それはただの結果に過ぎず
過ぎ去りし日にはもう戻れず だから自分は歩き続けるのだ もう二度と戻れぬ過去を振り返りもせず 朱(あけ)に染まった手を見れば思い出す 数々の過ぎ去りし刻 けれどそれに縛られようとは思わない 洗い流せるのだ 全ては イタみも罪もカナシみも 何もかも 全て洗い流し、けれど忘れず そして縛られず もう戻れない過去よりも 自分は強くなりたいと思う 思い出しても捕らわれないくらい…… |
「なんで」 何? 「なんで私ばかりこんな目にあうのよッ!」 聞こえないよ! 何を云っているの?! 「あんたなんて死ねばいい!!」 お母さん!! 「お…母さん…?」 苦しくて、無我夢中だった。 息ができなくて…このまま死んでしまうと……。 「だって…死にたくなかった…」 ただ死にたくなかっただけ。 生き延びたかっただけ。 苦しくて…それを回避しようともがいただけ。 決して。 決して。 「こんなことをしたかったわけじゃない!!」 母を殺したかったわけじゃない。 生まれた時からあった不思議な能力(ちから)。 別に欲しくもなかったもの。 自分のものなのに…自分の思い通りになんてなりはしない。 「コンナモノ…」 ただその程度の認識。 それが、ある日その瞬間に明確な「カタチ」を成した。 それでもそれは、いまだその時点では「コンナモノ」で。 それが譲れぬ「自分」になるとは思っていなかった。 そうなるのは…もう少し先。 「嫌いだってのは…知ってたんだ」 母が自分を嫌っているのは知っていた。 たくさんの痛み。 傷。 それだけがただ与えられたもの。 でもね。 それでも傍にいたかった。 「でも…お母さんの傍いたかった」 だってあなたしかいない。 見てくれるのも。 呼んでくれるのも。 投げ掛けられた言葉は痛くても。 触れてくるその手が与えるのは傷だけでも。 残るの傷痕ばかりでも。 「こんなこと…したかったんじゃない」 でも、哀しすぎて死んでしまいとは思わない。 それは決して思わない。 思えない。 今も確かに感じてる。 生きたいと願う心。 「すッげー痛ェのに…」 右の掌が痛い。 手の甲に穴が開いてしまっている。 血が流れて止まらない。 「もう…これじゃなんにも掴めねェじゃん……」 けれど諦めようという気持ちは湧いては来ない。 それは決して湧いては来ない。 ただ…。 一人になった気がした。 今度こそ本当に。 「どうしよ…これから」 呟く声はひどく寂しく聞こえ、けれど絶望的には決して聞こえなかった。 行く当てもやるべきこともやりたいことも。 何一つなかったけれど、それでも止まって終わるだろうという感じは微塵もしなかった。 ぼんやりとしていて、何もない虚空を見つめているようなその瞳。 けれど、それは何もかもを捨てた目ではなかった。 どこか遠く。 遥か彼方。 彼にしか見えないどこかを。何かを見つめている。 譲れぬ何かを譲らぬ為に、自分が何もかもを捨てるのはもう少し先。 譲れぬ何かが出来るのも。 けれど。 それはただ単に、自分で「自分」認めなければ、その存在の全てを受けれて赦さなければ、ただ自分は生きてはいけなかっただけ。 これがなければ…もう自分は自分ではないと。 それがあったから…今、自分はここに立っているのだと。 そう思える何かを。 この拳一つ。 自分だけで生きていく。 その為の享受。 そうして先に生きていく。 ただ…それだけなのかもしれない……。 |
別に何もかもが欲しいわけではなく 何もいらないわけでは決してなく どこかぼんやりと 遠くを眺める 彼にしか見えない そう それは…どこか遠く まるでやる気がないような そんな瞳で そんな表情で そんな…態度で…… |
|