+ ねこのしっぽ +
ゆらゆらと揺れているそれを、狙うように見つめる一対の眼差し。 それはソファの上に座してる。背もたれに顔を向けて、こちら側に背を向けて。垂れる尻尾はゆらゆらと揺れる。 カーペットの上に座り込んで、目の前にあるそれを見ている。 左右に揺れるその動きを追って動く瞳。その色は光に透かしたときのような琥珀色。ストレートの銅い髪は短く切り揃えられている。 しっぽ。先端は黒。その他は白。本体も白。でも手足の先は黒。 しっぽ。猫のしっぽ。 揺れるしっぽ。 見つめる瞳。 むぎゅ。 小さな手がしっぽを握り締めた。 にゃぎゃー!! 猫の反撃。 鋭い爪がぎらりとひらめく。 ざしゅっ。 肉の抉れる音がした…かもしれない。 血は流れない。 頬に走った三本の爪痕。 あまりの驚きに声音でない。 なんだかじわじわ痛み出してきた。 思わずしっぽを離してしまったので猫はもうすでにどこかへ走り去った後。 あーー、痛ぇーーー。 「あかあさ〜ん」 なんだか頬がものすごく痛くなってきたので、母親のもとへ走る。涙が出てきた。声も涙声だ。 「ん?」とばかりに振り向いた母親は、振り返ったと同時に顔を引き攣らせた。 そして。 ばしんっ。 小気味のよい音。 頭を叩(はた)かれた。 拳骨でない分マシか? 首がめり込む代わりに頭が宙に投げ出されるように揺れた。 頬の痛みよりも頭にひっぱられた首のほうが痛い。 「バカか、てめぇわ」 母親の開口一番の台詞。 「そんなもんなめときゃ治る」 傷の手当てはしてくれなそうだ。 化膿したらどうしよう。 手当てをしてくれる当てはある。 ……面倒くさいからいいや。 ほっとけ。 その夜。 寝静まる自分の部屋は暗い。 壁一枚隔てた隣の部屋から両親の怒鳴り声が夢現(ゆめうつつ)に聞こえてきた。 「カズマ!!あの傷は何なんだ?!」 「ああ?見りゃわかんだろ。猫にでも引っ掻かれたに決まってんだろうが」 「そんなことは聞いてない!!なんであんなに深い傷をそのまま放置しておくんだ!!」 「あのくれぇのケガならほっときゃそのうち治るに決まってんだろうが!!」 「もし大事にでもなかったらどうするつもりだ!!」 「なってねぇだろうが!!」 「せめて水守かかなみにでも診てもらってくるように云え!!」 ぎゃいのぎゃいの。 夫婦喧嘩は犬も食わない。 子供も口は挟まない。 だって。 「うっせぇ!!一日中家にいねぇくせに、こんなときばっか偉そうに云うな!!」 「なっ!!…家にいないのは仕事に出ているからだろう!!」 「仕事仕事って、いっつも一人であいつのことみてるこっちの身にもなりやがれ!!」 いっつも、いっつも。 ここは家族三人の家なのに。 いっつも、いっつも。 二人しかいない。 「……すまない」 「わかりゃぁいいんだよ…バカ劉鳳」 「ああ。……本当にすまなかった、カズマ」 だってほら。 らぶらぶ。 一生やってろ。 ってな感じで。 壁一枚隔てた隣の部屋。 聞こえてくる音から避けるように、寝返りを打った。 |
----+ こめんと +----------------------------------------------------
誰視点?――一応、「互い、存在、二人で」の設定を引き摺ってるかも…しんない……。 ご意見ご感想お待ちしております_2004/03/27 |
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