沈黙の夜明け




















暗い暗い夜が明ける





















 彼と私が共に暮らさなくなり、もう十年近くが経ちました。
 ロストグラウンドに数ある小さな村。
 そんな村の一つで、私は一人生活しています。

 一人になったばかりの私はまだ八歳で、その頃は同じこの村に今も暮らす桐生水守さんという方と、橘あすかさんという方の元にお世話になっていました。

 でも、今では一人で暮らしています。
 橘さんは…恋人・・・今ではもう奥さんって云ってもいいのかな?そういう人と暮らしていますし、水守さんはずっと一緒にと言ってくれたんですけど、私が一人で暮らしたかったから…。

 村から少し離れた高台の上の一軒家。
 そこが今の私のお家です。

 我侭だというのはよく分かっているんです。
 いろんな人が私のことを気にかけてくれています。
 でも、私はここで待っている人がいるんです。

 その人の名前はカズマ。
 シェルブリットのカズマ。

 彼を「カズくん」って呼べるのは、私だけの…密かな特権です。
 私はそのことが、何よりも嬉しくて…幸せ…なんです。

 一人で暮らす私に、村の人はいろいろ云ってくれます。

「本当にうちの娘になってくれないかね〜」
「働き者のしっかり者だし、ああ、本当に、うちの子もかなみちゃんみたいだった文句の一つもないのにねぇ」

 とは、村のオバさんやオジさん達。
 笑ながらいつも云ってくれます。

 十年も同じ所にいれば近い歳のお友達もできて、お昼とかにお話をしたりします。
 それは取り止めのないことばかり。

「かなみちゃんは顔良し、性格良し、おまけにスタイル良しで非の打ち所が無いのに。なんで恋人の一人も作らないのか不思議だよ」
「ほんとだよね〜。否定してるけど、うちのお兄ちゃんも絶対かなみちゃんが好きなんだよ。あれは間違いないね、うんうん」

 みんなのそういう言葉には、とりあえず曖昧に笑って応えます。
 どういう反応して良いかわからないし…。
 それに、いろいろな人が私のことを助けてくれるけれど、それは私を心配してくれてのことだし。

 でも、恋人は作らないんじゃなくて……。

 いつも一人でいるのは、その人が余り人付き合いを得意としていないから。……私もどちらかというとそうです。
 大勢人が集まる場所には、進んで姿を見せようとはしないから。

 その理由も、彼の生き方も。
 私を思っていてくれていることも知っているから。
 分かるから。分かってしまうから。

 だから、我侭は云えません。

 ずっと一緒にいて。
 傍にいて。

 なんて…云えません。

 それでも、どうしようも寂しくて。淋しくて。辛くて…。
 一人が辛い夜もあるんです。
 辛くて辛くてどうしようもない夜があるんです。


 かならず駆けつける


 私がそうなると、彼はいつも、ふらりと私の元に来てくれます。
 帰ってきてくれます。

 夜。
 もう月が空の真上に昇った暗い時刻。
 ふらりと扉を開けて、私の前に姿を見せてくれるんです。

 そして暫らくの間。
 私がもう大丈夫になるまで。また一人でもなんとか歩いていけるようになるまで。
 私の傍で暮らしてくれます。

 あたかも何も無かったかのように。
 あの、十年前のあの頃のように。

 朝はいつまでも寝てて、ちっとも働いてなんてくれなくて。
 ご飯を作っても「マズイ」としか云ってくれなくて…でも、きちんと全部食べてくれて。

 そうしていると、どうしようもなく切なくなります。
 嬉しすぎて。どうしようもないくらい嬉しすぎて。
 ……でも、それと一緒に、云いようの無い苦しい思いが胸に込み上げてきて溢れ出しそうになって…。

 たまらなく泣きそうになります。

 彼には、聞けないことがあります。
 云えないことがあります。

 それは、私のアルター能力を使えばすぐに分かってしまうこと。
 彼の気持ち。
 彼は…私のことをどう思っているのでしょうか?

 でも、アルターは使いません。
 いえ、使えないのです。


 怖くて…。


 だって、もしそれで知った彼の気持ちが私の望んでいるものと違っていたら?
 彼は私のことを思ってくれています。
 でも、それが私の望んでいるものと違う形だったら?

 彼は、きっと私のことを妹として見ている。
 私のことを…妹として何より大切に、掛け替えのない存在だと思っている。
 でもそれを確かなことだと知ってしまえば。


 きっと、私はもう一人で立てなくなってしまう。





 好きです。



 あなたのことが。






 あなたのことを…愛しているんです。

 一人の女性として。




「もう…子供じゃないよ…私……」

 ねぇ、カズくん?
 ちゃんと分かってくれてる?

 その日。
 その夜。

 私は一人、呟きました。

 とても久方ぶりの。
 カズくんが帰ってきてくれた…夜のことでした。












 彼は何も云いません。
 でも、彼は結局。私のことを良く分かっているんです。
 いつもは鈍いのに…大切な時は、本当に知ってほしいことや気づいてほしいことには。
 信じられないくらい敏感なんです。

 少し悔しい。

 だって、それはきっと彼の本能。
 きっと考えてのことなんかじゃないんです。

 でも、それでも凄く幸せだから。

 その日。
 その夜。

 彼は私に一つの小さなキスを贈ってくれました。


 私のその唇に。


 それは触れるだけのもの。
 小さなキス。

 そっと触れ合う唇に、私の心はどれほど振りでしょうか。
 凄く暖かくて…幸せな気持ちになったのです。













 夜が明けて。
 彼はまたいなくなっていました。

 いつもと同じ。

 何も云わずにふらりと帰ってきて。
 何も無かったかのようにあの頃と同じ生活をくり返し。
 そしてまた。
 何も云わずにどこかへいってしまう。

 でも、心は繋がっている。

 今は、今までよりもずっと強く確かにそう思えるんです。






 彼は何も云いませんでした。
 夜明けと共にまたどこかへ行ってしまいました。

 でも感じるんです。


 彼を。
 彼の心を。


 強く。






























きっと、また会える

























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こめんと *----


かなカズです。でも最後はカズかな?
実は同じ設定で裏仕様もあります。
というか、先に裏バージョンのものが思いついたのです。
つまりこれはもともと裏仕様でした(笑)
なのでこれも書いた後は裏に置いた方が良いのかな?と悩んだり。
でも最近裏ばっかり更新していたので表用に創り直しました。
裏はまた少し違ったモノなので、もしご要望あればそれも
書いてUPしようかな♪(って、そんなものあるわけないですね/汗)


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