+ irritat-- +




















好きと大好きは微妙に違ってて

大好きと愛してるは全然違うから






























 劉鳳とシェリスは大の仲良し兄妹だ。
 そしてそのお隣に住んでいる女の子のカズマとは幼馴染の関係にある。
 今日はそんな三人のお話。











 それはよく晴れた日。吸い込まれそうな青が広がるその空。
 そんな日は、いつも思い出す。
 ふとした瞬間のような…一瞬の時。

 空を見上げると…思い出す。

 よく晴れた空。
 吸い込まれそうな蒼。
 その霄の下。子供たちが元気良く遊び回っていた。

「お兄ちゃんv」

 嬉しそうに兄の名を呼ぶのはショートの青い髪が良く似合う愛らしい少女。シェリスだった。
 その顔は満面の笑み。シェリスが兄を心から慕っていることがはっきりと窺がえるものだ。

「どうしたんだ?シェリス」

 兄の劉鳳は妹の呼び声に、やはりこちらも優しい笑顔で返す。
 遠目から見ればそれはたいへん仲の良い兄妹の、実に微笑ましい心和む光景である。

 読んでいた本(絵本?/笑)から顔を上げ、劉鳳はシェリスに視線を向ける。
 普段から外で遊ぶことよりも、室内で静かに過ごすことの方が好きな男の子である劉鳳にくっついて、シェリスもたいていは室内で静かに、読書やお人形遊びなどといった女の子特有の室内遊びに興じていたのだった。

 歳が違うので、当然幼稚園での二人の教室は違う。
 年長組の劉鳳と年少組のシェリス。幼稚園だろうとも、クラスが違えばあまり一緒に遊ぶことはできない。
 クラスの垣根をあまりに気にしなくても良い休み時間に、黙って教室で本を読む劉鳳の隣りに、いつも決まって妹のシェリスがやってくる。
 それはもはや決まりきった光景になっていたのだった。

 ちなみに。
 シェリスは劉鳳と共にいる時はなぜか他の女の子の友達とあまり遊んではいなかった(クラスで過ごさなければならない時間はもちろん女の子の友達と遊ぶのだが)

「あのね、昨日お父さんに新しいお靴、買ってもらったでしょ?だから、それ履いてお外で遊びたいの」

 シェリスは新しい靴を少しでも長い時間、履きたくて仕方がなかった。
 新しく自分の手に入れたものを、友達に見てもらいたいという気持ちも働いている。
 大好きで大切な妹の満面の笑みでのお願い事を、劉鳳が断るわけが無い。というか、彼にそんな事は絶対にできない。
 誰もが認める事実だった。
 なので劉鳳も優しい笑みで返す。

「ああいいよ。それじゃあ外に遊びに行こうか」

 劉鳳は云い、きちんと本を片付けてからシェリスと共に外に出ていく。
 幼稚園の園内のグラウンドには、まるでアスレチックかのように様々な遊び場がある。
 それでも元気たっぷりの園児達には足りないらしい。順番待ちや遊び場の取り合いは日常茶飯事。それで喧嘩になっても誰も心配しない。…さすがに仲裁には入るが。

「シェリスはどこで遊びたい?」

 劉鳳が訊き、シェリスはう〜ん…と、小首を傾げて逡巡した。
 砂場ではすぐに靴が汚れてしまうし、鉄棒は…今日はスカートなので却下だ。と、いろいろと考えて、シェリスはふと、いつも遊んでみたいと思っていた最近新しくできたばかりのものを思い出した。
 シェリスはどちらかというと活発な少女である。それがいつも室内遊びに興じているのは、一重に兄である劉鳳と共に少しでも長く居たいが為だった。

「えっとね、ロープーウェイがいい。あれね、なんか新しくできたのでね、とっても楽しいんだって」

「じゃぁ、そこに行こうか」

 身を乗り出して語るシェリスの手をとって、二人は仲良くお手てつないで歩き出す。
 劉鳳が自ら手を差し出すなど、妹であるシェリスくらいにのみだ。シェリスは妹として与えられるその特権に、心弾ませながら歩くのだった。スキップでもしてしまうそうになるのを抑えながら……。

 シェリス曰くロープーウェイ。
 それは、丸い球体に綱が一本通され、それがさらに吊るされている。というものだった。子供はその球体の上に乗り、吊るされた綱に掴まって、まるでロープーウェイが空中を移動するかのように、宙を滑りぬけるように移動する。ちなみに、球体は地上から120センチメートル――背の低い子供が背伸びをして球体に届くか届かないか位――の位置に吊るされていた。
 なので球体が移動中にそこから飛び降りる…などといった、実に大人達を冷や冷やさせてくれる子も中にはいたりする。
 そんな子供代表。が、この幼稚園での人気者の一人である。

 劉鳳とシェリスが子供達命名「ロープーウェイ」につくと、やはり人だかり。順番を待つ子供達の列と、ロープーウェイに乗る子の様子を見る子達の群れで溢れていた。
 ちなみに、ロープーウェイは全部で三つある。できたばかりなので、その人気はひとしおだ。

「うわぁ」

 二人が列の最後尾に並ぶと、列の前方から歓声とも驚嘆ともとれる声が響いてきた。
 二人を含む列の後方にいる子供たちが、不思議そうにその原因を探ろうと、首を伸ばす。

 列の前方。
 ロープーウェイに集(たか)る人々の中心にいたのは、赤いくせっ毛に琥珀色の瞳の少女だった。
 名をカズマ。年中組。
 キュロットにパーカーという、女の子らしい可愛さを持ちつつも動きやすそうな、所々泥に汚れた服装で、地面に倒れた少年の前に仁王立ちに腰に手をあてた状態で、その少年を鋭い視線で睨みつけ、見下ろしていた。

「カズマ…!」

 その様子を見つけた劉鳳は、あわてて人の群れを掻き分けて中心へと入ってくる。
 呼びかけられて、カズマも劉鳳の存在に気が付いたようだ。そちらに視線を向けた。

「なんだ、劉鳳じゃんか。いつからいたんだよ」

 普段は教室で本ばっかり読んでるくせに珍しい。
 憮然とした表情がそう語っていた。
 少し時間を開けてシェリスが顔を見せると、カズマの表情はますます不機嫌なものになる。
 カズマは幼稚園入園以前からの顔馴染で幼馴染であるこの二人があまり好きではなかった。というか、見ていてイライラするのだ。

「さっきだ。…で?いったいなんの騒ぎなんだ?」

「別に。いつも小うるさい生意気な奴をぶっとばしてやっただけだよ」

「……」

 カズマのその台詞に、劉鳳は顔を顰めた。
 カズマはいつも暴力でことを片付けようとする。そこが劉鳳には気に入らなかった。
 自分一人で何もかもを片付けようとする。

「乱暴者の野蛮人ね」

 こんながさつな女の子、他には居ないわよ。

 隣りから響く高い声はシェリスのものだ。
 劉鳳の少し後ろから、ちょこんと顔を覗かせてそういうシェリスの瞳は、カズマに敵意剥き出しである。
 カズマが二人を苦手と思い気に入っていないように、劉鳳とシェリスの二人もまた、カズマに対してはあまり良い思いを抱いてはいない。
 生まれた時から顔を合わせていたといっても過言ではないこの三人。
 いったいいつから、会えば互いに顔を顰めてしまうようになったのか。別にそんなに長く生きてるわけでもないから、そんなに昔のことではないはずなのに…。
 どうしてだろうか。思い出せない。
 しかし。と、カズマは思う。

(先に俺を嫌ったのは、ぜってーあいつらだ)

 急に態度が素っ気無く、冷たいものになったのは間違いなく劉鳳の方だと。そしてそれにシェリスがついていった。
 カズマはそれだけは譲れない事実だと固く胸の中で反芻する。

(俺はぜってー悪くねぇ!)

「だいたいなんでもかんでも暴力で片付けようとするなんて最低なんだから!頭悪いわねー」

「うるせえよ!強い奴が勝つ!これが世の中の常識なんだよ」

「それじゃ動物でしょ!人間なんだからもっと頭使いなさいよ!」

「人間だって動物だろうが!」

 カズマとシェリスの女の闘い(?)が繰り広げられる。
 三人の中で一番年下のシェリスが、もっとも言葉のボキャブラリーが豊富であった(劉鳳は言葉を知っていても自然と使えない)
 劉鳳は言葉を挟むことができずに、言い争う二人の様子を交互に見合う。
 ちなみに。他にいる周りの子供達も皆そうである。

「だー!!もういい!!オレ戻る!!」

 とうとうカズマは言い負かされたらしい。
 言い争いでは初めから勝負は見えていたのだが…。カズマは癇癪を起こしたかのように乱暴に吐き捨てると、そのまま校舎の方へと駆けて行ってしまった。

「いー、だ!」

 カズマの後姿に、シェリスは威嚇めいた行動を取る。
 どれほどませていてもやはり子供。
 しかし、シェリスが剥きになったのはそれだけではなかった。シェリスはカズマが気に入らなかったのだ。
 自分の大好きな兄、劉鳳は普段は妹の自分をいつも気にかけてくれる。しかしそんな彼がカズマの前だと自分の存在を忘れそうになるのだ。いつも何かと劉鳳に気に掛けられるカズマをシェリスは嫌っていた。
 しかも、兄の劉鳳はカズマを嫌っている様子。兄が嫌いなものは自分も嫌いだし、兄の敵は自分の敵なのである。

「?お兄ちゃん、どうしたの?」

 カズマの後姿を見送り、意気揚々と兄を振り返えれば、劉鳳はどこか傷ついたような思い詰めたような表情でその後姿を見送っている。
 いつもいがみ合っているのに、なぜそんな辛そうな表情をするのかがわからなくて、シェリスは心配そうに劉鳳に声を掛けた。

「あ…いや、なんでもない」

 シェリスに声を掛けられ、ようやく我に返ったとでもいうかのように慌てて返した。
 それから話しを反らすかのように、劉鳳はその場にいる今まで完全に無視されていた少年――地面に倒れてカズマに睨まれていた少年だ。に、声を掛けた。

「あ、あの…いったい何があったんですか?」

 できるだけ相手を刺激しないような、穏やかな口調を使う。もともと他人に対しての言葉遣いは厳しく躾られているから、ほとんどもう無意識でだった。

「知るかよ!俺がロープ―ウェイに乗ってたら、あいつがいきなり俺のこと突き落としたんだっ!」

「ちがうでしょっ!」

 少年の説明に劉鳳が顔を顰めかけた時だった。
 背後からきっぱりとした否定の声が投げ掛けらる。
 視線をそちらに向けると、そこには髪の長い潔癖そうな…勝気そうな女の子と、その子に隠れるようにしてそれとはまったく正反対な、おとなしそうな女の子が並んで立っていた。

「どういうことです?」

「そこの子が、この子の順番だったのにムリヤリ割り込んできたのよ。それで、カズマちゃん怒ってその子に順番まもるように云ったの」

「あ、あと…私に謝るようにって……」

「それでも無視して、乗り終わったのに順番譲ろうとしないから、カズマちゃんロープーウェイ止めようとしたんだよっ」

 少女たちにの話しによれば、そこでその少年は慌ててバランスを崩して自ら落ちたらしい。

「なによそれ!じゃぁ、あんたが全面的に悪いんじゃない!ねぇ。お兄ちゃ…ん?」

 シェリスが少女達の話を聞いて憤慨したように兄に同意を求めようと振り返ると…そこにはもう劉鳳の姿は無かった。
 人ごみの中にわずかに見え隠れする兄の碧い髪を慌てて追いかけようとして人ごみの中に入っていくが、所詮そこは年少組所属の一番の年下。
 いまだざわつくまとまりのない子供達の群れを掻き分ける力は無かった。

「お兄ちゃん!!」

 辺りでは少年を責める声やそれを庇う少年の仲間の声が入り乱れ。何が起こったのかいまいち訳の分からない者達の疑問の声とそれに答える声が交じり合い。シェリスの声は高く青い空に消えていったのだった。
 ざわつきを聞き付け幼稚園の先生が来るのは、もう少し先である。

















「カズマ!!」

 突然背後からから聞こえてきた自分を呼ぶ声に、カズマは不機嫌さを隠しもせずに――むしろ少々大げさに見えるくらいに現して振り返った。

「なんだよ…劉鳳……」

 聞き慣れた声は、今は不快感しかもたらさない。
 どうせまた自分に投げ掛けられるのは罵詈雑言。大人達の押し付けとまったく同じ説教なのだと思う。
 いつからこうなったのだろうか。
 昔は…もう少し前は……。お互いに、もっと笑っていたはずなのに。

「あ、いや。その…悪かったな」

「あ?なにがだよ」

「さっきの…理由も知らなかったから」

「てめぇは自身は何も云ってねェじゃん」

「でも……」

「うぜぇんだよ!」

 劉鳳に最後まで言葉を紡がせずにカズマは怒鳴る。
 彼は自分が理由も知らずに暴力は良くないと思ったこと。それを妹のシェリスが責めたことを謝りに来たのだろう。
 そう思ったからカズマは怒鳴った。
 彼は何も悪くなかったから。

「いつもいつも、言葉遣いが悪いとか女だったらもっと大人しくしろとか!そんなのてめぇに云われなくても聞かされてるし分かってるんだ!」

 それでも自分はそれを直そうなんて思わない。
 あらためようとも思わない。
 暴力はいけないと思っても、自分が一度起こした行動を悔いたりしない。
 自分がなんでも知ってて、自分がかならず正しいとは決して思っていないけど、それでも自分を偽ることだけは、裏切ることだけは絶対にしない。

「てめぇはオレに何もしてないんだから誤ったってなんにもかわらねぇんだよ!」

 というか、カズマには劉鳳に謝ってもらう理由がない。
 カズマの行動を聞き顔を顰めたのはその真実を知らない時だし、どちらにせよ少年を地面に落とすに至るような行動をしたのは自分で、それが危険な行為であった事はカズマとて理解しているのだ。
 理由を聞かずにカズマに食って掛かったのは劉鳳でなくその妹のシェリスである。

「でも…シェリスは俺の妹だし……」

「……」

 劉鳳のその言葉に、カズマはなぜだか分からないが泣きたくなった。
 胸が苦しくなって、もう何も言葉が出てこなくなった。云いたいことはたくさん合ったのに、何を云って良いのか言葉がみつからなかった。
 その場にいることさえ苦しくなって、だからまた逃げるように背を向けて掛けて去るしかなくて。
 その行為にも、また涙が出そうだった。
 黙ってその場を走り去りながら、劉鳳が自分を追いかけてこないことを感じながら。
 悔しさなのか。
 涙が零れそうになるのを必死に堪えていた。

 ただ、認めてもらいたいだけなのに。
 対等でいたい。
 理由もわからず離れらるのはいやだから。



 ねぇ。
 どうして、急に私によそよそしくなったの?



 シェリスが怪我をした。
 自分も劉鳳もとても心配して、シェリスはうるさいくらい泣いていて。
 その頃は、まだ一緒だった。
 いつからか、劉鳳はシェリスが泣かないようにしつこいくらい気を使うようになって。
 それが、自分にはどうしようもないくらい苛立たしかった。
 どうしてだろう?

 もう、あんなに泣かないのに。
 それでも、自分は心配してるのに。
 でも、一人じゃ何も出来ない奴を見るとイライラしてるのはいつものこと。
 彼だけに、ほんの少しの胸の痛みがある。

 見えない壁が、自分を外に弾き返す。
 理由の分からないその態度が苦しくて、ただがむしゃらになる自分がいた。
 大きな声を出して、必死に背伸びして。強くなって。
 それで、もう無視もできなくする。

 でも、返る答えはいつも求めていたものではないから。
 ただ、また同じ目線で笑い合いたいだけなのに。
 男も女もなくて。
 同じところに立って、一緒に笑ったり怒ったり。騒いだり。時は喧嘩もして。

 悔しくて、泪が零れそうになるほどに、胸が苦しかった。












 急に押し黙り走り去ってしまったカズマを、劉鳳はただ黙って見送ることしかできなかった。
 その一瞬前に見せたカズマのなんとも云えぬほどの苦しそうなその表情に、呼び止める声さえ出てこなかった。今にも泣き出しそうなその表情に、身体も思考も硬直して、何も行動が起こせ名かなった。

 劉鳳はそんな自分に憤り、かたく握り拳を作る。
 唇を噛み締めて拳を握り締めてみても、やはり動くことが出来ない自分に嫌気がさした。

 いったいいつからだったろう。
 気が付いたら、傍にいることが気恥ずかしくて…。
 つかず離れず傍にいたいと思うのに。ずっと一緒に居て、隣で笑っていて欲しいと思うのに。

 出る言葉も態度も。
 それとはまったく逆のことばかり。

 気が付いたら目が離せなくて、いつもその姿を追いかけていた。
 その姿に、その表情の一つ一つに、自分の心が驚くほどうろたえてもう目が離せなくなっていて。不快ではないのに苦しいと感じるその思い。
 理由がわからなくて、イライラしている。

 話し掛けられると嬉しいのに、恥ずかしくてつい素っ気無い態度をとってしまう。
 その度に激しい後悔に襲われて…。
 この気持ちはなんであろうか。
 いつまでも続く悪循環。

 一言声を掛けれたのなら。

 彼女は、戻ってきてくれただろうか。



 そういえば。
 彼女が、最後に自分に笑みを向けたのは、どれくらい前の事だったろう。



 他の誰かにはいつも向けられている彼女の笑みを見る度に。
 その笑みが自分以外の誰かのものだと自覚する度に。
 心が苦しく締め付けられる。
 その笑顔は見る度に美しくなるから・……。

 悔しくて、ただ唇を噛み締めた。
 握り込んだ拳から、いっそ血でも出てしまえばいいのに。
















 それからカズマや少年は先生に呼ばれて厳重注意を受けて。
 劉鳳、カズマ、シェリスの三人の関係はしばらくはこのまま。
 また、三人で一緒に笑えるようになるのは…友達から少し脱したとき。

 その日の帰り。
 家に着いて、いつものように部屋で二人仲良く遊んでいたときだった。
 相変わらず本を読んでいる兄に、シェリスは一言呟いた。

「ねぇ、お兄ちゃん?」

 ―――本当に、自分の気持ちが分からないの?

 劉鳳は、ただ不思議そうに妹を見つめるだけだった。
 その言葉に気が付くのは、もうすぐのこと。
 そこから彼の本当の苦難は始まる。

















 こんな青い空の日は思い出す。
 無邪気に遊んだあの頃のことを。
 自分の理解できない感情に、胸を苦しませていたことを。

 そう、それはこんな風に。澄んだ青い空の日だった。
 吸い込まれそうな青空の下。
 楽しそうにお弁当を広げているのは、三人。
 学校の屋上に響く楽しそうな笑い声。

「そういや〜あったよな〜……そんなこと」

「私はあのとき、ああ、お兄いちゃん、本当はカズマのことが好きなんだな〜って悟ったのよ」

「……シェリス…それは……」

 昔話に花を咲かせ、カズマはお弁当を口に運びながらぼんやりと呟き、シェリスはどこか神妙そうな態度で深く頷いて見せる。そんな妹に、劉鳳は苦い汗を流しながら視線を反らした。
 あまりにも恥ずかしい過去の汚点を暴露されているようで、なんとも居心地が悪かった。

「やっぱりあれよねv好き子には意地悪しちゃうvvっていうやつ☆」

 お兄ちゃんかわいい〜vv

「される方はたまったもんじゃねぇけどな」

「アハハ、それもそうよね〜」

 矛盾した態度はなぜ起こるのか。
 二人の(自分にはあまりに恥ずかしい)話しに耳を塞ぐべく、劉鳳は黙々と食事をしながら別のことに思考を巡らせ、それに沈み込んでいこうとする。
 しかし、それは他ならぬ愛しい二人に阻止される。

「な〜に、無視しようとしてんだよ、劉鳳」

 過去の汚点ともきちんと向き合え。
 と、ばかりに劉鳳の首に腕を回して抱き着いてきたのはカズマだ。
 突然のことに、劉鳳は喉を詰まらせかける。
 文句を云おうと口を開きかければ、赤いくせっ毛からくるふわりとした暖かな香りが鼻腔をくすぐり、その琥珀の瞳に射抜かれて、まるであの時のように自分の全てが硬直してしまう。
 まるで電気が身体中を走ったようだった。

「お兄ちゃんっ。ま〜た、カズマに見惚れてるの?」

 相変わらずね。
 からかうように劉鳳を覗き込んで来たのは、いわずもがな。シェリスである。
 くすくすと楽しそうに笑うその様子に、劉鳳はとっさに頬を朱めらせ、カズマはそんな劉鳳をさらにからかい笑う。
 劉鳳は苦そうに顔を顰めて押し黙った。

「ったく、相変わらずガキだよな。お前って」

「どういう意味だ?カズマ」

 不貞腐れたように押し黙ってしまった劉鳳に、カズマは呆れたように云った。
 劉鳳が僅かにカズマを睨みつければ、カズマは隠そうともせずに溜息をつく。
 いつだって、カズマは自分の感情を隠したりなどしない。

「不貞腐れてんなよな。オレは、ちゃんとおまえのこと愛してるんだし☆」

「あら、私だってお兄ちゃんのこと大好きよ」

 カズマとシェリスが云えば、

「俺もだ……」

 劉鳳も嬉しそうにそう云うのだった。
 愛してる人。
 大好きな人。
 大切な人。

 いつまでも、一緒にいたい人。



 三人はいつだって笑っていて。
 空は、相変わらず青く、澄んでいた。

































大好きと愛してるは全然違うから

でも、一緒にいたい気持ちは変わらない


大切な

掛け替えなのない、あなただから

私はいつだって――



























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こめんと *-----------------------------------------------------------------------



 大変遅くなりました!
 BBS特設アンケートにてリクしていただきました、北条芳乃様に捧げます。
 リクエストは「スクライドで前回リクの続き。幼稚園エピソード。カズマがイライラしたというシェリスに過保護な劉鳳。最後は現在の三人(できれば学園内)に戻って「そんなこともあったよな〜」って感じてシェリスとカズマの二人がかりで劉鳳をからかっちゃう」でした。
 ぜんっぜん!リクエストに応えられていません。にもかかわらず無駄に長い…。
 しかも書き上げるのがリク頂いてからもの凄く遅くなってしまって…本当に申し訳ないです。

 もっと幼稚園児らしく?可愛く書けたら良かったのですが…。
 シェリスに過保護な劉鳳。……できてますでしょうか?
 もう少し日常風景とか入れたりした方が良かったのでしょうか?話しもなんか飛び飛びな感じで…(汗)
 壁紙は初めもっと明るかったのですが、文字が見にくいので少し明度を抑えてみました。いかがでしょう?まだ読みにくかったですか?そのうち直すかもです(爆)
 タイトルについてはあまり深く突っ込まないで頂けると嬉しいです(滝汗)

 こんなものでも受け取っていただけたら光栄です。本当に申し訳ありませんでした。
 そしてリクエストしてくださったこと、ありがとうございました!心より感謝申し上げます。



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