甘い唇
アカイクチビル ボクを誘う |
いつだって人気メニューの一つに数えられるそれが、今日の晩御飯。 お子様な彼の口には特にお合いになったようで…。 案外と綺麗に食べるのが難しいそのメニューに、けれどそんなことなどお構いなしに彼は食べる。 それはもう実においしそうに。 だから困るのだ。 美味しそうに食事する、彼の幸せそうな笑顔。 自分をきょとんと見つめてくるその純朴さ。 「ウマイ」と云いながら微笑んでくれるその笑顔は、間違いなく僕にだけ与えられたモノ。 だから困るのだ。 ……可愛すぎて。 そう。 今晩のメニューは「スパゲティミートソース」です。 「腹減った」 そう云いながら、まるで巣穴の中で大口開けて待つ雛鳥のように口を開けて云うカズマに、劉鳳は黙って立ち上がる。もちろん愛しい彼のために食事を作るために。 台所に立ち、さてどうしようかと逡巡する。 琥珀の瞳をきらきらさせるその彼は、どうやらそうとう空腹の様子だ。あまり待たせたくはない。 かといってあまりにもシンプル過ぎる食事では、この子供の味覚を持つ彼には少々物足りないだろう。子供はどちらかというと濃い味付けが好きだ…と思う。 簡単で、早く作れて、しかも誰でもがたいてい美味しいと云うメニュー。 劉鳳が選んだのはスパゲティだった。 パスタを茹でること約七分。 ミートソースはレンジで温めるだけ(爆) 今は本当に便利な世の中になったものだと、今更ながらにしみじみと思う。 お皿に盛ってチーズをかければ出来上がり。 「カズマ、出来たぞ」 恋人同士というよりは親子?というような風景が繰り広げられる中、それでも二人のまわりを覆う空気はやはりラヴラヴなものだった。 「ウマソ〜vv」 カズマは琥珀の瞳をきらきらと輝かすばかりでなく、その頬を幾分か上気までさせて目の前に置かれた食事を見つめる。どうやら予想以上に腹を空かせていたようだ。 もっとも、彼がこれほどまでに期待に胸膨らませているのその理由には、良く香るチーズとミートソース独特の鼻腔をくすぐる香りがその一因としてもあるだろう。 「なぁなぁ、食べていいか?」 「ああ…その為に作ったのだからな」 カズマがどきどきとした様子で劉鳳に訊ねれば、劉鳳はいつもの無表情を珍しくも――もっとも、カズマの前ではそんなに珍しいことでもなかったが――崩し、微笑にも見えるように優しい瞳と口元で応えた。 「うっめ〜!!」 一口食べてカズマはその味に絶賛する。 どうやらお口に合ったらしいことに安心し、劉鳳は態度には出さずにホッと胸を撫で下ろす。 カズマが気に入ってくれるかと、実は内心でかなりどきどきしていたのだ。 カズマはもぐもぐとスパゲティを口に運んでいく。 未だにフォークを握るようにして持っているためなのか、彼の食べ方はお世辞にも上品とは云えない。というか、むしろその言葉からはかけ離れたものだった。 しかし恋は盲目。 実年齢よりもずっと幼いカズマのその反応に、その姿に、劉鳳は自然と頬を緩ませた。 ほぼレトルトだろうとなんだろうとこれは立派な手作り料理。 ここまで喜んでもらえると嬉しくないわけがない。 もきゅもきゅとスパゲティを頬張るカズマが、不意にその顔を上げる。 「!」 劉鳳のそのカズマの姿に目を見開いた。 言葉が詰まり声も得も出せずに固まる。 「?」 そんな劉鳳の様子に頭にハテナマークを浮かべて小首を傾げるカズマ。 劉鳳はそんなカズマを見、胸が直に握り締められたような衝撃に、もはや息が出来ない。 頬を赤くして、それを隠すためか顔に手を沿えた。…もっとも、その程度で彼の火照った顔の赤みが隠しきれるものではなかったのだが……。 なぜ劉鳳が頬を赤くしたか。 答えは至極簡単だ。 (か、かわいい……) そう。 それはカズマのあまりの可愛さ故(ゆえ)。 顔を上げたカズマの唇はスパゲティのミートソースで艶やかな赤色に色づいていた。 まるで誘うような色。 しかしカズマにはそんなことなど分かりようもない。 相変わらずのきょとんとした表情で、尚も不思議そうに劉鳳を見つめ、知らず彼を誘うのだった。 赤いその唇に理性が飛びそうになる。 どれだけ待てば良いだろうか? それとも……。 アカイ甘い唇に誘われて 少年は理性と本能の狭間で必死に格闘するのだった。 さて、勝つのはどっち? |
|
------------------------------------- コメント ---- スパゲティ食べてて思いつきました(笑) 最近シリアスっぽい話ばかり書いていたのでギャグっぽく。 ちょっと中途半端な感じ?…そして写真が(滝汗) いつもより画面を大きく使って書いてみたのですが こちらの方が読みやすいですか?いかがでしょうか? ご意見ご感想貰えたらとっても嬉しいです。 -------------------------------------- モドル ---- |