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キミに会えると嬉しいし |
その日もいつもと同じ、よく晴れた日のことだった。 碧い髪に褐色の瞳の少年――劉鳳は、今日も今日とて愛しい恋人と待ち合わせ。相手を待たせまいと常に待ち合わせ時間よりも早くやって来る劉鳳のお相手は、ちょっと…かなり時間や約束にはルーズなあの子。 「お〜い、劉鳳〜」 聞き慣れた…というよりは今か今かと待ち侘びていた声が聞こえ、劉鳳は嬉しさに目を輝かせて――傍目には無表情であるが――腕時計から視線を上げた。 視線を上げたそこにいたのはくせのある赤茶の髪に亜麻色の瞳の少女カズマ。手を振りながら笑顔で劉鳳の元へ駆けて来る。 時間は待ち合わせより十分は裕に過ぎていた。 「悪かったな、待たせて」 カズマが上目遣いで云えば、劉鳳はカズマにしか見せない微笑で「そんなに待っていない」と答えた。 ――ちなみに。劉鳳は待ち合わせ時間の二十分前には来ていた。なぜならカズマに会いたくて家でじっとなんてしていられなかったから。 「そっか?んならいいやv」 にへら。とカズマは笑い、劉鳳の手を引いて歩き出した。 行き先は特に決まってはいない。劉鳳はいろいろ考えているらしいが、カズマはその時の気分に合わせ、思ったままに足を向けるのだ。 暫らくウィンドウショッピングを楽しんでいた劉鳳とカズマは、ふと見知った蒼いショートの髪を見止めてて足を止めた。 何やら数名の男と云い争っているようにみえるが、数メートル離れた二人からは何を云い争っているかはもちろん、正確な男の人数までも分かりようもない。人ごみの合間に見え隠れする蒼い髪を頼りに、二人はそちらへ歩みを向けた。 「いいかげんに離しなさいよ!!」 響く高い声には怒気が含まれている。 蒼い髪の少女の名前はシェリス。劉鳳の妹だった。 「暇じゃないって何度も云ってるでしょ!」 掴まれた腕を振り払いながら怒鳴りつけるシェリスの様子から察するに、どうやら彼女を取り囲む男達に俗に云うナンパをされているという状況らしい。 嫌がる少女一人に大の男が数人がかりで…とはなんとも情けない気もするが、ナンパとはまぁそういうものなのかもしれない。 「もぅ!いいかげんにしないと…?」 シェリスが痺れを切らした頃だった。 不意に背後に何者かが現れた気配に不思議に思って言葉を止めて降り返ると、そこには愛しい恋人とデート中の兄の姿。その隣りには兄の恋人で自分の大親友の少女、カズマがいた。 「お兄ちゃん!カズマ!!」 「よぉ、シェリス。大丈夫か〜」 シェリスが驚きを隠そうともせずに二人を呼ぶと、カズマは劉鳳の背後から顔を出すようにして微笑いながら片手を挙げて応えた。 「貴様ら…俺の妹に何をしようとしていた……」 カズマの暢気さとは逆に、劉鳳の方は今にも切れんばかりに怒りを漂わせている。声には抑揚がなく褐色の瞳は怒りに細められている。 これで怒っていないというのが嘘であり、彼の怒りを悟ることのできない者はあるいはそうとうの強者(つわもの)かもしれない。 「あ〜あ〜。劉鳳の奴怒りまくってやがるぜ。これだからシスコンは…」 「そこがお兄ちゃんのいいところなのよvv」 劉鳳の後ろで呆れたように云うのはカズマ。先ほどまでの怒りや苛立ちはどこ吹く風でハートマークを飛ばして嬉しそうに微笑んでいるのはシェリスである。 シェリスは兄である劉鳳を絶対的に思っており、これまでも劉鳳に近付こうとしてきた女性どもを影で根絶やしにしてきたという噂を持つ(噂かどうかは…)。 そんな劉鳳の恋人であるカズマとシェリスが大親友とはこれいかに?という気もするが、劉鳳の幸せを第一に思うシェリスにとって、劉鳳の求めてやまない女性であり彼の幸せであるカズマは、彼女にとっても大切な存在なのだ。 劉鳳の大切な者=自分の大切な者。の図式がシェリスの中では極自然に成り立っていた。 カズマの方がシェリスよりも一つ年上であるにもかかわらず、カズマの仕草は実年齢よりもずっと彼女を幼く感じさせる。シェリスにとって、カズマは親友兼妹のような存在でもあった。劉鳳に他の女性を近付けさせないという共通の目的を持つ同盟者でもあるが。 実は幼い頃より知り合いだったこの三人。 幼い頃は何かと突っかかってくる劉鳳(←好きな子に素直になれないお年頃/爆)に、単純なお子様であるカズマは怒り爆発「この世で一番嫌いなのは劉鳳だー!!」と公言して憚らなかった。劉鳳にべったりのシェリスにも、シェリスに過保護な劉鳳にもいつもイライライライラしていたものだ。 それがこんな穏やかな関係になったのはつい一、二年前。 がさつで男っぽいカズマはとかくかわいいのだ。いろんな男供が群がってくるが、カズマはそれを全て喧嘩をふっかけに来たものだと勘違い――なぜならカズマは自分のかわいさをまるで分かっていない。そしてその原因は何を隠そう幼き日の劉鳳&シェリス兄妹。 ことごとく叩き潰したのである。 そんなある日。 強硬手段に出た一部の男から劉鳳がカズマを護ったのだ!(なんかもうベタベタな設定だが気にしない!) それからはもうベタ以上のベタ設定。 劉鳳はカズマに思いを(ようやく)告げることができ、カズマはそれを知った途端に今までのイライラの理由が劉鳳に認めてもらえない悔しさや愛しさだったと悟り。 晴れて二人はラヴラブに。 ちなみに。 カズマを襲うように男供を煽り、カズマの危機に劉鳳をさりげなく鉢合わせさせた人物がいるらしい。…が、事の真偽は定かではない。 はてさて。 カズマとシェリスが女同士の話に花を咲かせている間に、劉鳳の方は片付いたようである。 いとおしい恋人と目に入れても痛くないかわいい妹の待つ場所までにこやかな微笑で戻ってくる。 「カズマ、待たせてすまなかったな。シェリス、無事だったか?」 「別にかまわねぇぜ」 「大丈夫よvお兄ちゃんvv」 シェリスは笑顔で返しながら、胸中で苦笑した。 (やっぱり先に声を掛けるのはカズマになのね) 少し悔しいがこればかりは仕方がない。 大好きな二人の仲が円満なのはシェリスにとっても喜ばしいことであるし、彼女には彼女だけにしか居ることの許されない――カズマでさえ手に入れることの出来ない――特別な位置を手にしている。 「でもごめんね。二人とも。私のせいでせっかくのデートに水差しちゃったわよね」 「気にすることじゃない。お前が無事で良かった」 カズマも何も気にしていないようだ。言葉に出して何を云うわけでもないが、その身に纏っている雰囲気が劉鳳の言葉に同意の意を示している。 「っつーか、せっかくだしシェリスも一緒にどっか行こーぜ」 カズマが笑顔でさらりと一言。 にこりと笑って云うその様子は年齢よりもずっと幼く見え――言葉では言い表せないほど可愛らしいのだが、その言葉に劉鳳は瞬時に固まり、シェルスの方は今度は胸中ではなく苦笑する。 (お兄ちゃんも大変ね) もともと恋愛事にはにぶいカズマである。両思いになれただけでも奇跡に近いのだ。 シェリスはすぐ目の前で固まっている劉鳳に同情した。……さすがに劉鳳はショックを隠せないでいる。 (デートに第三者を誘うのはねぇ……) ここは自分が潔く身を引くしかないだろう。 シェリスは苦笑を胸中に仕舞い込み、明るい笑顔をカズマに向けた。 「一緒に行きたいのは山々だけど…残念ながらこれから予定が入ってるのよね。私」 「そうなのか?」 「そッ。だから二人で思いっきり!楽しんできてちょうだい♪」 二人で。とは云いつつも、シェリスの台詞はカズマと劉鳳の二人にというよりも、劉鳳一人にである。 劉鳳がシェリスの意図を感じて取り、照れながらもほっと安堵の息をつき胸中で感謝をしていると。 「ふ〜ん。つまんねぇの…。ま、いっか」 今度遊びに行けばいいんだし。 というカズマの追い討ち再び。 劉鳳は思いっきり頭を凭れさせて落ち込み、シェリスはもはや額に手を当てて溜息を着くしかない。 もしやカズマは未だに「恋人とのデート」というものをはっきりと理解してはいないのではないだろうか。 そんな懸念が浮かんできても誰が責められようか。 (やっぱり私がどうにかしないと!) シェリスはこの不器用で要領の悪い兄を幸せにするため、決意を新たに強く誓うのだった。 |
だってキミに逢えるだけで幸せだし 一緒に居られるなんて夢のようだし これ以上の何かをキミに望むのは やっぱりいけない気がするんだ 純粋なキミが好きだから でも もう少し大人になって欲しい… それは我侭? |
----* こめんと *------------------------------------------------------------------- 北条芳乃様に捧げます。BBS特設アンケートにてリクエスト頂きました。 リクエスト内容は「スクライド。パラレル設定で劉鳳×女の子カズマのお話。劉鳳とシェリスは兄妹(兄べったりな妹&ちょっとシスコン入った兄)劉鳳の恋人のカズマとシェリスは大親友(二人は劉鳳の気づかないところで自分達以外の女が劉鳳に近づかないよう協力してる)明るい話」でした。 も、ももももももももも……桃?!ではなくて。申し訳ありません!! ダメダメです。リクエストに何一つ応えられてないですね。せっかくリク頂いたのに…。 ウウ…スランプ?(泣) はじめ幼稚園ものとか書きたくなったり(汗)(←好きな子に素直になれなくて意地悪しちゃう劉鳳にそれに素直に反応してムキになる女の子カズマv) なにはともあれリクエスト本当ありがとうございました!! リクに応えられていない駄文ですが、貰って頂けた光栄です。煮るなる焼くになり好きにしちゃって下さい;; -------------------------------------------------------------------------* もどる *---- |