闇、静かに響く
寒い
寒い
寒い
抱き締めて
抱き締めて
ただきつくきつく
抱き締めて
ひどく暗かった。 まるで世界を暗闇に包み込むかのような深淵。 闇が収縮していく。 それを跳ね除けるように揺らめく金。 強く。 ひどく剣呑で、どこか哀しい光。 「てめぇはあの女のことだけ考えてろよ」 琥珀色の瞳が揺らめく。 闇の中で浮かび上がるそれは、たったの一つしかない。 たった一つで。 すべてを威圧するように強く光る。 姿が露わになる。 銅(あか)い髪の少年。 跳ね除けるのは闇だけではない。 すべてだ。 すべてを跳ね除けるように威圧してくる。 野生の獣の威嚇。 強い眼差し。 真っ直ぐに歩み寄ってくる影。 何に臆することも無く。 真っ直ぐに歩み寄る影。 それは赤銅の瞳の少年だった。 碧い髪は闇に溶けるように深い色をしている。 自分を護るように。 己を自身で抱え込むように身を縮こませて座っている琥珀の瞳の少年――カズマ。 赤銅の瞳の少年は劉鳳。 彼が向かうのは、カズマの元。 劉鳳がカズマの眼前まで歩み、そしてそこで立ち止まった。 真っ直ぐと佇み、真っ直ぐとカズマに視線を向ける。 カズマは僅かに顔を上げ、相変わらずの琥珀の瞳で劉鳳を睨みつけるように見る。 交差する視線。 「…カズマ……」 どれほど互いに黙していたのか。 先に声を発したのは劉鳳だった。 それはただの一言。 「カズマ」という名。 劉鳳がゆっくりとその身をかがませていき、カズマは表情一つ変えず――どこかぼんやりとした瞳の視線それをで追う。 二人の視線がほぼ同じほどの高さになり、劉鳳はカズマを抱き締めた。 「離せよ」 カズマが云った。 表情は変わらない。 ぼんやりと。 まるで感情など無いかのよう。 「何故?」 カズマを抱き締めたまま、劉鳳はそう一言だけを云った。 「云っただろ。お前はあの女のことだけ考えてればいいんだよ」 「シェリスのことか?」 「名前なんて知らねぇよ」 離せと云うカズマは、しかし劉鳳を押し退けようともせず。 かわりに抱きしめ返すこともせず。 ただ声を発するだけ。 「彼女は常に俺の中にある。…だが、それでも俺が欲しいのは…お前だ。カズマ」 劉鳳は云う。 カズマを抱き締め続けながら。 密着させていた身体を僅かに離し、劉鳳はカズマと再度視線を合わせる。 ゆっくりと近付く顔。 触れる唇。 「んっ…」 うめきとも取れる声がカズマの喉から漏れる。 苦しそうにその眉が歪められたのは、その口付けが始まってすぐ。 深い深い口付けを劉鳳に与えられてから。 闇。 漏れる声。 深い闇の中。 光は無く。 ただ響く呼吸音。 「もう…イヤ、だ……」 カズマが云う。 静かななみだ。 一滴。 落つる。 頬を伝い。 「俺の名前を呼ぶ奴には…もう、誰も。いなくなってほしく、ねぇんだよッ…」 「いなくならない」 カズマの声に、劉鳳が静かに応える。 彼の肌に触れながら。 優しく触れてくる。 「馴れ合いは…いらねぇ」 「俺もだ」 カズマが云えば、劉鳳は静かに返す。 優しく触れる手をやめず。 その口付けを止めず。 闇。 ただ響く呼吸音。 ただ落つる泪。 「ただ…俺がお前を欲しいだけだ」 どうしようもなく。 そう劉鳳が云い。 カズマは静かに、己を抱く人の背に腕を回した。 |
名前を呼んで
それで存在を赦される
どこにもいかないで
もう一人はいやだから
誰も近付かないで
どうせいなくなるのなら
名前
それがあって初めて
その存在が現実に現れる
意味が生まれる
赦される
「寒いか…?」 「否(いや)…」 カズマが問えば、劉鳳は返す。 暗い暗い闇。 すべてを飲み込むように深いその中で、それを取り込むように・・・しかし染まらずに跳ね除ける存在。 「そいつのこと・・・忘れんなよ」 「云われるまでもない」 抱き合う。 静かに。 そこに広がるのは荒野。 陰を創るのは瓦礫の山。 そこで抱き合う。 二人。 静かに。 「カズマ…お前の名を刻んだ」 「……」 「お前の名なのだろう?それが」 「劉鳳」 「なんだ?」 一度言葉が途切れ。 また静かに続く。 流れるように。 「俺も…お前の名を刻んだ。全部…忘れねぇ……」 カズマは云った。 全部、忘れない――。 |
自分の名を呼ぶもの
自分の名を呼んだもの
自分が名を呼んだもの
全て忘れない
自分の過去
自分に関わったすべてのこと
自分の関わったすべてのこと
全て忘れない
すべて自分を作るもの
それら全てが
今の自分に繋がっている
でも過去は振り返らない
後ろは見ない
もどらない
進むのは前
前へ
前へ
前へ
真っ直ぐ
更なる高み
目指し
ただ真っ直ぐ
前へ
歩み続ける
自分として
永遠に
自分として
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ええと…すみません。余りにもわけ分からないモノで。
突然書きたくなったのです。
あえて何も云いません。感じたままに。
とりあえず、静かな雰囲気が出てたらよし?
余りにもあれなので裏置き。
------------------------------------- モドル ----