君はこんなになっても
あったかい あったかい手が その大きくて優しい手が 僕の傍にある ただそれだけで暖かく ただそれだけで優しく 僕の心は涙を流す |
なでなで。 「何やってんだよ…」 半眼で呟いたのは赤い髪に琥珀の瞳の少年――カズマだった。 彼の頭の上には白くて大きな手がのっかっている。 優しく撫でるその手の持ち主は、碧い髪に褐色の瞳のひどく整った顔の少年――劉鳳だった。 劉鳳のその手は無言でカズマの頭を撫でている。 しかもひどく優しく。 そしてどこまでも無愛想に。 「……」 未だ半眼のままのカズマに、劉鳳はそれでも尚無言のまま、彼の赤く癖のある髪を撫で続ける。以外とやわらかなその髪が指に触れるたびに心地良く、劉鳳は僅かに目を細めた。 「…なんなんだよ、一体……」 わけが分からず、カズマは溜息交じりに呟く。 カズマはソファに腰掛、劉鳳はその前に立っている。 カズマの眼前を自分の身体で塞ぎ、その頭を撫でてからもうどれほど経っただろうか。 「もう寂しくないか?」 突然劉鳳が云った。 彼のその台詞の内容に、カズマは頭上にハテナマークを浮かべ、困惑に目を見開く。 「は?」 呆けた声で問う。 問うというよりは、余りの台詞にただ声が言葉が漏れたといった感じだろうか。 「ずっと寂しかったのだろう?」 しかし劉鳳は表情一つ、声色一つ変えずにさらりと云う。 カズマは劉鳳が一体何を根拠にそれを云うのかがまったく分からず、相変わらず呆けた様子で劉鳳を見上げるのみである。 「ずっと、一人で走り続けて来たのだろう?」 劉鳳はそう云い、再びカズマの赤い髪を梳くようにその頭を優しく撫でる。 劉鳳の言葉に、カズマは実年齢よりも己を幼く見せるその琥珀の瞳で見上げる。 褐色の瞳が優しい光を持っている。 それを見てカズマはふっと、その表情から力を抜く。 柔らかい表情とでも云うのだろうか。 一度その瞳を閉じ、再びその面を上げると、こんだはカズマが劉鳳のその身を両の腕で抱き込む。 次に驚くのは劉鳳の番だった。 突然自分の腰元に抱き付いてきたカズマに、劉鳳は困惑の色を隠せない。 「カズマ…?」 問うように呼べば、カズマはその綺麗に光る琥珀の瞳で真っ直ぐに劉鳳見、いつもの彼特有の笑顔を向けた。 「寂しかったんならそう云えよな、劉鳳」 「な…」 劉鳳が言葉に詰まれば、カズマはその笑みをさらに深くするように表情を変え、可笑しそうに言葉を紡いでゆく。 「一人で走り続けて来たのはお前もだろ?劉鳳」 それはただがむしゃらとも云えるような生き方かもしれない。 勝手気ままに流れる、風のような生き方と。 我を押し通す早急の矢のような生き方。 この世に産まれ落ちたから。 成し遂げる最低の事。 ただ生きる事。 生きる中で自分が見出した物。 それはある時に自分の中では決して譲れぬ物となり、過去を全て抱き込み前にのみ進むように。 時には。 時には、与えられる温もりさえも跳ね除けて。 「傍にいて欲しいならそう云えって」 素直に。 余りにも自分に素直に、正直に生きてきた。 そして余りにも不器用に。 「……お前も…カズマ」 「そうだな。…たまには、お前のこと呼んでやるよ」 劉鳳が云い、カズマが返し。 二人の視線が絡み合う。 別に長い時間をきたわけではない。 生き急ぐ事もない。 けれど止まる事も不器用過ぎてできない。 止まるだけでは終わらない。 止まり、そして歩き出した時は、また大きくなっている。 そうでなければ自分ではないと。 常に高みを目指す己自身が叫び続ける。 握り締めればすり抜けていく物ばかりで。 その中にある自分はひどく脆い。 それでも生れ落ちたのだから。 ただ生きる。 そして生きるのであれば。 生き続けるのであれば。 幾つもの時の中。 譲れないものが己の中で凍てつく炎のように息吹き。 自分が自分になる。 |
触れる暖かい手 それだけで心が 涙を流す 優しさに溢れて |
その手 与えるのは痛みだけではなく その生れ落ちた人生 決して優しさのみ満ちた物ではなく 血を流し 涙と泥にまみれて 自分の心 痛みを受け過ぎて 君はこんなになっても それでも尚 まだ走り続ける その手は暖かい その心は優しい 止まぬことない傷だらけのその全てで 君はこんなになっても尚強い 尚自由で 君は永遠に君である 君は いつまでも君である 永遠に |
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カズマの頭を撫で撫でする劉鳳が書きたかっただけです。
なので本当にもう流れのない小説で。
いつもいつもの事ですが、
私の小説はどうも詩のような部分が強いかもしれないです。
詩にもなってなかったらそれは…もうなんというか(汗)
いつもながら短くてすみません(滝汗)
感想いただけると嬉しいです。
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