+ バレンタインチョコの代わりに +



















本当に好きな人からでなければ

それは…意味がないから

だから

こんなにもこだわるのです
































「さっさと出せ」

「……」

 ニ王立ちで眼前に佇み、真っ直ぐと手を差し出していってくるのは碧い髪に褐色の瞳の少年、劉鳳。
 対して彼の前でなんともいえない複雑な表情で座り込んでいるのは赤茶の髪に亜麻色の瞳の少年、カズマ。ちなみに、なぜかひらひらフリルのエプロンドレス姿である(←劉鳳がムリヤリ着せた模様)

 劉鳳が普段よりもさらに偉そうにふんぞり返ってカズマに求めている物。それはヴァレンタインチョコだった。

 今日は2月14日。
 大好きの気持ちをチョコレートに乗せて(主に女の子が)思いを寄せる男性にチョコレート贈る日だ。

「どうした?作っていただろう?」

 チョコを。

 劉鳳は上目遣いに自分を見つめ続けたままのカズマに、挑発するような笑みで云う。
 単純なカズマは、普段だったらそれだけでムキになって反論するのだが、今日はそれもなかった。

 ただじっと劉鳳を見つめ、時々はその視線をそらし…。まるで悪戯した子供がその悪戯を親に云おうか云うまいか迷っているような…叱られて項垂れているかのような…そんな姿だった。

 いつまで経っても何も云おうとしないカズマに、劉鳳は深く溜息をつき、ずっと前に突き出していた手を戻した。
 劉鳳の手が引っ込んだことにカズマはホッと、小さな安堵の息を吐き、幾分表情を崩して劉鳳を見上げ…固まった。

 劉鳳の表情。
 それはまさしく何か企んでいる意地の悪い笑み。
 劉鳳がこの笑みを作りカズマが無事に済んだことは一度もない。
 カズマは戦慄に身を凍らせた。

「りゅ、劉鳳……」

 背筋に冷汗が流れ、カズマは恐る恐る劉鳳の名を呼んだ。彼から逃れるようにわずかに後退りながら、それでもカズマは劉鳳の思惑を推し測るように上目遣いのまま彼を窺がっていた。

 にやり。

 劉鳳が笑い、今度こそカズマは逃げ出した。
 頭より先に身体が動いたのだ。
 彼に背を向け慌てて立ち上がり走り出そうとした…ところで、劉鳳に右足首を掴まれて捕まる。

 腕の力だけで引き戻され、その腕の中に囲まれる。
 劉鳳に後ろから抱きすくめられる形になり、カズマはどうにかそこから逃げ出そうともがくも、体格と純粋な力差だけではカズマは劉鳳には勝てなかった。

「は、離せ」

 じたばたともがくもまったく意味がない。

「静かにしろ…カズマ」

 劉鳳がカズマの耳元で低く。囁くように云えば、カズマは思わず身を竦めてそれまでの動きを止めてしまった。

「あ…ちょ、劉鳳っ」

 劉鳳がカズマの太腿を辿るように手をスカートの中に滑り込ませ、カズマは慌てて劉鳳に制止の声を上げる。

「どうした?」

「どうしたじゃねぇだろ!な…なんのつもりだよ……」

 勢い良く云うものの、カズマの語尾は弱々しい物に変わる。
 劉鳳の含むような微笑が恐ろしい。

「なに。チョコの代わりにお前本人を頂こうと思ってな」

「なっ…!」

 さらりとまったく筋の通っていないようなことを平然といってのける劉鳳に、カズマはとっさに言葉が出てこなかった。
 驚きと呆れと焦り。
 様々な感情が一気に押し寄せ、頭が真っ白になる。

「ヤッ…だ・……ダメぇ……」

 劉鳳の容(かたち)の良い手が、カズマ自身に触れてくると、カズマは身体を震わせて涙声で訴えた。
 次第に与えられてくる刺激に、生理的な泪と震えが止まらない。

「ふぅ…ぁ、んんっ」

 与えられる刺激に堪えられず、カズマは無意識の内に自分の胸を抱き込んで支えている劉鳳の腕に自分の手を添えて縋り付くように掴まる。
 そんなカズマの様子を見て、劉鳳は僅かに目を細めた。

「どうした?カズマ」

「りゅ…ほう……」

 カズマの涙声での訴えに、劉鳳はその唇にキスを降らしていく。
 首筋に、頬に、耳元に。
 カズマの気持ちを少しでも落ち着かせようと、その手の動きとはまるで正反対のような優しい、ゆったりとした口付け。

 それは次第に激しくなっていき。
 二人。
 ただ欲望のままに。




 溺れていく。















「で?」

「うう…なにがだよ……」

 激しく求められたカズマは、ぐったりとしたままで大人しく劉鳳の腕の中に収まっていた。
 服は着たまま。その綺麗に伸びた足には常時の後が流れて艶めかしい姿を写している。
 まだほんのりと躯が熱に浮かされて朱に染まった、腕の中にあるその細くしなやかな肢体の僅かに汗ばんだ肌が、どこまでも理性を崩そうとするのを、劉鳳は再び熱が沸き起こるのをなんとか堪えた。

 これ以上はさすがに無理をさせるわけにはいかない…。
 愛するが故(ゆえ)の熱を、愛するが故の理性で押し止める。

「なぜチョコを渡さない?」

 作っていただろう?

 劉鳳はまったくの無表情で云った。
 カズマがバレンタイン用の手作りチョコを劉鳳のために作っていたことは、違えようのない事実であるのだ。……なぜなら珍しく早起きしてカズマが台所を占領していた。しかも劉鳳にチョコを作るのだと張り切って。

 無表情の素っ気無い態度で、「台所を壊さないようにだけ注意しろ」との励まし(?)を掛けながら、内心、劉鳳はかなり楽しみにしていたりする。……チョコを作るといって笑っていたカズマの表情も可愛くてドキドキだったとかは内緒。

 だがしかし。
 カズマは台所から出てきて、まるで逃げるようにそそくさと自室(でも寝室は実質一緒vv)へ逃げ込もうとする。
 そんなカズマの様子をいぶかしんだ劉鳳はカズマが自室に入ろうとするのを引き止め…冒頭に至るのである。

「……失敗…した」

 実に言い難そうに視線を反らしながら云うカズマに、劉鳳は「そんなことか」と胸中で溜息をついた。
 カズマが料理を成功させるなど、端(はな)から期待してはいない。
 ただ、カズマが――自分のたった一人真実愛する人が、自分のために何かをしようとしてくれる。その気持ちが嬉しかったのだから。だからこそ「失敗するな」とは云わなかったのだ。

 たとえ失敗作でも…どんなものでも、受け取る気でいたから……。

 だから劉鳳は拗ねたような居心地悪いような表情をしているカズマをさらに自分に寄せて強く抱き締めた。
 カズマはいきなり、無言で抱擁がきつくなったことに慌てて劉鳳に面(おもて)を返す。
 優しかった労わるような暖かい抱擁が、今度は護るように力強いものに変わる。
 見つめる先には真紅の瞳。それはどこまでも優しく穏やかで…。カズマは思わず、押し黙り、視線を逸らすこともできずに目を見開く。

 琥珀の瞳が真っ直ぐに捉える。
 それが自分であることに、劉鳳は僅かに喜びと暖かさを感じて口の端を引き上げた。
 その人の瞳に自分が写ることが、素直に、嬉しかった。

「カズマ」

「えっ…あ、りゅう…ほう?」

 ゆっくりと劉鳳の顔が近付いてきて、そのあまりの優しい瞳に、カズマは一瞬逃げることさえ忘れる。
 真紅の瞳に見惚れて。捕らわれてしまったかのよう。

「俺は、お前が俺に与えるものはすべて受け取る」

 そして、すべてを与え、すべてを奪う。
 愛しているから。
 誰よりも。
 君だけを……。

 それは優しい接吻(くちづけ)と共に与えられた言葉。

「……」

 劉鳳の言葉に、カズマは恥ずかしさのあまり頬を赤く染めて俯いた。
 そっと自分を抱き締めてはなさいその人の腕の握れば、それに応えるように無言で強くなる腕の戒め。強く、優しく抱かれる。何度でも。
 劉鳳に凭れかかるようにその身をあずけながら、カズマはカズマは小さく囁くように呟いた。

 それは周囲には届かない、ひどく小さなもの。
 けれど、その人の一番近くにいる彼には聞こえたらしい。
 その表情が、いつになく嬉しそうな、満足そうな笑みに変わる。

 しばらく二人は寄り添うように抱き合って。




 後は、夜の静寂(しじま)のみが知る。































本気で好きだからこそ
こんなにもこだわってしまうのです

それは愛し合っているお互いに

君のすべてが僕のものなら
僕のすべても君に捧ぐ

君から与えられた等しい言葉に
僕は笑みが零れるのを止められませんでした

本当に欲しいのはただ一つ



僕の愛して止(や)まない、君だから






















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あとがき +--------------------------------------------------------------



 逝ってきます。
 ダメダメじゃん。自分。なんか最近少女趣味に走り気味らしいです。
 当初の予定大幅に外しまくり。そしてえろはやはり今回も逃げました(だって書けないよ…)

 バレンタイン〜。
 オモテでリクエスト頂いてかなカズバレンタインはやったので、せっかくだから劉カズはウラで。…とか、思ってやってみたんですが…失敗。というか、玉砕。
 でも頑張って書いたのでUPします(←書き終わったの14日になる一時間前)

 なんか妄想入りまくりですが、これはぎゃぐなので怒らないように。
 カズくんが乙女だ。(←さすがに書いてて冷汗が…/爆)
 えぷろんどれす…。はじめめいどさんにしようかとも思ったのです。んでもってきちくえろが書きたかった。
 なんか難しいことに挑戦!みたいな感じで。
 でも本当に難しいですね。無理でした(そしていつものように逃げ…)

 うう…ごめんなさいです。
 感想とか貰えたら嬉しいです。



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