+  ぷちカズ育成記 出会い編 +






ちっちゃくてかわいいもの、み〜つけた。










 暑い夏の日のことだった。劉鳳はめずらしく、仕事からの帰宅の手段に徒歩を選択していた。特に意味があってのことではない。ただなんとなく、荒野の様子を見て歩きたくなったのだ。
 あるいは、いつも気に止めてやまないあの銅い髪の彼に出会える確立を増やしたかっただけなのかもしれない。

 埃を巻き上げて乾いた風が、彼の髪を揺らして吹き抜けていった。横から吹きぬけてきた風に僅かに目を眇めた彼は、しかし風を隠れ蓑にして自分に向かってくる敵意に反射的に対応していた。
 右腕を振り上げて一撃を弾き、すぐに臨戦態勢に入る。
 注意深く辺りを見渡すが、敵の姿は見えない。いぶかしみ始めた時に、不意に下方から溢れ出した殺気にあてられて、これもまた反射的に視線をやった。
 そこには猛スピードで突っ込んでくる銅と金の影。
 思わずある男を思い浮かべ、劉鳳の動きが鈍くなったところを、その影は見逃さなかった。



 ずん…っと、腹に衝撃が走る。劉鳳は僅かにうめき声を洩らし、腹に手を添えた。
 すぐに注意深く前方――影が着地したと推測される地面に目をやり、あまりの衝撃に思わず目を見開いた。

「カズ、マ…?」

 そして思わず呟いた。
 そこにいたのは彼の思い人(そのアルター装着時)をそのまま手のひらサイズのぬいぐるみにしたかのような小さな人間(?)【カッコはてな】だった。

「かずま?なんのことだよ、いったい」

 カズマそっくりの小さな人間(?)はいぶかしげな表情と口調で返した。どうやら人の言葉は理解できるらしい。
 しかもその台詞からこの小さな人間(?)が、カズマではないらしいということも明らかなになった。明らかな担ったところで、むしろその方が不思議に思えてしまうのは少々危険だろうか。なにしろその小さな人間(?)の服装までもがカズマと同じなのだ。

「カズマではないのか?」
「だから、かずまってなんだよ!!」

 注意深く劉鳳は重ねて訊れば、返ってきたのはこれまたカズマだとしか思えない反応と台詞での完全否定。
 劉鳳はますます眉を顰めた。

「それよりもなんかくいもんよこせ!!」
「…お前、何者だ?」
「んなもんしるか!!それよりくいもん〜!!」
「名前は」
「んなもんしるか!!はやくくいもんだせよ〜!!」

 これ以上質問しても埒が明かないと考えたのか、劉鳳はため息を一つつくと上着のうちポケットに手をやり、非常食用に装備が義務付けられている携帯食を取り出した。
 取り出した瞬間、それこそその腕を差し出す隙も与えずに、劉鳳の顔を掠めて銅と金の影がそれを奪い去っていく。ものすごい跳躍力だった。
 それは先ほどと同じくらいの位置に危なげなく着地すると、一生懸命に封を切ろうとして悪戦苦闘する。
 劉鳳から見れば小さな携帯食は、それから見れば自分と同じサイズの巨大な食べ物だ。うまく封が開けられないのも仕方がないのかもしれない。あるいはただその不器用さも、劉鳳がよく知るあの男と同じであるというだけなのかもしれなかった。
 どちらにしても、その様子は劉鳳の微笑を誘うものだったが、次の週間には再び瞳を驚愕に見開く事となる。
 それがアルターを解除したのだ。

「だ〜!!これじゃあけらんねぇ!!」

 そう叫んだかと思ったとたん、強化された右腕も逆さに立ち上がった赤茶の髪も、背中の羽も消えて、その姿はやはりあの男の本来の姿をそのまま小さくしたものとしか思えない。
 ようやく袋を開けられたそれは、満面の笑みで携帯食にかぶりついている。
 食べかすを口煮の周りにつけて、はぐはぐと一生懸命に携帯食を頬張るその姿を眺めているうちに、劉鳳からは驚愕の思いが消え去っていき、代わりに別の感情が湧き上がってくる。
 それは純粋な欲求だった。

 ―――欲しい。

 劉鳳はそれがものすごく欲しくなってきた。それはもう、子供がお菓子やおもちゃを欲しがるのとまったく同じ感覚で。
 一生懸命に携帯食を頬張るそれにおもむろに近づきその襟首をつまみ上げた。
 せっかくの食事を邪魔されたそれはもちろん怒り心頭だ。臆面もなく劉鳳を睨みつけて文句をぶつける。

「おい、てめぇ!!なにすんだよ!!」
「…ぷちカズマだ」
「は?」
「お前の名だ」
「はぁ?なまえってなんだよ!!かってにきめるな!!」
「おれとこい」
「ふん!!やだね!!おれはひとにめいれいされんのがいちばんむかつくんだ」
「…めしにはこまらん」
「まじか?!」
「ああ」
「…ぷちかずまって、なんだ?」
「お前の名だ。名前とは自分が自分であることを表すものだ」
「ふ〜ん…。じゃあおまえにもあるのか?その、なまえってやつ」
「ああ、おれは劉鳳だ」
「ふ〜ん、りうほうか。へんなの」
「…劉鳳だ」
「りゅうほうだな。おっけー、きざんだ!!」

 ぷちカズマ。略してぷちカズのその台詞に劉鳳は目を丸くして、それから微笑んだ。なんだかよくわからないが、すごく嬉しかった。
 ぷちカズマは思わず見惚れた。自分がいまだ襟首を持ってぶら下げられている体勢だということも忘れ、それがあまりにきれいで見惚れてしまった。すぐに我に返って、慌てて両腕をじたばたと動かす。ぶっちゃけ照れ隠しだった。

「は、はやくおろせ〜!!」
「―――ああ、すまなかったな、カズマ」

 劉鳳が襟首を離し自分の肩のおろしてやると、ぷちカズマは不思議そうに首をかしげた。

「かずま?おれのなまえはぷちかずまだろ?」
「長いから略した」
「なまえはりゃくしてもいいのか?!」
「長いときはな」
「りゅうほうは?ながいからりゅうでいいか?」
「俺の名前は長くないから略す必要はない」
「ふ〜ん、そうなのか」
「そうだ」

 くるくるとよく動くぷちカズマの表情は、カズマそのものだった。むしろ「カズマ」と命名しても良かったが、それだと本物の「カズマ」を手に入れたときに呼び名に困る(ちなみにカズマを手に入れることは劉鳳にとっては決定事項だった)。
 しかし、今カズマとぷちカズマのことを呼んでいると、後々になってからややこしくなるかもしれない。劉鳳はしばらく逡巡し、それから口を開いた。

「しかし名前を略すのはたしかにあまり褒められたことではないな。ぷちカズマときちんと呼ぶことにしよう」
「ふ〜ん。まぁ、どっちでもいいけどな」

 ぷちカズマは劉鳳の肩で器用にバランスをとって座っている。どうやらかなり気に入ったようだ。

「それよりめし〜。くいもん〜」
「わかった。帰ったらすぐにうまいものを食べさせてやろう」
「ほんとか?!」

 目をキラキラさせて劉鳳の顔を覗き込んで尋ねてくるそれに微笑とともに頷けば、ぷちカズマは両手を挙げて歓声をあげた。

 いい拾い物をした。

 劉鳳は至極満足しながら、家路に着いたのであった。












きみにめろめろvv










----+ こめんと +-----------------------------------------------------

 ごめんなさい。許してください。こんな奴ですが、最近は「旅立ちの鐘がなる」的な雰囲気のスク話が書きたくて仕方がないなどという誇大妄想を抱いています。誰かヘルプミ〜。
 これを書く前に「みみとしっぽとふわふわで/4」を書こうとして二時間掛けて一行も書けず断念。それに比べてこの話のなんとスムーズな書き進み具合なこと。
 ちなみに。このお話の設定はアニメでは劉鳳の記憶がぶっ飛ぶ前です。カズマはカズマでぷちカズマとは別にちゃんといますし、君島、シェリスも健在です。ぷちカズマとカズマが出会うところまで書くつもりだったんですけど…力尽きました(ばたんきゅ〜)。ぷちカズは(これから)劉鳳大好き(になっていきます)ですvvそれを見て普段は劉鳳を煙たがっているカズマがやきもちやいちゃったりvv(バカ)。続くか続かないかはさっぱりわかりませんが(殴)。妄想だけはいっぱいいっぱいvv(蹴)
 ご意見ご感想ありましたらぜひお寄せ下さいです---2003/11/29

-------------------------------------------------------+ もどる +----