+ 名前 +
















自分が誰とも知れないけれど
どこで生まれて誰から生まれたなんて知らないけれど

生きていくことを祝福してくれる人も
赦してくれる人もなく

けれど自分は生きている

何もないけれど確かに生きていて
そしてそれを確かに感じるのは

自分に

こんな自分に
こんな何もない自分にも

それでも名前があったからかもしれない


名前


誰がつけたとも
本当に自分の名前なのかもわからないけれど

これがあったから、自分は自分の存在を
確かに感じられることができたのだと
そう…思う……。

それは




存在の証






























 その日はよく晴れていた。むしろ晴れ過ぎだ。眩暈がするほどに…そらが、蒼い。

 カズマはぼんやりと空を眺めていた。
 琥珀の瞳は、もう片方しか開かず。視界がわずかに狭くなるが、それにももう馴れてしまった。今ではもう気にもならない。
 否…はじめから気になどしていなかったのか。

 自分の身体には、酷く無頓着だった。

 痛みが身体中を走り、だからどうだとも思わなかった。
 痛みは痛み。
 ただそれだけでしかない。

 痛いのは嫌だけど…それでも生きている証にも思えた。

 そんな風に思った時が、遠く感じた日があった。
 今はもうそれもない。

 戻るのは楽だった。
 きっと迎え入れてくれるだろう。
 けれどそれを赦さない自分がいた。

 護ると決めたけれど。
 帰る気はなかった。











 その日はよく晴れていた。
 澄んだ空は蒼く。蒼く。蒼く。
 そこまでも蒼く、そして高い。

 高く、どこまでも透き通るそらを眺めながら、まるで自分のその身がその霄に溶け込んでしまったかのような。
 自分の身が、そらの青に投げ出されてしまったかのような錯覚を覚える。

 ソラの中を漂っている。

 こんな風にぼんやりとそらを眺めていると思い出す。
 白いそらを眺めていると、思い出す。
 白く、青いそらを眺めていると…思い出すことがある。

 だから、そらを眺めるのが嫌いで仕方がなかった。




 そして…時として何よりも好きだった。




 悲しいことばかりが思い出される。
 辛いことばかりしかない刻だった。
 痛みばかりが与えられて。
 いつも、いつも、ずっと……一人きりだった。

 そこには、いつも、白く蒼く澄み切ったそらがあった。

 悲しいことばかりで。
 辛いことばかりで。
 身体中が痛くて。
 心も痛くて。


 いつも一人きりで。

 けれど。
 そこには、いつも白く蒼く澄みきった宙(そら)があった。

 だからだろうか。
 ぼんやりと空を眺めていると、心が酷く落ち着くのは。


 心がからっぽになって。


 何もかもを忘れる。
 痛みすら感じない。












 誰かから愛情を受けた記憶なんてほとんどない。
 人と手を取り合った経験なんてほとんどない。

 けれどその長くもない人生の中で、ほんの少しあるそれらの暖かさが。温もりが。

 余計に心に痛かった。












 ろくな人生を歩いていない自覚はあった。
 けれど後悔をしてはいないと、確かに断言できた。

 自分の生い立ちなど何一つ分からず。
 親も本名も分からないけれど。

 自分が自分であるとは、胸を張って云えた。


 それはたとえ嘘だったとしても、自分には名前があったからかもしれない。
 自分のことを呼んでくれる人間がいたからかもしれない。
 自分が、自分でその名前を認めていたからかもしれない。

 何も持たない自分にあった、ただ唯一のもの。

 それが、本名かどうかもわからない名前。


 それがあったから、自分はきっとどうにか生きていた。
 どうにもならない時でも、どうにか生きてこられた。

 名前は大切だ。

 そう思う。

 誰かの名ではなく。
 そう、それは自分の名。

 自分にとって大切な誰かの名。

 全てが必要なのではなく、自分にとっての名が必要。


 あおいそらだって

 それだけじゃつまらない












 もはや祈りなどいらない。
 祈りなど、この世に生を受けた時からいらない。

 なんの役にも立たないから。

 ただあるがまま。
 ただ思うがまま。

 歩いて行こうと思う。

































何もない人生で
ただ名前だけがあった

それだけが、まるで自分をそこに存在させているような
そんな錯覚を覚えながら
いつもそこには澄みきった冷たい空

痛みばかりの人生で
辛さばかりの人生で
僅かにある温もりと暖かさが
何より心に痛い

祈りなどいらない
救いなどいらない

ただあるがまま
自分のまま

このそらの下を生きていこうと



























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コメント *------------------------------------------------------



 書いてる私だけが楽しい(爆)
 久しぶりに随想めいたお話を書きました。
 寝る直前に急にぽっと、思いついて、その場で書かずに一夜明けてから書いた物なので、ほんとまとまりがないです。
 きちんとまとめてから書いてあぷすればいいのに…とは思いつつ。
 これはこれで気に入っているのであぷさせて頂きます。
 それにしても、随想めいたものを書くとどうしてもスクロールが長くなっていけません。
 本当はもっと!つらつらつらつら…ぐちぐち書きたかったり(笑)
 カズマのことを考えるととっても楽しい自分が好きvv
 ご意見ご感想お待ちしてます。



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モドル *----