+ windy mind +
〜 breeze-gale 〜


















なんの為に生きている?
























 風は冷たかった。
 肌寒いと感じるほどには。

 揺れる髪を止めるものは何もなかった。赤銅色の髪が揺れていた。―――風に。

 荒野に佇む一つの影。
 灰色の世界に、その人は決して異質に洩れることはなく――。けれど、そこに完全に染まっているようでもなかった。
 開かれたのは大地だ。進むものは前を見る。
 彼なら云うかもしれない。
 歴史(刻の流れ)は、常に前に進み続けていると。

 それは奇妙な光景ではない。
 むしろ、まるで一枚の絵のように、とてもしっくりと心に馴染む。自分の全てが、この景色を当然のように…当たり前のように。これ以上の自然などないかのように。……受け入れるだろう。

 彼はそこに立っていた。
 ただ、佇んでいた。

 目の前には何もない。
 誰もない。
 道すらない。

 けれど、彼の瞳には戸惑いも、迷いも。怖れも。そして、気負いすらもなかった。
 生きていくことに対する気負い。
 そんなものは、彼のどこにもなかった。

「なんで、生きている?」

 彼は問われた。
 彼が辿りついたのは、暗く陰気に湿った廃屋の群だった。
 そこにいた虚ろな目の誰かが問うた。
 なぜ「誰か」といったのかといえば…彼にとって、それは気にもとめない者だったからだ。目の前にいたら少しは目に付くが、ただ目に付くだけで他には何もない。だから、実を云えば声も顔も覚えてはいなかった。
 ただ、声を掛けられたから答えてみた。

「さぁな」

 それは気のない返事だったけれど。
 彼は肩を竦めてその場を通り過ぎようと一歩踏み出す。
 また、声が掛けられた。

「どこへ行く?」

 だから、彼は答えた。
 その声は、やはり気のないものだった。彼らしいとも云えた。

「どこへでも」

 気の向くままに。

「お前は…誰だ?」

「オレはオレだ」

 即答だった。

 それは誰に認められた訳でもない者だった。
 それを誰かに認めてもらおうなどとは思ってもいなかった。
 その必要もなかった。
 けれど彼に迷いはなかった。

 他には何もいらない。

 自分が自分であるのなら、誰が認めていなくとも、自分がそれを認めているから。
 自分が自分であるために、必要なもの。
 他には何もいらない。

「なんで、生きている?」

 また問われた。
 彼はその人に目を向けた。
 瓦礫の陰に座り込んだその姿で窺がうことができたのは、投げ出された二本の皺だらけの足だけだった。随分と薄汚れていた。酒の嫌な臭気が、彼の鼻につき、彼は嫌そうに眉根を寄せた。

 なんで生きている。

 死ぬのが怖いとか。
 ただ、まだ死んでいないだけだからだとか。
 死にたくないからだとか。
 どうでもいい、嘘ばかりの…形だけの言い訳はいくらでも頭に浮かんだけれど。
 あえて、彼はそれらのどれも選ばずに、ただ投げ出すように云った。

「さぁな」

 代わりにそう云った。

「……この世界は、随分と酷い世界になったもんだ」

 去り際に聞こえたその呟きには応えなかった。その義理もなかったから。
 砂埃が上がった。
 彼は笑った。酷く楽しそうに。

 髪がふわりと揺れた。上に。
 彼の瞳が覗く。
 顔は傷だらけだった。肌の色が、その質感が、それと分かる程におかしかった。―――奇妙な鈍色(にびいろ)。
 衝撃。
 彼は笑った。
 酷く楽しそうに。

 風が吹いた。
 肌寒さを感じさせるほどには冷たい風だった。
 けれど、それで震えることはなかった。

 彼の体を虹色の光彩が覆う。

 それが、もう一人の彼だった。


 酷い世界。
 否定しない代わりに、肯定もしなかった。
 それが、彼の答え。


 彼は笑った。
 酷く楽しそうに。

 子供のように瞳を輝かせて。獣のように挑むように煌く瞳。

 彼は、この世界を気に入っていた。
 痛みも醜さも辛さも。
 悲しみも。
 すべてひっくるめて。彼はこの世界を気に入っていた。

 だから、彼は答えなかった。
 否定も肯定も…しなかった。

 冷たい風には、もう凍えることさえできない。






























すべてはすべての自分が楽しむ為に、ただその為だけに
























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アトガキ *---------------------------------------------------

 何が書きたかったの?とは、あえて聞かないで下さい。多分に書いた本人でさえわかっていないと思いますので。
 でもわかっていることもあります。
 漠然とですが書きたかったもの(が、それでもあったんです)は、見事に書くことができなかった。という事実。
 イメージとしてはアニメ本編最終回後のロストグラウンド。
 玉砕しながらもUPさせて頂きますこの作品(と、呼んでもいいのかは謎ですが)。また、挑戦するかもです(何に?)タイトルに関しては突っ込まないで頂けると嬉しいかと…(滝汗)
 こんなんですが、ご意見ご感想頂けるとめちゃくちゃ嬉しいです。


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モドル +----