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+
あなたに +










 あなたに出会えた。
 それがはじまり。
 きっと、それだけが奇跡。

 それこそが、運命。

 必然の運命。
 そうして、世界の歯車は回り出した。





 これから先の未来の姿を、きっと誰もが漠然と想像するのではないだろうか。
 このまま何も変わらない。
 そう思うことだって、未来を想像したことにはならないか?
 そんな時に起こったのが大隆起現象。
 この世界はずたずたに切り裂かれた。

 でも、まぁどうにかなるもんで。

 俺達は生きている。


「劉鳳~」

 気の抜けた声で呼ばれて振り返ったのは、なにかやたらと整った顔の少年だった。碧い髪と深紅の瞳。一件相反しているようなその色彩は、彼の中にあれば何よりも美しくあっているのだ。
 きっとこの色でなければ、彼のこの美しさは半減してしまうのではないかと思えるほどに、それらは個性を強調し合いながらも当然のように落ち着いていた。

「なんだ、カズマ」

 眉間に皺を寄せて応えたその少年が劉鳳と呼ばれて振り返るのと同じように、今度はカズマと呼ばれて振り返る少年がいた。先ほど「劉鳳」を呼んだ少年だった。
 赤銅色の髪に琥珀を焼いたような甘い色の瞳。ぼんやりとした眼差しと丸まった背は、劉鳳とは正反対だ。やけに細いその体つきが痛々しいのに、なにかすさまじい近寄り難い気を持たせる圧力を醸し出していた。

「メシ~」
「自分で作れ」

 ソファに背中を預けて云うカズマに、劉鳳の応えは素っ気無い。一度手を止めて振り向くも、すぐにまた机上のパソコンに向き直ってしまった。もうそこで話しは終了。とでも云わんばかりの様子でパソコンのキーを叩く。
 彼の背中が無言で語る。
 「静かにしていろ」と。
 しかしそこでくじけるカズマではなかった。

「ここおまえん家じゃん」
「好きに使って云いたといってあるだろう」
「”おきゃくさま”はもてなすもんだろ」
「お前は客ではない」
「じゃぁなんだよ」
「……」
「…なに一人で赤くなってんだよ」

 耳までほんのり朱に染めた劉鳳の後姿を眺め、カズマは半眼になった。あまりにも激しい呆れに襲われて、かくすこともせずに溜息をつく。
 なにか物凄く疲れた気分だった。

 二人で一緒にいることが当たり前になってもうどれほどになるのだろうか。出会った頃からは考えられない甘い時間。優しい気配。穏やかな空気。
 優しく触れてくるその手が、唇が、その人のすべてが。
 こんなにも愛しくてたまらなくなる日が来るとは、思いもしなかった時間が。
 今、ここにある。

「云っとくけどな、俺とお前は真っ赤な他人だからな」
「そんなことは分かっている。――だから籍を入れようとあれほど……」
「だーーー!!!そうじゃねーー!!!」

 ほんのりと頬を朱くして振り向きながら云う深紅の瞳のその人に、カズマは頭をかきむしり大声を上げた。
 聞かされるこっちの身の方が恥ずかしいからやめて欲しい。
 さんざん云ってきた言葉は、しかし一度も聞き入れられたためしなどなかった。

「あのさぁ、なんでお前、そんなに形にこだわってるわけ?」

 呆れたような声音と視線を向けてカズマは云う。
 精神的に疲れ果てた時は体が思い。カズマはソファの上にぱふっと、かわいらしい音を立てて横になった。

「それは…」

 じっと黙して。見つめて。
 カズマは劉鳳の返事を待つ。
 口篭もったまま何も云おうとはしない劉鳳に、カズマは今度は胸中で溜息をついた。

(だから~!!)

 心の中で叫び声を上げる。

 本当は分かっているのだ。
 彼がこんなにも形に拘る理由。

 何もかもが壊れたらしい。
 確かなものなど何一つならいらしい。
 自身過剰で自分勝手な奴で、なのにどういうわけかこんなにも不安らしい。

 そして。

「いやじゃねぇんだよな~」

 そんな彼が。
 自分のことを求めてくれる彼が。

「なにか云ったか?カズマ…」
「あ?……別に~」

 声が漏れてしまっていたらしい。でも、はっきりとなんて云ってやらない。
 子供はすぐ調子に乗るから。

(っつーか、あんな恥ずかしいこと云えるか)

 冗談でだって云いたくない。云えない。
 確かなものが欲しいというのなら、自分はこれでも随分と十分とあげているつもりだ。
 そもそも、今、ここにこうして自分がいること以上に確かなことなど何もないのに。そう思うのに。

(でもま~)

 たまに甘やかしてやるのもいいかもしれない。
 カズマはゆっくりとソファから体を起こした。
 もう自分から視線をそらし、今尚生真面目に答えを探している彼に気が付かれぬように、そっとその背後に忍び寄る。

 がしっ。っと勢いよく彼の首に腕を絡める。
 椅子に座っている劉鳳の頭が自分の視線よりも下になる。目に写る碧い鮮やかな髪は自分のそれとは違ってさらさらときれいで…たくさんある彼の中のお気に入りの一つだった。
 自然と柔らかな笑みが浮かぶことが分かる。

 まずはぎゅっ、と彼の後頭部が自分の胸の中に包まれるように抱き締める。劉鳳の背中は椅子の背もたれにあたっていて、それはそれで好都合。
 頭を両手で挟んでぐいっ、と首を後ろに引っ張る。
 椅子の背凭れのおかげで劉鳳が転ぶことはなかった。

 まず目に飛び込んできたのは柔らかそうなふわふわとしたあか。
 何が起きたかわからずに、いまだ働かない頭は相変わらずのままに。次に飛び込んできたのはきれいなきれいな琥珀色。
 それはひどく楽しそうに輝いていて、ひどく優しい色をたたえていて。
 思わず母親の胸に抱かれているかのような心地になり、目を僅かに細めた。
 その途端。

 ちゅっ。

 語尾にハートマークがついていいかもしれない。
 そんなかわいらしいキス。
 自分の額に。

 一つ一つ。
 単語がぽんぽんっと思い浮かんで、ゆっくりとそれがつながって。頭の中で映像になって。
 劉鳳はそこでようやく、自分の身に起きたことを理解した。

 がばっと、勢いよく体を起こせば、自分の頭を支えていた手は思うよりも簡単に自分の頭を解放した。後ろの方から抑え切れない笑い声が洩れて聞こえる。
 顔がやけに熱かった。

「くっくっく。その顔…」

 熱を持った頬をなんとか冷まそうと手を当てながら、楽しそうに笑う少年に目を向ける。
 恨めしそうな深紅を瞳を向けられるも、しかしカズマはそれすらもが楽しいらしい。さらに笑い声がその口から洩れた。

「なんなんだ…いったい……」

 カズマはいつも思いつきで行動をする。
 そしてそれは自分が理解できないものであることのほうが多い。
 素直に聞いてしまう方が理解は早いが、はたして自分の求める答えをくれるかどうかはその時々のカズマの心次第だ。
 今回、彼の心は穏やからしかった。

「欲しかったんだろ?」

 瞳を細めて楽しそうに云ってくる。
 何が云いたいのか分からないが、どうやら悪意を持ってやったわけではないらしい。このまま口を開きさらに理由を追求するべきか、それとも黙して待つべきか。
 劉鳳は後者を選んだ。

「いつもじゃいい加減いやになるけどな。疲れてるみてぇだし…たまになら、いいぜ」

 カズマはそこで一端言葉を切り、彼独特の挑発するような視線を劉鳳に向けて云った。
 上目遣いのような、覗き込むようなその視線。
 甘い蜜菓子のようにとろける色の瞳。きらきらと輝く、まるで子供の瞳のような明るさと、そこには決してない人を惹きつけてやまない魅惑的な艶。
 劉鳳は息を呑んだ。
 そんな劉鳳の様子に、カズマはにやりと笑って言葉を紡いだ。

「甘えさせてやる」

 一言。
 それが劉鳳の頭の中で理解されるのにしばらく時間がかかった。
 理解した途端、何よりも体が正直に動いた。

「おわっ」

 突然椅子から立ち上がり抱き締めてきた劉鳳に、カズマはバランスを崩しかけて声を上げた。
 背中には自分よりも幾分大きな手。身長はたいして違わないはずなのに、なぜこんなにもすっぽりと包み込まれるように抱き込まれてしまうのか。
 その体格差を目の当たりに突きつけられているような気がして、カズマは僅かに口を歪めた。
 しかし、すぐにそれは優しさに満ちた笑みに戻される。

 ぎゅっと自分を抱き締めて放さないその人の頭になんとか腕を伸ばし、ぽんぽんと、優しく撫でてやる。そうすれば、彼は抱き締める腕の力を更に強めて、肩口にその頭を押しつける。
 それがかわいいと思ってしまうあたり、自分もおしまいかな…とか思いながら、しかし笑みは消えない。
 そっと目を閉じれば、彼のぬくもりと鼓動を直に感じることができた。
 それが何よりも嬉しい。

「劉鳳」

 優しく名前を呼べば、彼の体がわずかに離れ、今度は彼からのキスが降りてくる。
 額ではなく。
 その唇に。

 やわらかなそれに触れながら、二人は互いのぬくもりを確かめあった。





 何もかもなくなったらしい。
 随分と酷い世の中になったらしい。
 とても住み難くて、苦しい場所になったらしい。

 でも、そんなのは知らない。
 生まれた時からこうだから、そんなのは知らない。

 つらいとか、苦しいとか、痛いとか。
 お腹が物凄く空いたり、なんだかわからないけど物凄く寂しかったり、悲しかったり。
 いっぱいいっぱいあったし、今も変わらずにあり続けるし、ここではないここからすぐそばの世界がどんなところか知って憤ることがあっても。
 やっぱり、そんなのは知らない。

 だって、こんなにも世界は温かい。
 つらいのと同じくらい。ううん。それ以上。
 世界は温かい。
 彼は温かい。
 自分の心が温かい。


 きっと、それでいいんだと思う。
 うん。
 きっと、それでいいんだ。

 あなたに会えたことがはじまり。
 それで世界が回り始めた。
 止まってしまった世界が、再び動き出した。





 あなたに会えたこと。
 あなたと私が出会ったこと。

 きっと、それがはじまり。

 それでいい。
 それで十分。

 だって、こんなにも満たされているのだから―――。










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 あとがき +-----------------------------------------------------

 残暑お見舞い配布小説です。スクライドで劉カズvv
 できました~。でもぼろぼろです~。
 ってか、残暑お見舞いであってるのかな~。
 ……ふざけた言葉づかいで申し訳ありません。
 なんか自分の中ではそれはもう、砂吐きそうなくらいに(原作思いっきり無視して?)甘々なんですけど…ど、どうでしょう(どきどき)
 もしよろしければ貰っていってやってくださいです。コピぺでどうぞ。
 今回劉鳳さんがへタレ(いつものこと?)です。なんか随分と久しぶりに劉カズを書いた気分。なんか最近劉カズは妄想が一人歩きしすぎて文にならないんです(泣)
 ウウ…かなりつらいです。いっぱいいっぱい書きたいのに。
 リハビリも兼ねてます。コレ。劉カズでなくて小説そのものの。

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