+ 一匹の獣 +

































ほら

悲劇は何度でも繰り返される



そう、逃げられない

誰も



























































 だって、そうするしかないじゃないか。

 あの時の自分にとって
 それは決して失うわけにはいかなくて
 傷つけるわけにはいかなくて

 何よりも
 何よりも

 大切で


 尊いもの















 HOLYとネイティブアルターの交戦中。
 舞う砂塵と轟く轟音。

 その中で向かい合うのはカズマと劉鳳。

 劉鳳の絶影が辺りの全てを薙ぎ払い、カズマのシェルブリッドが全てを粉砕していく。

 傷つく身体など気にもならない。
 互いに互いしか見えていない、真剣勝負。命の削り合い。

 けれど気が付いた。
 その声が耳に入ってきてしまった。
 そして目に写った。

「カズくん!カズくん!カズくんッ!!」

 自分の名を呼び、泣ながら走ってくる少女の姿。
 目に写った時、その少女にかかる陰。
 それは崩され、弾け跳んだ大地の一部。巨大な岩石。

 元々考えるより先に身体が動く性質ではあったが、この時ほど身体が反射的に動いたことはなかったかもしれない。

「かなみ…!」

 どうしてそこにいるのかだとか。
 岩を崩せばいいんだとか。
 その時はただ、何も浮かばなかった。

 ただ…少女の頭上から影を落とすその存在から、彼女を守ることだけが頭を占め。
 身体はただ真っ直ぐに彼女の元へと動いていた。

「カズくん…?」

 かなみは自分の目の前にある光景の意味が分からずに、ただそれだけを呟いた。
 手には何か温かみのある液体がぬめりついている。
 血だった。

「カズ…くん……」

 そこにはも元々幾つかの廃墟があった。
 激しい死闘により、岩盤も弱くなっていたのだろうか。廃墟を支えているはずの大地がわずかに沈み込んでいる。

 廃墟の上には巨大な岩。
 廃墟は押し潰され、岩に沈み込み……見る影もない。

「カズくん!!」

 少女は叫んだ。
 目の前にある光景の意味が信じられずに。
 何が起きたのか理解することを、まるで頭が拒否しているかのように。思考が働かなかった。

 自分は地面に尻餅を付いていて。
 身体中に血が跳んでいて。
 目の前には……自分にとってもっとも掛け替えのない人が倒れていて。
 血だらけで倒れていて。

 かなみは慌てて起き上がろうとするが、上手く腰が立たなかったらしい。気ばかりが急いて身体が付いていかないようであった。
 四つん這いになり、震える身体を無理矢理動かして目の前にある光景へと手を伸ばす。

 その人の半身は瓦礫に埋もれ、そこからは止めど無く朱く色づいた血が流れ出していた。

 その人から流れ出しているというよりも、それは瓦礫の隙間から、まるで泉のように溢れ出しているように見える。
 その人の身体は瓦礫に埋もれ、その半身は見ることさえ叶わなかった。

 頭から流れる朱い液。
 閉じられた瞳。

「カズくん!!起きて!ねェ!起きてよ…カズくんッ!!」

 少女は彼の身体を揺さ振った。揺さ振りながら狂ったように叫び続けた。
 半身は瓦礫の中。もはや引きずり出すこともできないようにそれは見て取れた。

 気が付けばそこに響き渡るのは少女の叫び声だけ。
 敵味方の区別なく。
 そこにいる誰もが、その出来事に言葉もなく動きを止めていた。

「いやだ!いやだよ!!カズくん―――!!」

 虹色の輝きが少女を包み込み、彼女の目の前にある物全てが分解されていく。
 再構築が起こる。

「アルター能力者?!」

 誰かの呟きが洩れたが、それに応える者は誰もいなかった。
 誰もが、ただ目の前の光景を見守ることしかできない。声もなく。

 光が沸き起こった。
 強烈な光。

 辺り一面に広がる、その焼け付くような強烈な光に、誰もが目を覆う。

 腕で目を覆いながら、それでもなんとか目を開けていられた者は見ることができただろう。
 まるで太陽が爆発したかのような輝きの中心から空(くう)を切って現れた陰の姿を。

 光が収まった時、少女の前にはただ一匹の獣の姿があった。

 それは狼のようにも獅子のようにも見えた。
 赤銅色の毛皮と、琥珀色の瞳。全てが鋭く。
 まるで少女を護るかのように佇んでいた。
 体躯は大型の犬ほどもある。

「…カズ…くん?……」

 少女が獣を見上げながら呟いた。
 少女の声が、止まった時間を再び動き出させたかのように、場の空気が変わったように思えた。

 何よりも早く動いたのは赤銅色の獣。
 少女の方へ振り向き直すと、一連動作で少女の服の襟を加えて、まるで動物の親が子供を運ぶかのような方法で少女を持ち上げて駆ける。

 風のように。

 次に動いたのは碧い髪の青年だった。

「絶影!!」

 彼のアルターがそのウィッグが獣に向かって一直線に伸びる。
 後一歩で獣に届く。
 その時だった。

 獣の全身を虹色の光彩が覆い、周りの大地が音を立てて抉り取られたように陥没する。
 それと同時。

「!」

 赤銅色の獣の背に、それと同じ色の巨大な一対の翼が現れた。

 鳥の翼のようでありながら、それはどこか硬質な印象をも感じさせた。
 それは決して冷たいという意味ではなく、力強く見えるとでも云うのだろうか。頼もしい印象を、見る者に与える。

 軽く大地を蹴って跳び上がる。風の切られる音が聞こえた。

 絶影のウィッグが方向を変えてそれを追いかける。
 獣の琥珀の視線のその先にあるのは、やはり自分を真っ直ぐに見つめる真紅の瞳を持つ男。


 劉鳳。


「劉鳳?」

 かなみが呟く。
 それこそが彼女の本来のアルター能力。

「やっぱり…カズくんなの?」

 少女の翡翠色の瞳が揺らめく。
 少女は抱き付くように、獣の首元に両腕を回している。
 眼前。顔のすぐ横にあるその獣琥珀の瞳。


 大切なその存在をアルター化した。





 ほら、悲劇はまた繰り返される。
 もう、誰も逃げられない。
 抜け出せない。





 自分は、今。

 なぜその姿を追いかけているのだろうか。


 劉鳳は酷く空虚な自分の心の中。
 ただぼんやりと浮かぶ疑問に身を任せていた。
 こんなにも空虚と化した精神で、アルターを行使できていることが…不思議で仕方がなかった。



 意思を持ったアルター。
 アルター能力を有したアルターの結晶体。



「カズ…くん……」

 少女の呟きは風に流れて消え。
 ただ獣は少女を咥えて宙を駆ける。

 少女の腕がきつく獣に回されていた。


 見つめていた碧い髪の男からも視線を外し。
 自分を見つめる翡翠の瞳に視線を送ることもせず。
 ただ真っ直ぐと宙を、見。

 風に乗り。
 流れるように

 翔けてゆく。





 一匹の 獣

























































目の前にあったのは
ただ過去の情景

次なる悲劇を造ったのは

この


この、自分の手




ほら、また繰り返す?






































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コメント +---------------------------------------------------



 いかがでしたでしょうか?
 これって…ゆ、許されるのですか?!!(滝汗)
 けっこういろいろ思い浮かんで、でもずっと出さずにいたのですが、今回とうとう思い切ってあぷしてみました。

 い、いや…もう本当に感想と意見とかください!
 なんにも反応ないと怖くて怖くて…ガタガタ(震)

 小説とっぷにも書いてありますが、何を読んでも怒らず引かず見捨てない方のみ読んで下さったはず!(…だと思いたい/怯)
 ……ああ〜見捨てないで下さい―――!!(泣)
 こんなになるならあぷしなきゃいいじゃんとも思うし、あぷするならURL申請制とか陰しにすればいいじゃんとも思ったのですが…。まぁ、いろいろ。

 いやもう後はただ謝るしかないです。
 本当に、申し訳ありませんでした!!
 文句がこなきゃ続きも書きたい(←懲りてない?!)



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