+ 10年目の真実 +










 彼らがその姿を消して…10年の月日が過ぎました。

 彼ら本人からの音沙汰はまったくありませんでしたが、時々その姿を目撃されたと話題が上ることがあり…それ以上に、信じていたから。
 不安ではありませんでした。
 いつかまた会えると、信じていました。

 でも…これは予想外です。





 アルター能力者が多く暮らすこの村は、けれど特別荒れているわけではなく。むしろのその逆で、実に穏やかな日常を過ごしていた。
 経済的にも食料的にも恵まれ、ロストグラウンド復興の中心地ともなっている。

 そんな穏やかな村に、一台のバギーが訪れた。
 随分長いこと使われているらしいそのバギーは、本土から見れば古い型になるだろうが、このロストグラウンドではまだまだ十分高価なものだった。

 村人達はなんの前触れもなく訪れたそのバギーに興味津々だ。
 これが他の村であれば、もしや乱暴を働くアルター能力者などが襲いにきたのか…と、警戒し怯えるところだが、生憎この村にいるアルター能力者はみな超一流だ。
 幾度となく襲われたがその度に余裕で撃退してきた頼もしい味方。怯える必要がなかった。

 そんなこんなで話は戻る。
 一台のバギーがその村を訪れたのだ。

 村人達が見守る中、バギーの運転席側の扉が開かれる。
 そこから姿を現した人物に、村人達の誰もが息を飲み、もしくは目を見開いて絶句した。

 真っ直ぐに背筋の伸びた長身の男性。二十代後半だろうと思われるその男性の髪は碧で、瞳は深い深い紅。本来ならば相反するその色が違和感なく共存しているその人物は、この村の大半の人間がよく見知っている。
 人々の群れの中から一人の女性が飛び出した。

「劉鳳…っ!!」

 声を詰まらせ、転びそうなほどの勢いで走り寄り、その男性に抱きついたのは男性と同じ年ほどの、長い黒髪の美しい女性だった。
 男性は自分の胸に飛び込んできたその女性を難なく受け止め、優しくその身を抱きとめる。
 女性が涙の滲んだ顔を上げれば、そこには愛しい、懐かしい男の…優しい微笑。

「水守…久しぶりだな……」
「劉鳳……」

 女性が声を詰まらせて発したそれこそが、男性の名だ。
 女性の名は桐生水守。
 水守がさらに何事か言葉を発しようとしたその時、しかしその声は別の声―――水守よりもさらに高音の少女の声によって遮られた。

「カズくん!!」
「よぉ、かなみ。でかくなったな」

 人垣の中から現れたのはまだ十代後半の少女だ。長い栗色の髪と、愛らしい翡翠の瞳。一目見て人の注意を引くその顔立ちをもってして、彼女を美少女と呼ばずにおいておくのは難しい。
 少女は劉鳳と同じくバギーから新たに姿を現した人物に向かって駆けて行く。
 水守が劉鳳にそうしたように駆けて来る少女に、その人物は片手を上げて応えた。

 駆け寄ってきた少女――かなみの頭を、その人物はわしゃくしゃと掻きまわすように撫でた。
 変わらないその態度にかなみの表情には微笑がのる。
 かなみの頭を撫でる「カズくん」と呼ばれたその人の正式な名は「カズマ」。赤茶けた髪と、今もう隻眼になってしまった琥珀の瞳。細身のその体躯。どれもがかなみの記憶のまま、今この目の前にある。

「カズくん、逢いたかったよ。ずっと、逢いたかったんだよ」
「あ〜、悪かったって」

 目元にうっすらと涙を溜めて、それでも微笑を浮かべて云うかなみに、カズマはばつが悪そうな、頭があがらないとでもいった様子で返す。
 そんなカズマの態度に、かなみは嬉しさにさらに笑みを深くする。
 彼等を取り囲む村人達も、そんな様子を温かく見守っていた。
 と。

「う〜ん、ついたの?」

 バギーの開いたままの扉から幼く舌ったらずな声が響き、人々の目がバギーから降り立った人物より外れてバギーに向き直る。
 人々が固唾を飲んで見守る中、まったく動じることもなくバギーに向かうのはカズマだ。
 自らが下りた助手席ドアより中に頭を突っ込み、声をかける。

「よぉ、起きたのか」
「うん…起きる……」
「…蓮華(れんか)起きて」
「ああ、いいって、火焔(かえん)。寝かせとけ」
「でも…」

 バギーの中より響いてくるのは寝起きの子供のものだとわかる声とカズマの声とのやり取りだ。
 声の主はいまだ見えない。
 ごそごそと何かが蠢く気配。
 交わされるやり取りは子供の戸惑うような、躊躇うような声音によって吐かれた台詞が遮られてひとまず終止符を打った。
 遮ったのはバギーの外より発せられた次の言葉。

「火焔。気にしなくていい」

 この言葉。
 いつの間にかバギーに歩み寄って来ていた劉鳳はそう云い、バギーの奥に上半身を潜り込ませて何かを抱えて出てきた。

 劉鳳の腕の中に収まっているもの。
 それは人間の子供だった。……しかもなにやら見覚えのある赤茶の髪が覗いている。
 周囲の人々が背中に嫌な汗が流れるの感じつつもなお見守っていると、続いてカズマに手を引かれてバギーから下りて来たのは、まだ眠たそうに目を擦っている子供。
 その子供の姿を見、人々は今度こそ目を見開いた。ついでに口も。

「あ、あんた達!!揃いも揃ってどういうことだい!!こんなに可愛い女の子たちが待ってるってのに…いったい誰に産ませて…!!〜おおかたその子達の母親に逃げられて、水守さんとかなみちゃんを頼って来たんだろうけどね、そんなことが許されるなんて思わないことだよ!!!」

 暫らく続いた沈黙の後で、それを打ち破るようにして村のどこぞのおばさんが勢い良く捲くし立てた。後ろの方で他の人々も腕を組み組み、うんうんと神妙そうに首を上下に振っている。
 劉鳳とカズマの前にはかなみと水守の戸惑った表情。

 そんな周囲の反応も何のその。
 カズマが胸をそらせて轟然と言い放った。

「あに云ってんだ?こいつらは二人とも正真正銘、この俺が産んだガキだぜ」


 …………………は?


「うら、自己紹介しろ」
「えっと、火焔です。6才です。はじめまして」
「んで、そっちの今劉鳳に抱かれて眠ってるのが蓮華な。火焔と同じ6歳でこいつら双子」

 あまりの展開についていけてない人々を他所にカズマが簡潔に紹介する。
 碧の髪に深紅の瞳。劉鳳そっくりの男の子の名前は火焔。
 赤銅色の髪に琥珀の瞳。カズマそっくりの男の子の名前は蓮華。
 正真正銘、双子の兄弟だ(こんなことあるはずないって?所詮は煩悩まみれの腐女子が書いた小説なんだから突っ込みは禁止です。なんでもアリですよv/爆)

「まあ、俺と劉鳳の間にガキができるっての思えねぇってのはわかるけどよ、女の俺が女にガキ産ませられるわけねぇじゃねぇか」

 何バカなこといってやがんだ。
 と、お馬鹿にバカ呼ばわれされた皆さんはそんなことに怒りを覚えることすらできない。
 ぽかんと口を開けたまま、漸く言葉を発することができたのは、見た目とは裏腹に強靭な精神力の持ち主であるかなみであった。

「えっ…カズくん……女の人、だったの?……」

 かなみの台詞を責められるものは、誰もいなかった。





「やっぱりか、おれはぜったいそうだとおもってたぜ」

 これはその後、蓮華くんが語った言葉です。
 彼は火焔くんと自分たちのお母さん…つまりはカズくんがきちんと女性として認識されているかを賭けていたようなのです。
 蓮華くん、大勝利です。

 それにしても…。
 これは、あまりにもあまりな真実だとは思いませんか?

 それでも、好きなんですよね。










----+ あとがき +-----------------------------------------------------

 もしかしたらシリーズ化するのかもしれない予感がひしひし(生活シリーズの例あり=完結しきれてない)のこのお話。とりあえず、もう一個くらい続きは書かなければならないとは思っています(この終わりはあまりにも)
 思いついた時は時間がなく、とりあえず書けるだけでも書いておけば覚えてるかな〜(というか思い出せるかな〜)と思って油断していたのがいけなかったです。まるで覚えていませんし、思い出せたとしてもうろうろ〜としか思い出せない!!(記憶力がほんとに落ちてきてるらしいです。以前はもうちょっとは!!)
 なので思ったよりも書き上げるのに時間がかかった上にさり気なくも何ともなく中途半端なこのお話(ついでに入れようと思っていたエピソードも上手く入れられなくなって削り削りで修正したら当初の予定とは微妙に違う終わりになり)は読んで下さった方ならもう丸解り。またもや女カズマです。劉鳳とカズマの子供さんでっちあげです。もうこの裏部屋そればっかりです。
 こんなページでも存在していていいですか?(いや、マジで)
 それでは、ご意見ご感想頂けたらありがたいです------------2002/11/05

-------------------------------------------------------+ もどる +----