎはしない。
 しかし弱くもなかった。

 身体全体で包み込むように抱かれていては、その人を起こさずに抜け出すことなど出来なくて。
 もとより抜け出そうとも別段思いはしなかった。

 彼の鼓動が聞こえる。
 身体はほんのりと温かい。

 心地良い温もり。

 初めは敵だった。
 もうどうしようもないくらいいけ好かない奴。
 今も実は代わっていないかもしれない。
 けれど。

 ――暖かい。

 寒かった。
 一人で生きていくことには慣れっこのはずだった。
 というか、一人で生きてきた時間の方がきっとずっと長い。

 けれど知ってしまった。

 人肌の温もり。
 その温もりの心地良さ。
 もたらされる安心感。

 知ってしまったらもう。

 一人ではいられない。
 寒すぎて。

 カズマはその瞳を閉じた。
 もう片方しか開かない琥珀の瞳。

 まだ陽は明るくもないから。
 もう少し。

 夢の中にいよう。

 この温もりを感じて。
















 理想がある。
 譲れない何かが渦巻いている。

 だから自分の路を歩むと。

 そう、決めた…。

 それは一人孤独な道。
 たとえ思われても。
 そんなこと感じることもなく。

 いつか忘れ去られても

 それでもいいとも思うほど

 それは
 実に自分勝手な路だから


 それでも

 温もりがこの隣にある


 願うだけではかなわないから抗い続けるのか
 思うだけでは意味がないから歩くのか
 それとも
 何かしなければいられないだけなのか


 もう、手放せない―――。


 永遠に続く螺旋を歪ませて
 一人

 それでも、この隣の温もりを手放したくない

 もっと
 もっと
 もっと…

































どうやって

いったいどうやって生きてきたのだろう

この寒い空の下

たった一人で

いったいどうやって

温もりを知ってしまえば

もう一人ではいられない

寒さに耐えられない

だから

今はまだ

その人肌の中で夢の中





























--------------------------------* 
こめんと *----



イメージとしては空白の三ヶ月くらい(笑)
別に二人でずっと一緒だったとは限らないのにね…(汗)
二人は車の中で抱き合って眠ってたのv
というようなイメージです(多分…)
またしても意味のわからないものになってしまって…。



----------------------------------* 
もどる *----