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きみをおもうだけで +







どうして、こんなにも君を思っているのだろう
それだけで、こんなにも切なく、愛しくなるのだろう
こんなにもこんなにも、幸せな気持ちになるのだろう








 どれほどの思いで君を追いかければ、僕は君に追いつくことが出来るのだろうか。
 君をこの腕の中にすることができるのだろうか。

 どれほど腕に力を入れて、そうすれば、君は僕の中に居続けてくれるのだろうか。
 僕のもとにとどまっていてくれるのだろうか。僕のことをとどめ続けていてくれるのだろうか、君に。

 君の瞳の中に僕が写り続けているためには、決して僕は君に負けてはいけないのだろうね。
 君は僕への興味などあっさりと捨ててしまえるだろうから。

 こんなにも強く君を思うことで、僕の心は満たされる。
 いとも簡単に。
 たった君のことを思い浮かべるだけで、この心は、この僕のすべては、一瞬でいっぱいになる。それでもまだ収まらずに、溢れ出しそうなほど…溢れるほどに強く強く君を思う。

 それでもまだ足りない。

 思うだけでは満足できない。
 気持ちが追いつかない。

 君が僕を追いかけているようで、本当は僕ばかりが君を追いかけ続けているということを、君を求め続けているということを――君は、まだ知らない。きっと、ずっと知らない、まま。





「お前さぁ…何がしたいんだよ?」

 飽きれたような声で訊ねるのは、赤茶色の髪のその人。一目でわかる身体中を走る亀裂。普通ではありえない皮膚の状態。ひび割れたこの大地と同じ…無数の亀裂が彼の皮膚を身体を駆け巡るかのように走り、けれど本人は一向に気にした風ではなかった。決して一つには収まりつかぬ美しい色彩を奏でる琥珀の瞳は、一体どれほどはっきりと彼に視覚的な情報を与えることができているのだろうか。その片方は完全に封じられていた。

「別に…」

 なんでもない。とは云いながら、けれどその瞳が言葉を裏切っていた。
 深い、まるで熱情を閉じ込めたかのような赤。さまようその瞳を映えさせる、碧色の髪。厭味なくらいに整ったその面(おもて)に…けれど似つかわしくない傷。
 彼は目の前に佇むその人を、見つめることさえできないでいた。

「はぁ…」

 赤い髪の青年が溜息をついた。
 カズマ。
 それが青年の名前だった。
 名字はない。本名かどうかも分からない。けれど、彼にとってはそれだけで充分だった。
 青年を認識することができるものであれば、彼自身がこれは間違いなく自分の存在を表すものなのだと認めたのならば、彼にとってはその真偽など気に止めることではないのかもしれない。そして事実、青年は彼を彼と認識し、彼を呼ぶ人々すべてから「カズマ」と、その名で呼ばれる。

 カズマの視線の先で深紅の瞳が揺れる。それでもまだ自分を見ようとはしないその瞳の持ち主に呆れ果て、カズマは今度は胸中で溜息をついた。
 劉鳳。
 それが深紅の瞳の彼の名前。意味などカズマには分からなかった。カズマにとって、その名が目の前の彼の本名かどうかはどうでもいいことだった。ただそれは、その本人が名乗った名前で、自分はこの名を刻み込んだ。その人の名それで充分だった。

「劉鳳」

 だからカズマはその名を呼んだ。その人を呼んだ。
 その表情はどこか呆れたような…けれど優しい柔らかな雰囲気を持っていた。

 内心でカズマは苦笑した。いったい、自分はいつから彼の名をこんな風に呼ぶようになったのだろうか。こんな、柔らかな声で呼ぶようになったのだろうか。
 彼と出会った頃の自分が、今のこの自分の姿を見たら何を思うのだろうか。

「カズマ?」

 どうやら笑いが面に出ていたらしい。
 呼ばれ、しかしそれ以上はなんの反応も返さずにいるカズマに、劉鳳はいぶかしんでその名を呼んだ。

「ああ、わりぃ。っつーかさ、おまえ、本当に何がしたくてここに来たんだよ」

 カズマはどこか挑発しているかのような笑みをたたえて云った。
 楽しそうだといえばそうなのだろう。その声にも笑みが含まれている。

「それは…」

 云い淀む劉鳳に、カズマは尚も楽しそうに目を細めた。それは青年と呼ぶに相応しい実年齢からは考えもつかぬほどに幼く見え、彼の顔の半分までもを覆おうとしている亀裂が窺がわせる彼の激しい生き様からは想像もつかないほどに優しいものだった。
 しかし残念なことに、再び俯いてしまった劉鳳にはそんなカズマの表情を見ることはかなわなかった。
 視線をさ迷わせ俯いたままの劉鳳に、カズマはさらにその瞳を細めた。

(わかりやすい奴…)

「!カズマ…!!」

 突然自分を包み込むように抱き締めてきたカズマに、劉鳳は驚きのあまりその面を上げた。いったい彼が何を考えてこんなことをするのかが理解できなかった。
 あまりにも激しく打つ、自分の胸の音が信じられなかった。そして、それ以上に満たされていくと感じる心の、あまりの切なさに、泪が出そうで仕方がなかった。

「俺は…いつだって、劉鳳、おまえのことを考えてるぜ」

 いつも頭から離れない。
 激しい思い。

「カズマ…」
「自分だけが捕らわれてるとでも思ってんなら、すっげー、バカだぞ」

 どちらが、先にこの自分を刻みつけたと思っているのか。
 もう忘れてしまったというのなら、それこそ、また再び刻み直してやる。自分との出会いから今までのすべてが誰にも譲れない、何か特別な一区画であるように。

「で、何しに来たんだよ」

 カズマの琥珀の瞳が劉鳳を覗き込む。
 首に回された腕が未だ離れていなくて、あまりにも近すぎるその瞳に、あまりにもきれいに煌くその彩に嘘などつけるはずもなく…心が見透かされるような感覚。
 気がつけば、言葉は滑り落ちていた。

「会いに…カズマに…会いたかった」

 だから、ここに来た。

 云えば、カズマの瞳が嬉しそうに細められるから。
 思わず、手を伸ばしてその細い傷だらけの体を抱き寄せる。腕に力をこめれば、彼の安定した暖かな鼓動の音が伝わってくる。
 もうぼろぼろの体で、これ以上この腕に力を込めたら…いや、もうすでにきっとこれだけでも随分とつらい思いをさせているだろうと思う。
 ―――痛みはどれほどのものだろうか。

「気にすんなよ」

 ぼろぼろの体は、お互いさまだから。

 カズマの鼓動が優しく響く。
 その朱くやわらかな髪に、劉鳳はそっと顔を埋めた。頬にあたる暖かなその感触に瞳は自然と閉じられる。
 求めていたのは、きっとこんなことだったのだろう。





 思うだけでは追いつかない。
 どれだけ思っても足りない。

 僕の中で君がもう特別であるように、君の中でも常に僕は特別で。僕の中で特別な君を、僕はもう決して放すことなどできないだろうと同じに、君も僕を忘れられないらしいと感じる。
 それが何よりも至福。
 僕は君の中で、生き続けられるのだと感じる。

 どれだけ思えば届くのか。
 どれほど思えば、君に追いつけるのか。この腕にできるのか。

 簡単なことだった。

 君に、会いに行けば良かったのだから。
 ただ、自分から君を求める行動に出れば、もうそれで。
 君は、僕に応えてくれる。

 それが、今僕の、何よりの至福。








きっと、それはとても簡単なこと
それが君だから
君を思うだけで、君がいるだけで、僕は、こんなにも幸せになる





ただ、それだけのこと








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こめんと *--------------------------------------------------------

 2001年7月4日。ちょうど去年の今日ですね。スクライドの第一話「カズマ」が放映されました。
 その日、私は受験生的テスト期間中まっさかり。にもかかわらず以前から要チェックしていた(笑)アニメ「スクライド」を見るべく勉強机から離れ、新品ビデオをセットし、テレビの前に鎮座して6時になるのを心弾ませ待っておりました(えっ?その後の番組?そっちは別に…見てないです/爆)
 第一話をみてその雰囲気にはまり、カズマに萌え(←いきなり)。ここから私の劉カズ(カズマ受け&至上主義)の路がいきなり始まったのでした(本当に第一話から劉カズにはまったですよ)
 ネットでスクライド関係、特に劉カズ小説を探し漁り、ついには自分で小説書いてしまい(←しかもホームページにUPしたスクライド第一作目は裏/汗)リングにまで登録してしまったです。まさかここまでになるとは…そのときの私は思いもしていなかったでしょう(ここまでって何かって?そりゃもう劉カズがなきゃ私の人生ないっていうか生きてらんないよってくらいの思いですね/笑)
 そんなこんなで記念にUPしたくて小説書きました。実はレポート〆切とかテストとか迫ってて切羽詰まってたりしてますが、これは捨てられないんですよね。もう。
 ご意見ご感想いただけるとたいへん嬉しいです。では。

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