ここのところ、HOLYはざわついていた。
理由は…というか原因はとある碧い髪に褐色の瞳の少年にある。
その人の名は劉鳳。
最近、彼は彼がたった一人執着を見せる唯一の愛しい人―――赤いくせっ毛に琥珀の瞳のカズマという名のその人を手に入れ、それまで誰にも見せたことのないほどの(周囲の女性全ての心を蕩けさせるような)微笑を振り撒いていた。
そんな彼が、ここ数日常に眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情でいるのだ。
不機嫌極まりない、イライラとしたオーラを隠そうともせずに放出し続ける彼に近付ける者はまずいない。……もしいるとすれば、それは極限られた者達だろう。
動き出したのはその極限られた僅かに入る二人の女性。
彼が幸せならそれで…!!
と、泣く泣く彼のことを諦めたその二人の女性が、この事態に今、動き出した。真相は、ただこの機会に愛しの彼を自分に惹き付けることが出来たら!という裏心ありまくりなき持ちで。
シェリス=アジャーニ。
桐生水守。
この両名である。
「劉鳳、どうしたの?」
「最近機嫌が悪いみたいだけど、なにかあったの?」
「・・・・・・」
「ネ、ネイティブアルターが未だに悪さを止めない…からかしら?」
「荒野の生活は今もとても酷いものらしいもの。優しいあなたが心を止むのはわかるわ」
「違う」
劉鳳は云った。
「カズマが最近ヤらせないんだ」
「「は?」」
「もう一週間もだ。一緒のベットで寝るのは許すのに、その先はいつもはぐらかす。無理にことを運ぼうとすれば二度と口を利かない、このまま姿を消すというし…。泣かれては無理強いなどできない(別にすればそれはそれで楽しいだろうが)」
二人は唖然とした。
劉鳳は今も尚ぶつぶつと一人で呟いている。
その目は余りにも真剣そのものだった。はっきり云って怖い。
「「カズマ(さん)!!」」
二人の女性に大声で怒鳴りつけられるように呼びとめられ、カズマはその鬼気迫る勢いにたじろいだ。
壁際に追い詰められ、冷汗が流れる。
「な、なんだよ・・・」
「劉鳳のことよ!」
「けちけちしないでやらせてやんなさいよ!」
「なっ・・・!」
カズマは顔を真っ赤にして、まるで酸欠の魚のように口をパクパクと開閉させた。あまりのことに云うべき言葉がみつからないようだ。
「あんたは劉鳳を幸せにしなきゃならないのよ!」
「私達を差し置いて劉鳳に選ばれたんですからね!」
「なっ…勝手なこと云うな!あいつは一度許したら朝まで休みなしでやり続けんだぞ!やめろって云ってもきかねぇし…。次の日は仕事(任務)だってあるし…こっちの身体がもたねぇんだよ!!」
羞恥の為か怒りの為か―――おそらくは両方だろう―――顔を真っ赤にして怒鳴り散らすカズマに、しかし負けじと延々好きな男を取られたやっかみと嫉妬をまじえて云い返す二人の女性。
廊下で繰り広げられる聞くに耐えない会話。
笑いの種にもなりそうではあるが、その鬼気迫る様子に笑えない。人々はその廊下を本能的に避けて通っていた。
そこへ劉鳳が通りかかり…というよりは意図してやって来たのだろう。
「シェリス…。桐生さん…」
半眼で呟く声は低く怒りを含んでいるように聞こえる。
「「え?」」
突然現れた劉鳳に、まったく気がつかなったシェリスと水守は驚いて振り返った。
劉鳳は二人の様子など気にも止めずに、無言でカズマの腕を引き、彼を自分の方へと引き寄せてその身体を腕の中に収める。
ちなみにカズマはその一蓮動作の素早さに思考がついてゆかずにきょとんとしている。
「俺のカズマに必要以上に近付かないでもらいたい」
そう云い捨て、あまりのことに口も利けない女性二人を無視してカズマをお姫様抱っこよろしく抱き上げるとすたすたと元来た道を戻っていく。
カズマは先の劉鳳の言葉にそうとうの衝撃を受けたらしい。そこから立ち直れていない為だろう。いまだ呆然としたまま劉鳳のされるがままになっている。
後に残された女性二人はただ佇むことしかできなかったという。
彼の行く先にあるのは自分の記憶が間違っていなければ彼の自室。
「いいのよ…私はそれでも」
だって、彼が幸せならもう……。
「でも、女性としてどうかって訊かれたら…」
もはや溜息も出ず。
これからの日々を過ごしていくのだろうか。
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