ただそれだけでいい




















偶然か
運命か

キミと巡り会ったこと



































本当はどうでもいいことというのは結構ある。
どっちでもいいし、どうでもいい。

けれどそれと同じくらい。

絶対に譲れない気持ちもある。


キミにも。
僕にも。
誰にでも。

たとえそれが偶然だろうとも。
変えることできぬ運命だったとしても。

ボクとキミが出会ったこと。
僕のキミへの気持ち。


それらは絶対に譲れぬもの。


出会った経緯は問題ではなく、その先に生まれたすべてが譲れないもの。
今この時がどういう状況であろうとも変わらないそれは、きっと永遠に息づくとボクは確信している。
何も変わらない。
















「何をしている?」

 床に倒れ伏しているカズマに、彼はただ訊ねた。
 訊ねる彼――劉鳳の声音には特別な思いは何も無い。ただカズマに何をしているのか。それだけを純粋に訊ねているものだった。

 久しぶりに会った。
 いや…久しぶりでもなかったか。

 子供の頃からの顔見知り。
 何度となく出会い…身体を繋げるような関係になったのはいつの頃からだったか。
 もうそんなことすら考えなければ思い出せないほどに、自分にとっては馴染みのある――傍にいることの方が自然すぎるその存在。……否、もう自分の隣にいないことなど考えられない。

「てめぇらに捕まってごーもん受けて起き上がれずにいんだよ」

 みりゃわかんだろ。
 いちいちきくな。

 倒れたままでカズマは云った。
 その口から漏れる声はひどくくぐもっており、実にか細いものである。
 声を発するのも億劫であるということが窺がえた。

 劉鳳は視線を下方に向けるだけでカズマのその様子を見つめていた。顔を下に向けて…では決してない。
 暗闇の中、冷たい床の上に倒れるカズマを見つめ続けるその褐色の瞳はどこまでも冷めたものに感じられた。ひどく冷たく、なんの感慨も無い。

 彼が実際には何を思いどう感じているかなどというものは、現時点では彼自身くらいにしか分からないことだろう。
 だが、少なくとも表面的にはそう見えるのだ。

 劉鳳はゆっくりとその腰をかがめた。
 長く伸びたその腕をカズマに向けて伸ばし、傷だらけになったカズマの頬にその手で触れる。
 痛みが走ったのか、カズマがわずかにうめいて身体を揺らした。

「さっさと逃げれば良いものを」

「それが出来なくなるまで人のこと殴ってくれたのはてめぇだろうが」

 ついでに云うなら、カズマを捕まえたのも目の前にいる彼だ。

 さらりと語る劉鳳に、カズマは律儀にも言葉を返す。
 相変わらず声を発することすら辛いだろうに。

「ああ…そうだったな」

「そうだよ」

 カズマがそう云うと、その後はしばらくどちらも何も云わず。
 暗闇に静かな静寂が満ちる。
 拷問を受けた罪人と、それをやってのけた者。そんな関係の二人が作り出すには余りにも不自然過ぎるほどの、それはどこか穏やかささえ含んだ静寂であった。

 やがて劉鳳は溜息と共に言葉を発した。
 ひどく静かな声。
 気の知れた友人と、取り止めの無いやり取りをするかのような…そんな話し方だった。

「仕方がないだろう…。こうなった場合はあくまでも己に従う。そう決めたはずだ」

「だから別にてめぇに文句なんて云ってねぇだろが」

「そもそもお前が自分の今日の行動を俺に伝えていればこうはならなかったはずだが」

「急に入った仕事だったんだよ」

 カズマが云えば、劉鳳は半眼になり云った。

「……正直に云え」

「………面倒くさかったし……」

 随分な沈黙の後に、カズマが劉鳳から視線をそらしてぽつりと。呟くように答えれば、劉鳳は先程りもさらに大きな溜息を吐く。
 呆れて物も云えない。
 彼の表情が雄弁に物語っていた。

「お前らしいと云えなくも無いが…」

「いーだろ、別に。オレはオレ、お前はお前」

 ただそれだけなんだから。
 ずっと、そういう関係だけでいた。

「…そういえば…お前の名も知らなかったな……」

「オレもお前の名前しらねぇもん」

「名は?」

「………」

 劉鳳が訊ねた。
 カズマはしばらく考えるように黙ったままで。

 不意にその表情を笑みに崩して口を開く。

「オレがここから抜け出す時に教えてやるよ」

「それではそう簡単には聞けないということか」

「ンだと、コラ」

 劉鳳が云えば、今度はカズマが半眼で云った。
 殴り掛かる体力はさすがに無い。

「こんなとこすぐに抜け出してやるよ」

 だから覚悟してろ。

 カズマが倒れたままにそう云えば、劉鳳は面白そうに口の端を僅かに引き上げ―――心なしかその瞳にも微笑(わら)いの色が見える―――立ち上がると、最初とは違う……けれど最初から消えてはいない温もりをその瞳にたたえてカズマを見下ろす。
 それからその表情そのままの声音で云った。

「それは楽しみだ」

「ホザいてろよ」

 劉鳳は微笑を湛えたままカズマに背を向け去って行き、後にはカズマだけが残される。
 相変わらずのまま。
 床に倒れた痛ましい姿で。けれど決して諦めの色などカケラさえない瞳で。

 ………そーいえば。

(……あいつ…。人に名前訊く時は先に自分が名乗るのが礼儀じゃねーのか?)

 カズマはふと考える。
 彼が自分の名を知らないのと同様。自分も彼の名を知らない。

 ならば。
 まずはあちらの名を自分に刻み込んでから……。

「オレの名前を刻ませてやるとするか」

 そう云って、カズマは面白そうに口の端を引き上げて笑うのだった。

































それは偶然か必然か
そんなことはどうでもいい

ただボクらは出会い

そしてボクの気持ちは永遠

たとえどんな状況になろうと
どれだけの時間が流れようと


ただそれだけでいい




























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 話としてはカズマが劉鳳(HOLY)に初めて捕まった時です。
 最初と終わりの短文は一応ゆうひ的には劉鳳サイド的に書いたのですが…別にカズマサイドでみても二人の気持ちだとみてもらってもどちらでもいいのです(←なら書くな)

 この二人はいつどこで出会ってどういう過程をへた後なのか。
 それはゆうひが気乗りしたらいつか書くかも(爆)
 けっこう前に会ってそうなんだけど、お互いに名前も教えあってないんだよな〜。……いったいどういう関係なんだか(笑)

 ご意見ご感想頂けたら嬉しいです(ってかぜひ下さい/かなり切実)


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