+ 料理 K-side +




















なんだかんだ云ったって

ずっと一人で生きてきたから




















 それは雨の降る日のことでした。
 突然の雨でした。
 雨宿りのために駆け込んだそこに、その小さな子はいました。

 一人。
 赤い傘がなぜか印象的で…その子をより小さく寂しげに見せていました。

 今までにもこんな子供に会ったのは少なくありません。
 自分も含め、ここには親のいない子どこもがとても大勢います。だから、きっとこれは自分のたわいもない気まぐれなんです。
 差し出されたパンに…思い出してしまったから。

 すべてを与えるか。
 すべてを奪うか。

 そのどちらでもなく、自分にパンを差し出したその小さな子。
 全然違うけれど、思い出してしまったのです。

 ああ…前にも一人いたな。

 すべてを差し出すのでもなく、自分からすべてを奪うのでもなく。
 自分に分け与えた者の存在を、思い出してしまったから。

 だからきっと。これは、ほんの気まぐれなんです。





 悪友。
 彼は、仕事上のパートナーでもあります。
 だからといって、いつも一緒にいるわけではありません。

 家族では決してないのです。

 彼の持ってくる仕事は時間が安定していません。
 だから、その小さな子が家に来たそのすぐ後に、自分は彼に云われて仕事のために何日か家を留守にしました。

 帰って来たときにテーブルに並んでいたのは、パンとスープでした。
 自分がいつ帰ってきても良いように、毎日用意していたようでした。
 ほんの少し。
 あくまでもほんの少しだけ…。

 嬉しかったんです。

 心の底から何か自分の知らないものが湧き上がる。
 そんな感覚を憶え、呆然と立ち尽くしていました。

 小さなその子の心配そうな声かけに、はっとして我に返って…。でも照れ臭いから云いません。
 嬉しいとは。

 素っ気無く「サンキュ」と。
 そう呟くのが精一杯です。
 そして憎まれ口。

「わざわざそんなことしなくても良いのに。バカじゃねーの」

 自分からしなくても良い仕事をするなんて、普通じゃ考えられません。
 しかもいつ帰ってくるかもわからない人間のために、ただ働きです。

 でもやっぱり嬉しかったから。
 それを残さずに食べました。
 一緒に食べるその子が…とても嬉しそうに笑っているから。
 誰かと一緒に食事を取るのは、一人よりもずっと暖かいものだと…知っていたから。

「おいしい?カズくん」

 その子は尋ねてきました。

「……」

 一瞬言葉に詰まります。
 なんと答えるべきか迷ったのです。

 自分は掃除も洗濯も料理も…つまりは家事が嫌いです。でも苦手ではありませんでした。
 なんなかんだと云っても、これまで自分一人だけで生きてきたのです。
 難しいものならばともかく。少なくとも…基本的な料理くらいはできます。

 前述した悪友にも誉められるくらいには。
 自分が上手いと思える程度には…。

 けれど。
 けれど。

「……マズイ」

 基本的に嘘は苦手なんです。
 単細胞といわれようがなんだろうが、嘘は苦手なんです。
 ついでに云うと人を誉めるのも苦手です。

 その小さな子は頬を膨らませました。
 どことなくがっかりしたようなそんな表情をしていますが、それでも目は怒っていません。
 自分がカス一つ残さずその子の手料理をたいらげたからだと思います。
 なんでもたいらげるこの胃袋に、自分の食欲に、これほど感謝した事はありませんでした。





 あの日から。
 家事の一切はすべてその小さな女の子がやっています。
 なんとなく。
 自分は家事ができないことにしておいた方がいいような気がしました…。

 少女の手料理を初めて口にした時の、あのおしゃべりな悪友の態度からも、その判断が間違っていないと悟りました。
 彼はしばらく沈黙したあと、いつものちゃらんぽらんなにやけ笑顔(に自分には見えます)で、少女に云いました。

「おいしいよ、かなみちゃん。カズマは料理がでいないからこれで安心だな〜」

 と。
 少女は照れたように頬を染めました。
 その言葉に、余計なことは云うべからず。余計なことはするべからず。と、いう。彼からの無言のアドバイスを感じました。

 彼は嘘が得意です。

 愛想笑も得意です。
 そして口が上手いです。

 でも少女が知らなくても良いことです。
 口の上手い人間は特だということなど、自分はそれはもうそれなりに知っています。でもだから羨ましいとも思いません。

 ただ…。
 やはり一度くらいは云ってあげるべきなのでしょうか。
 手を差し伸べるべきなのでしょうか?

「料理…教えようか?」

 と。

 彼女の料理の進歩度はとても遅いです。
 そして自分はやはリ嘘が苦手です。


「おいしい?」

「マズイ」


 ああ…。
 このやり取りは、一体いつまで続くのでしょうか?


 それでも、自分はその料理をすべてたいらげるのです。




















けっこうなんでもできるんです

面倒くさいから
進んでなんてやりませんけどね




















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こめんと *--------------------------------------------------------

 いや〜突発的に思いついて書いてしまいました(笑)一時間も掛けてないかな?私的にはさらさら〜と随分早く書き上げられた部類に入りますです。
 かなみちゃんVerもあるので、そちらも近いうちに書き上げたいと思っています。お楽しみに…って、そんなの待ってる人誰もいませんですか?(びくびく)
 カズマってけっこう舌が肥えている気がします。料理とかもさり気にやれそうな気が…しません?
 逆にかなみちゃんはこれ以上ないほど女の子らしいのに、ちっともそういうのが上手くなれなくて…とか。
 ご意見ご感想いただけると嬉しいです。

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