+  朝も昼も夜も +





 風が吹けば目を覚まし、そっと空を見上げてみる。空の青が写る前に、もっと鮮やかな碧が視界に映った。
 風に吹かれて揺れている。空の青を侵食して。

「りゅう…ほ……」

 腕を伸ばして、声を出して。
 腕は酷く重かったし、声は酷く嗄れていた。
 それでも、彼は自分の伸ばされた腕に気づいてくれるし、自分の声に振り返ってくれる。

「起きたのか?カズマ」

 こんなに気持ちのいい陽気は久しぶりだった。
 だから、ちょっといろいろ軋(きし)む体を起こして歩く気になった。
 もちろん、忙しい彼の腕をむりやり引っ張って。
 そしたらすっごい明るい緑の原っぱを見つけてしまった。
 思いっきり、倒れこんだ。
 仰向けに。

「腹、減った」

 云えば、彼は嬉しそうに笑った。
 しょうがないなと、呆れたような苦笑で、でも、嬉しそうに笑った。

「まだ夕飯には早いな」

 知っている。
 陽(ひ)はまだ高い。朱くもなっていない。
 実を言えば、お腹はそんなに空(す)いていない。というより、いつも飢えている。
 満足するのは食べてるときと、その直後だけ。
 本当に欲しているのは食べ物ではないのは知っている。
 ただもう。
 とにかく。
 何かに飢えている。

「カズマ?」

 伸ばした腕で袖を引いたら、不思議そうに呼ぶ声。
 くいくいっと、引き続ければいつもみたいに微笑んでくれる。
 ころんっと隣に転がって、きゅっと優しく抱きしめてくれる。
 その胸の中にすっぽりと抱き込まれてしまうのはなんとなく悔しい気もするが、それ以上に気持ちがいいから、目を閉じる。
 彼の心音が耳に心地いい。

 これで、また眠れる。


 風が吹く。
 肌を突き刺さない、暖かい優しい風だ。
 陽が肌を焼く。
 ちょうどよい暖かさに。
 草が生える。
 冷たい地肌を心地良く覆い、寝るには丁度いい。

 でも、ずっと何かが足りなかった。
 だから、すぐに目が覚めてしまった。
 今度は、ちゃんと揃ってる。




 ――――あったけぇ。




 何が嬉しいのか分からないが、微笑っていた。
 ひどく満足そうに。
 嬉しそうに。


 眠るのは怖い。
 地面は硬いし冷たいし、風はどんどん体温を奪っていく。
 落ちていく体力を自覚している内はまだいい。
 そのうち、それさえもわからなくなる。
 眠りは、その後に来るものだった。


 人肌は、この身を切り裂くものだった。



「りゅうほう…」

 呼べば、彼が嬉しそうに微笑んで見つめてくるのがわかる。
 なんだかいろいろ軋む体を引き摺ってきて、なぁ、良かっただろう?
 すっげぇ、気持ちがいい。

 次に起きたときは、一緒に食事にしよう。

 いつだって、飢えているのだから。











    朝も昼も夜も。
    いつだって、あなたと一緒にいられたら。














----+ こめんと +----------------------------------------------------

 短すぎてごめんなさい。
 同日にこれの他にも一本ss書いたので、それとこれとでいつもと同じくらいの長さ(たぶん)。
 そ、それでどうかお許しを!!(…ジャンル違うけど)。
 ご意見ご感想お待ちしております_2004/03/06

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